文:近藤奈緒子
写真:藤田りか子
ノーズワークスポーツクラブの推進メンバーである近藤奈緒子さんによる「北欧、犬をめぐる旅シリーズ」その5をお届けいたします。これまで北欧のノーズワークを存分に楽しんだ近藤さん。次に目にしたのは、全く別のタイプのドッグスポーツ、ガンドッグ競技会!さて、そこでの印象はどんなものだったのでしょうか。こちら2回シリーズにてお届けします。
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インターナショナルワーキングテスト(IWT)
スウェーデンのノーズワーク状況をしっかり視察した後、りか子さんはガンドッグの国際大会であるインターナショナルワーキングテスト(以下、IWT)の観戦に行こう、と誘ってくれた。テストというと試験をイメージするところだけれど、これは試験ではなく競技会だ。偶然にも、今年のIWT2023はスウェーデンが初めて開催国となる記念すべき大会。会場はりか子さんの家から250kmほど離れたヴィングオーケという町にあるシェセーテル城。ヨーロッパ各国で予選を勝ち抜いた凄腕のハンドラーとレトリバーが一斉にスウェーデンに集まるという。心が惹かれた。結果的には存分に見学できたし、大いに刺激を受けたり驚きや発見の多い体験となった。見に行けて幸運だったと思う。
日本に住んでいて、レトリバー種と暮らしているのでもなければ、ガンドッグのワーキングテストを知っている人はほとんどいないのではないだろうか。それぐらい一般の人にとって縁遠いドッグスポーツだと思う。今回のIWT2023の会場でも、我々以外アジア人は一人もいなかった。私の場合は、ドッグトレーナーをしながらトラッキングやトレイリングといった嗅覚作業について勉強していたので、競技の名前やどんなことをするのかぐらいは15年以上前から知っていた。しかし自分とは無縁だと思って興味を抱くことはなかった。
そこから少し興味を持ちはじめたのが5年前。初めて北欧訪問した際に、デンマークのフィールド系ラブラドールのブリーダーの所で、ガンドッグのトレーニングを見学した。その時にりか子さんの普段の練習の様子を見たり、ダミーを投げたりするのを少し手伝った。それ以降、デンマークで教えてもらったことを思い出し、犬曰くの記事を読んで、レトリーブが大好きな愛犬やんばる(和犬MIX)と共にトレーニングのバリエーションの一つとして取り入れながら遊んでいた。
デンマークにてガンドッグのトレーニングを見学した。
習ったことを思い出しながら、愛犬やんばるとガンドッグの練習をやってみた。(Movie by Naoko Kondo]
ガンドッグのワーキングテストでは、ハンドラーの指示通りの方向に犬が真っ直ぐに走っていき、回収すべきダミーを嗅覚で速やかに発見、ダミーを咥えたら一直線にハンドラーの元に戻り、静かにかつ確実にハンドラーにダミーを手渡す所までが求められる。本当は撃ち落とした鴨等の回収のための競技なのだが、ワーキングテストで使われるのは、本物の鳥の代わりに布で出来た、500gほどの重さの練習用布製回収物(ダミー)を使用する。
犬が指示と違う方向に行ったり、手前で止まったり通り過ぎてしまったりして、修正のために笛や声で指示を沢山出すとどんどん減点されていく。ハンドラーの指示と違うダミーを持ってきたり、一定の時間が過ぎても発見できず、ジャッジに犬を呼び戻すように言われた場合は0点。ガンドッグについては素人同然であり専門外なので、これくらいにして話を元に戻す。
会場についた!
会場に着くと、競技会は開催されているはずなのに、目立つ看板もなく案内もなかった。スタッフらしき人も見当たらず、会場近くでレトリバーを連れたファミリーに尋ねたりしながら進むと、駐車場に到着した。車を降りてからも、案内板らしきものは見当たらない。
スウェーデンのお城はイギリスやドイツのような煌びやかな建物ではなく、貴族の別荘として建てられた割と普通の建物だった。その前にIWT2023という旗が2本立てられていたので、ここが会場であることは間違いなかった。りか子さんと、どっちかなあ?と言いながら歩いていると、同じようにどっちへ行こうか?と、ウロウロしている女性2名がいた。そのうちの一人のすらりと背の高い女性の顔に見覚えがあるなあ…と思ったら、来日経験のある北欧のカリスマドッグトレーナー、エヴァ・ボッドフェルト(Eva Bodfäldt)さんだった。りか子さんとエヴァはお互いに気がつき「あ〜久しぶり!」と言いながらハグしていた。エヴァさんは、この日、スウェーデンチームの応援に来たのだと言う。
会場についたらスウェーデンでとても有名なドッグトレーナー、そして何回か来日したことがあるエヴァ・ボッドフェルトさんに出会うことができた!
遠くに人の固まりが見えたので、4人でそちらへ歩いていくと番号が書かれた立て看板があって、その周りに人や犬が集まっていた。番号は10個あるテストステーションのうちの1つだと分かった。どうやら無事辿り着くことができたようだ。見学は自由だったので、ギャラリーらしき人たちがいる所で静かに見学を始めた。1日に5個のステーションをこなし競技は2日間に渡って行われる。私達が訪れたのは2日目で、順位は2日間の全ステーションの合計得点で決まる。
今回の大会に出場していたのは、FCI加盟国のヨーロッパ13カ国、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、フランス、イタリア、スイス、ハンガリー、ドイツ、ベルギー、オーストリア、オランダ、エストニアだ。それに、代表チーム以外のフリーチームが加わり、計39チームがエントリーしていた。国ごとに3ペア1チームのチーム戦で、3ペアの合計が得点となるので、3人3頭の総合力が求められる。国際大会というだけあって、応援に来場している人も沢山来ていたし海外からのメディアも来ていた。
出場している犬種は圧倒的にラブラドール・レトリバーが多く、次がゴールデン・レトリバーで、フラットは少数派という感じ。1頭だけ、カーリーコーテッド・レトリバーもいた。りか子さんは、「カーリーでガンドッグにエントリーできるなんて、凄すぎる!」と、感心し驚いていた。カーリーコーテッドは同じレトリバー種でも訓練のしやすさが、ラブラドールとは全く異なるというのは聞いていたが、エントリーの犬種の比率をみてもやはりそれは事実なのだろう。
文:近藤奈緒子(こんどうなおこ)
ドッグトレーナー。SCENT LINE(セントライン)代表。2006年より東京を拠点に各地に赴き、出張トレーニング、シッター、ドッグウォーク等を行う。犬の持つ才能を活かしたいという思いから、2002年より嗅覚を使ったアクティビティや、家庭犬向けのドッグトレーニングを学び始め、2018年より北欧流ノーズワークに力を注ぎ、ノーズワークスポーツクラブ(JNWSC)の推進メンバーとして設立に携わる。愛犬は沖縄で保護された琉球犬Mix 名前はやんばる♀ 2014年11月生。http://www.scentline.jp/
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