スウェーデンルールによる日本初の公式ノーズワーク競技会、大成功!

文:藤田りか子

写真と協力:JNWSC(ジャパンノーズワークスポーツクラブ)、藤田りか子

クラブ推進メンバーの努力の結晶

「コロナが収束すれば、海外のオフィシャル・ジャッジを招待するなどして公式の競技会も開催されるはずだ」

と、2年前の記事「日本のドッグスポーツ界がまたおもしろくなる – ノーズワークスポーツクラブが発足!」で将来の夢を語ったものだ。そしてそれは果たして現実のものとなった。ありとあらゆる困難を乗り越え、ジャパンノーズスポーツクラブはついにやり遂げた。スウェーデンからジャッジ、ピッレ・アンデションさんを招き、悲願の公式ノーズワーク競技会(NW1)をさる11月2日、伊豆稲取にて開催。競技は大成功!13人の参加者、そして3人のディプロマ(満点獲得の際にもらえる証書)授与という結果となった。

ここまでに至るには山あり谷あり。公式競技会のためのルールを作るだけで3年以上もの歳月を費やした。ターゲット臭についても日本独自のものを採用するために、ノーズワークスポーツクラブ推進メンバー(以下推進メンバー)の間でディスカッションと検証が重ねられた。その他にもクラブの枠組みを作るための煩雑な作業、ノーズワークの魅力を犬の飼い主コミュニティにアピールするためのありとあらゆるPR作戦、メンバーが集まり交わされた100を超える会議…。今回の公式競技会の実現はまさにこれら努力の結晶ともいえる。推進メンバーの一人、浜塚紋子(はまつか あやこ)さんは

「スウェーデンからジャッジを呼んでの競技開催は実現するのだろうか?と思っていたので本当に現実のものになったことに驚きました」

そうなのだ。推進メンバーですら実は半信半疑、手探りの中で作業をこなしてきた。

そもそも競技会の開催場所を探す、ということですら日本では決して容易なタスクではない。何しろノーズワークには、屋外のサーチのみならず屋内のサーチもある。いい物件が見つかったと思っても車両サーチをするスペースがなかったり、広いフィールドが見つかっても今度は屋内のサーチをするための建物がなかったりする。さらには競技者全員の車を収容できる広い駐車場も必要だ。推進メンバーの大きな動力源でもある近藤奈緒子さんは、競技会場の選出に文字通り「汗を流しながら探した」という。暑い最中、開催地候補地の伊豆をまわり一つ一つの施設を訪れ検証した。


JNWSCの推進メンバー、ピッレ、競技会のお手伝いにきてくれたボランティアさん。私のパートナーであるカッレ(左から3番目)は、今回タイムキーパーをかって出てくれた。

下見から始まり…

伊豆での競技会はまさにスウェーデンのノーズワーク競技会がそのまま実現したものとなった。主催はノーズワークスポーツクラブ。競技会責任者は近藤奈緒子さん。競技は総合課目NW1とよばれるもので、ヴィークル、エクステリア、インテリア、コンテナの全課目で成り立つ。朝のブリーフィング(競技会責任者とジャッジが競技会の進行などの説明をする)に始まり、その後4つのサーチエリアの下見が続く。ジャッジの案内に従い競技者全員は各エリアをチェック。ここで制限時間が初めて告げられる。

エクステリアサーチの環境設定は、そのへんに転がっていたガラクタを砂利の広場にあちこちに並べたもので成り立っていた。

「ここを2分」

とジャッジのピッレさんが言ったときに、参加者から「え〜」とどよめきの声が。

コンテナサーチのエリアにおいては

「箱は全部で21個、ここを1分半」

一同からはさらなるどよめき。急に自信をなくす人、この挑戦を受けて立とうと武者震いをする人、反応はさまざまだ。

「私だったらこのサーチを3分の制限時間にしていたわー」

と一人の参加者。おそらくノーズワークの競技会をこれまでに開催してきた方なのだろう。ただしスウェーデンでノーズワークを競っている筆者としては、ピッレさんの時間設定については「そうそう、スウェーデンだったらこうなる」とウンウンと納得したものだ。と同時に「私がいつも経験しているスウェーデンの競技がここ日本で開催されているんだ!」という実感が湧いてすごく嬉しかった。

ハイドの隠し方だって、やはり本物のジャッジとそうではない人のものでは異なる。ジャッジはクラスのレベルに合わせて、どうにおいが動くかを計算した上で隠すからだ。ジャッジのピッレさんはスウェーデン・ノーズワーククラブ創立時からずっとこのスポーツに携わっているベテラン中のベテラン。スウェーデンでは数少ないエリートクラス(ノーズワークの4クラスのうち一番難しいレベル)のジャッジ資格を持った人でもある。


ヴィークルサーチは2台の車で成り立つサーチとなった。制限時間2分。

そして3人のディプロマ獲得者!

犬とハンドラーのペアが次々とエントリーしてはサーチをこなしていった。サーチが終わる度に参加者はジャッジからフィードバックをもらうことになっている。何もかもスウェーデンでの競技会通り、そして滞りなく進んでいった。最後13番目のペアがサーチを終え、スコア集計。その後、いよいよ結果発表!

なんと初公式戦にて、3人が満点を獲得。ディプロマが授与された。

3位までの受賞者は以下の通り。

  1. 🥇 松本妙子さん&ボダイ
  2. 🥈 中屋江梨子さん&こはる
  3. 🥉 矢野淳子さん&バーボン


3人の受賞者とともに。向かって左から筆者、松本さん、ピッレさん、中屋さん、矢野さん。 (写真提供:JNWSC & Dog Sports Journal/ 河村氏)


ノーズワークのいいところはたくさんの賞があること。総合1〜3位の他に、各課目別での入賞も讃えられる。入賞用のロゼットはスウェーデン製。

受賞者へのインタビュー

以下、受賞者3人の方に嬉しい声を聞いてみた。
初の公式試合にて100点満点とディプロマ獲得をおめでとうございます!👏 素晴らしい活躍です。まずは入賞の感想を!
松本妙子さん
松本妙子さん

結果発表の瞬間はポカンとして実感が湧かなかったのですが、ロゼットと満点のディプロマを手にしてジワジワ喜びが込み上げてきました。ボダイとこれまで地道に積み上げてきた練習の成果が形になって、すごく嬉しいです。

中屋江梨子さん
中屋江梨子さん

総合順位の前に種目別の結果発表がありましたので、もしかしてうちのコいけるんじゃない⁉とはうすうす感じてはいましたが、栄えある第一回公式競技会で2位入賞という結果を聞いたときには感無量でうっすら涙が出てしまいました。レッスンをしていただいた先生や一緒に練習してくれた仲間達、そして初めての競技会を模索し準備し開催してくださったJNWSCさんに感謝の気持ちが尽きません。皆様、ありがとうございました。

矢野淳子さん
矢野淳子さん

入賞はもちろん嬉しかったです!


コンテナサーチにて。矢野淳子さんとバーボン。インディケーションをバッチリ決めて「アラート!」
競技中、サーチをやりながらの愛犬の手応えについて、どう感じましたか?
中屋江梨子さん
中屋江梨子さん

初めての場所でしたのでインディケーションで「座る」という行動は見せてくれませんでしたが、どの種目もいつものこはるらしく粛々とサーチしてくれました。まさか最終的にこのような結果をいただけるとは、4科目終了時点では全く思っていませんでした。

 

エクステリアではジャッジの解説でもあったように、ハンドラーが大きめのオブジェクトに気を取られて小さめのオブジェクトに意識が行きわたらない傾向がある、ということをまさにやらかしてしまい時間をロスしてしまいました。もっと犬の自主性を尊重して任せてあげられればよかったと反省しています。

 

こはるは2022年の10月に高齢者から譲り受け、我が家で迎える初めての犬となりました。犬と遊ぶ一つの方法としてノーズワークを友人から勧めてもらい、約1か月後にトレーニングを開始しました。以前はおそらく労せずもらえていたおやつが、我が家ではローリエのにおいをみつければもらえるんだ!ということがわかって、意欲的にトレーニングに励んでくれました。

矢野淳子さん
矢野淳子さん

パピーの時から取り組んだ練習がしっかり身についていたこと、作業が確実になっていることに感動しました。そして競技中は彼女との一体感を感じることができました。

松本妙子さん
松本妙子さん

いつも通りでした。待機場所からもうサーチモードに入っていてよく集中しているなと感じていました。全課目スタートからいい鼻使いが出来ていたと思います。


エクステリアサーチ中の松本妙子さんとフラットコーテッドレトリーバーのボダイ君。この課目でも優勝!(写真提供:松本妙子)

今回、ひょっとして満点を狙っていましたか?

中屋江梨子さん
中屋江梨子さん

ノーズワークを始めて一年弱で、競技は公式・非公式ともに初めての参加でしたので、100点を狙うつもりもなく、ただベストを尽くそうと思っていました。点数よりもむしろ、競技会ってどんなものなのか、どんなコースで、初めて来た場所でこはるがどんなサーチをするのかといったことに関心がありました。先輩方にも「楽しみましょう!」と言っていただき、ハンドラーである私が足を引っ張らないように(犬の自主性を妨げたり、トリーツをこぼしたりしないように)気を付けようと思っていました。


総合2位輝いた中屋江梨子さんの柴、こはるちゃん。課目別でも三課目の入賞を果たした。もらったロゼットはクリスマスツリーのデコレーションとして最適!? (写真提供:中屋江梨子)

公式戦の初出場について、どう思われましたか?

矢野淳子さん
矢野淳子さん

ピッレさんというキャリアあるスウェーデンからのジャッジの目によって、どのように私たちペアを観察してアドバイスをくださるのか、一番興味あることでした。そしてピッレさんのジャッジのあり方を体感できて、とてもよい勉強と記念になりました。

松本妙子さん
松本妙子さん

公式戦だからこその独特の雰囲気と緊張感が漂っていて、そんな中で長時間、気力を保つのが大変でしたが、その分4課目を終えたときの達成感はひとしおでした。初めて本場スウェーデンのジャッジ、ピッレさんの前で競技をし、直にコメントをいただいたことは大きな財産になりました。思い切って出場してよかったです!

競技会の様子はこちらの動画(↓)からごらんください!

推進クラブメンバーから

クラブ創設時、いやそれ以前からクラブとノーズワークの普及を支え続けてきてくれた推進メンバーの鈴木和枝さんに、開催後の感想を伺ってみた。

今回準備から始まり開催に至ったわけですが、いかがでしたか?

お手伝いの立場からの意見ですが、やっと公式競技会ができて本当によかったと思いました。参加者の皆さん、待っている間やひとつの競技が終わった後ですら、今までの非公式競技会とは違って、かなり気持ちが張っていたようです。それだけ真剣なのだと思いました。

スタッフとして作業をしていて、何が一番難しいと感じましたか?

お手伝いスタッフとして初めてのことでしたので、皆さんをスムーズに案内することですね。トランシーバーもうまく機能してなかったのでそこが次回の課題です。

競技会で一番ポジティブに感じたことは?

競技されてる皆さんが緊張しながらも喜んだり、悔しくて悲しんだり、悲喜こもごもでしたが、でも競技会というイベントそのものを楽しんでいる様でした。それを見ることができてとても嬉しかったです。

今後の競技会開催の抱負、ノーズワークプレーヤーについてへのメッセージなど!

次回の競技会ではやはり、スタッフがおのおのやる事をしっかり把握して、スムーズに競技が進むようにしたいと思います。プレーヤーの方は競技会なので緊張されると思いますが、練習を重ねてきたことを充分に発揮できる様、楽しんで競技会に参加していただけたらと思います。

そしてジャッジ、ピッレ・アンデションさんの感想は…?

今回の日本におけるスウェーデンルールによる初ノーズワーク競技会、ジャッジの目からして競技は期待通りのものだったのでしょうか?

日本のノーズワークの方たちは、すでにある程度ノーズワーク競技を経験をしているのを知っていたので、私の予想としてはほぼスウェーデンのNW1(最初のレベル)の競技会参加者と同じような感じだろうな、と思っていましたし、事実そうでした。ただし、スウェーデンの方がハンドラーが犬から距離をあけてサーチをしていますね。日本の参加者にはそれが望まれました。とはいえ、大体においてはスウェーデンのNW1競技会のパフォーマンスと同じ感じでしたよ!

日本のハンドラーとスウェーデンのハンドラーで、犬との接し方などに何か違いみたいなものに気づいたことはありますか?

微妙な違いはあるかもしれません。犬の自主性に任せて独立したサーチをさせておらず、どちらかというと、ハンドラーが犬に「こうして、こうして」を頼みすぎているきらいがありますね。日本ではノーズワークをするにしてもあまり広いスペースが取れないので、それでハンドラーが犬に近すぎてしまうのですよ、と日本で誰かが説明をしてくれましたが(ジョークだそうです)、決してそうではないと思います(笑)。それはトレーニングでなんとかなるものかと。犬にもっと独立して作業させる、を練習してみてください。

さて今回は、ピッレさんの初めての日本訪問ですが、何か日本について感想を!

あら!何をするにもとても楽しかったです。街なみ、さまざまな場所、レストラン、みたことがないお料理、興味を引くものがたくさんありました。そして何よりも楽しかったのは、日本のノーズワークに携わる人々に出会えたことですね。みなさんに知識をシェアすることができたし、幸せな時間を過ごせたと思います。そしてJNWSCの推進メンバーの皆さんに今回の機会をくださって本当に感謝をしています。

ピッレさんジャッジによる公式競技会、2024年2月に2連発!

ノーズワークファンにとってビックニュースは、なーんとピッレさんは来年(2024年)2月中旬以降にも来日予定。そして二つの公式ノーズワーク(NW1)競技会のジャッジを務める予定だ。一つは今回と同様伊豆にて。もう一つは兵庫県加古川にて。ディプロマをゲットしたい人、前回逃してしまった人、そしてスウェーデン風競技会を体感してみたい人、是非是非ふるってご参加を!詳細が決まればJNWSCのウェブサイト、およびノーズワークファンが集うFacebookグループ、ノーズワークスポーツクラブに12月中旬までには告知されるはずだ。皆さん、お見逃しないよう要チェック!

もう一つおまけ!まだこちらも公式発表はされていないのだけれども1月25日(木)には前回大人気を博したピッレさんによるウェビナー「ノーズワークと自己受容感覚(プロプリオセプション)」の続編がJNWSC主催で開催予定!こちらも詳細が決まればJNWSCのウェブサイトで告知されるので、お楽しみに。


プロプリオセプション(自己受容感覚)を通して筋力をつくるためのエクサイズを見せてくれるピッレ・アンデションさん。ちなみにピッレさんはレオンベルガー(写真)の大ファンであり、ブリーダーでもある(写真提供:Pirre Andersson)

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