日本のドッグスポーツ界がまたおもしろくなる – ノーズワークスポーツクラブが発足!

文:藤田りか子

ノーズワークスポーツクラブのロゴ。日本のクラブであることを強調するために「丸」をモチーフとし、日本独自のカラー「藍」を使った。

妥協はしたくない。お友達同士の仲良しクラブなどではなく、本格的な組織だったノーズワークのクラブが欲しい。そしていずれは世界を舞台に他の国の選手と対等に競いたい。そんな願いをもった有志が集まり、ノーズワークスポーツを統制・管理する団体「ジャパンノーズワークスポーツクラブ(JNWSC)」を「鼻(ハナ)」にかけて8月7日に発足した。クラブ発足への準備期間はおよそ2年。クラブ設立まで道のりは長く時に険しく、決して易しいものではなかった。が、それだけに感慨もひとしおだ。私も少しお手伝いをした。ルール作成に関わり、競技における競技者マナーや犬のウェルフェア意識などをクラブの理念に盛り込んだ。

https://noseworksportsclub.jp/

こちらノーズワークスポーツクラブのプロモーションビデオもどうぞ!より多くの人にノーズワークを知って欲しいという思いで作られた。

クラブを通してより素敵で知的な犬文化に

このクラブは筆者が住むスウェーデンのノーズワーククラブのあり方をヒントにして設立された。ノーズワークのルールもスウェーデンノーズワーククラブが出しているルールブックを元に作成を進めた。ルールブックにはノーズワークの規則だけではなく、人は犬とどう社会の中で向き合うべきかという理念も盛り込まれている。そう、私の願いは、スウェーデンにおける犬の考え方が競技マナーやクラブのあり方を通して日本にもたらされること。その文化背景を理解しながらドッグスポーツが繁栄していけばどんなに素敵なことだろう。

Zephyros Dog Club にて [Photo by Naoko Kondo]

たとえば

「スウェーデンの犬は公共の場におけるトイレのしつけができています。私たちも愛犬が社会に受け入れられるようがんばってしつけてみましょう」

というようなメッセージをブログで発信して啓蒙活動もできる。だがそれを競技会でのマナーやルールとして盛り込む方が愛犬家の意識はより高くなると思う。なぜなら競技をする上で競技者はトイレトレーニングの大事さをいやがおうでも自覚させられるだろう。ノーズワークはドッグスポーツの中でももっとも手軽にできるアクティビティ、犬のタイプにかかわらず誰もが参加できる。となればより多くの人がスポーツを通して「調和の取れた犬と人との関係」のあり方に暴露されることになり、日本における犬文化の底上げにもつながっていく。

スウェーデンの「アソシエーション」や「クラブ」の文化を取り入れたい

クラブがスウェーデン風になればいいと思ったのは、もうひとつ理由がある。ヨーロッパに比べ、非営利の「クラブ」または「協会」や「アソシエーション」が文化の一つとしてそれほど日本の犬世界では根付いていないという印象を持っている。スウェーデンに息づく「クラブ」あるいは「アソシエーション」精神なるものを日本にも導入したかった。

筆者はスウェーデンという「協会」文化の国に住んでいる。この国では、とにかくなんでもかんでも「協会」を作り、行動の指針を決めていく。そして誰もが「協会」を作る権利を有している。協会で活動するのがアフター5の楽しみである人も多い。スポーツにはじまり、地域の教会の合唱団、近所の道路管理、地域に光ファイバーを導入したい人の集まり、子供のサッカーチームなどなどすべて「協会」という組織にしてしまうのだ。

まずは運営する委員のメンバーを指名するところから始まる。こうして組織を作り上げ、管理を手分けして行い、必要な経費は会費として集める、さらには国から多少の補助などをしてもらいながら、一つの目標に向かって有志が力を合わせる。参加者一人一人が目標の実現を目指して活動しているのであり、誰か一人の利益のためではない。ゆえに各メンバーは主体性を持って行動するのも特徴だ。この中でスウェーデン人はただ自分の不平を主張するのではなく、何をすればいいのか一人一人が自主的にアイデアを提案する態度を身につける。もちろん各々が役割をもち、その役割に対して責任も持つ。

もちろんメンバー同士は必ずしもみな友達関係とは限らない。ここも大事だ。仲良し同士である必要はなく、協会がなりたつために何をすべきか客観的に把握し、メンバーそれぞれが理性的に動く。感情があまり入らないからこそ協会は成り立つ。感情が入れば入るほど一時的には強くつながるかもしれないが、実は決裂もしやすい。だって人間だもの ….。

会長や会計係といった上部委員メンバーの選挙は1年あるいは2年ごとに行われ、一般会員による投票によって決まる。よって長期間の「独裁」にならないのも特徴だ。こんな活動が身近であるため、スウェーデンでは「民主」の精神が社会に芽生えやすい。スウェーデン独自の文化としての「協会」活動については英語ではあるがこちらのページも参考にされたい。

https://www.informationsverige.se/en/jag-har-fatt-uppehallstillstand/samhallsorientering/boken-om-sverige/att-forsorja-sig-och-utvecklas-i-sverige/fritids–och-foreningsliv/

ドッグスポーツも組織立てて管理すれば

前述したようにジャパンノーズワークスポーツクラブは、競技会を促進していくためにルールを作成し、そして競技会における結果管理も行う。将来的にはスウェーデンのノーズワーククラブのインストラクター教育を導入したり、競技会ジャッジの育成も行う。こうして組織立てることでノーズワークスポーツを普及・発展させる。

欧米ではクラブはとても大事な存在だ。クラブや協会文化は日本の犬世界においてももっと普及すればいいと思っている。共通の趣味を持つ人が集まる場を設けるためだけの「愛好会」なら日本にもある。オフ会やミートアップと称する飼い主と犬の集まりはネットを検索するとたくさんでてくる。だが、長期的に組織だったクラブは犬世界ではまだまだ他の趣味分野に比べると少ない。日本における犬種クラブの異常な少なさなど、まさに典型的だ。

欧米の多くの国では犬種の発展に犬種クラブや協会はとても大きな影響力を持っている。その犬種を愛する飼い主への啓蒙活動、及びブリーダーやブリーディングの管理、ヘルスプログラムの促進、犬種にまつわる様々なアクティビティの開催、などがクラブを中心にして行われている。そのような犬種クラブが日本にはいくつあるだろうか。いつだったか、とある犬種が日本に導入されたのはいつなのだろうとネットを検索したがでてこなかった。こんなことは、スウェーデンならすぐにわかる。というのも、犬種クラブ(およびケネルクラブ)が犬の戸籍管理をしているし自国における犬種の発展をきちんと把握している。よってこのような情報は確実に手に入る。犬なんてたかが趣味と思うなかれ。趣味もきちんと管理することで、より深いものとして完成するし、ひとつの文化として成り立つのだ。

スウェーデンのドッグショーでは犬種クラブのブースがいくつも並ぶ。これはランカシャー・ヒーラーというイギリスの犬種のブース。スウェーデンで歳末に行われる大きなドッグショーにて。犬種クラブは犬種の正しい理解と情報を、興味のある人に提供するという役割も担っている。犬世界において、クラブの存在はとても大事だ。[Photo by Rikako Fujita]

ノーズワークスポーツにチャレンジしよう!

コロナが収束すれば、海外のオフィシャル・ジャッジを招待するなどして公式の競技会も開催されるはずだ。どんどん競技人口が増えることを願っている。そして、これからノーズワークを試してみたいという人は、ノーズワークスポーツクラブのFacebookグループに入るといいだろう。このグループは誰もが参加可能。練習会、セミナー、レッスンなどのお知らせを見つけることができる。あるいは自分で「XX地域で練習会を希望しています。どなたかいっしょにやる方いませんか?」というような投稿も可能だ。そして、ノーズワークの力をつけたらぜひクラブの会員になり競技会に参加してほしい。

今後のクラブそしてノーズワーク競技の発展がとても楽しみだ。

サイトハウンドをあなどるなかれ!ノーズワークだってお手のもの!サルーキーのルト君、コンテナーサーチ中 [Photo by Asako Yokomachi]