文:尾形聡子
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今まで見えていたものが見えなくなる。
外からの刺激を処理するのに視覚に大きく頼る人間にとって、中途失明はこれまでのように日常生活が送れなくなるだけでなく、生きる希望が持てなくなるなど精神的にも大きな打撃を受けます。今現在視覚に不自由がなくとも、視力を失うことで生じるであろうあらゆるできごとは、想像しやすいものだと思います。では、犬はどうでしょう?犬が中途失明したときには、人が途方に暮れるような状況に陥るものでしょうか。
人はつい、自分の持つ感覚が犬にも当てはまると考えがちです。犬も暑さを感じたり痛みを感じたりと人の感覚と重なる部分はありますが、犬は人に比べて嗅覚優位な生き物です。もちろん視覚も使っていますが、犬はあまり視力がよくなく、2色型色覚(青と黄の波長を感知するが赤系と緑系の色の弁別が困難)であるといわれています。つまり、視覚頼りな人とは違う感覚器の使い方をして日常を過ごしている、ということです。
とはいえ、犬も人と同じように中途失明すれば当然その影響を受けることになります。壁にぶつかったり、階段を怖がるようになったり、どう動いていいかわからずに固まってしまうこともあるでしょう。何も見えなくなって不安や恐怖がつのり、行動が変化することも考えられます。ですが、視覚が不自由でも目が見える犬とほとんど同じように生活できることがこれまでの研究により示されています(詳しくは「視力聴力に問題がある犬は、犬生を楽しめないってほんと?」を参照ください)。ただし、そこで研究対象とされたのはすべて先天性の視覚障がいを持つ犬で、後天的に視力を失った犬は含まれていませんでした。
では、後天的に怪我、あるいは成犬になってから遺伝性眼疾患などにより、突然または進行的に失明してしまった場合に限った場合はどうでしょう。