子犬期の生育環境から受けた影響は、成犬になっても続いている

文:尾形聡子


[photo from Adobe Stock]

何かしらの凶悪事件が起こると、犯人の生い立ちが詳細に取り上げられるものです。複雑な家庭環境で育った、小さい頃に親から暴力を受けていた、育児放棄されていた…というような言葉がネット記事に並ぶことは珍しくありません。その度に、子どものころの逆境は大人になってからどれほど影響が及ぶものなのかと考えさせられるものです。育った環境は、その人が成長してからの思考や行動に多かれ少なかれ影響してきます。

では、同じく社会的な動物である犬の場合はどうでしょうか。人はいずれ親離れし、独立していきますが、犬は身体的に成長して成犬となっても飼い主との関係はずっと続いていきます。その関係は親と子の間に生ずる関係と似ていて、愛着関係が形成されることがこれまでいくつもの研究で示されてきています。

さらに、犬は不安やストレスを感じたときの対処方法として、親と愛着関係を持つ子どもが親を「安全基地(secure base)」として安心を得るのと同様に飼い主を求めることもわかっています。愛着や安全基地についての詳細は、臨床心理士の北條美紀さんの記事「犬の愛着の傷つきだって修正できるかもしれない!メンタライジングと修正愛着体験」、「「あなたの犬は分離不安症です」その2~健康な分離不安は愛着形成のサイン」をご覧ください。

また、幼犬期の生育環境はその後の性格に影響することが知られていて、その最たるものと言えるのが「ビビりな性格」でしょう。一方で、遺伝的に臆病な傾向になる個体もいますし、犬種によっても違いがあります。犬種による不安傾向の違いはヘルシンキ大学の研究を「犬の性格形成に強く影響している要因は?」にて紹介しましたが、不安特性は犬種(遺伝要因)と社会化期(環境要因)の影響を強く受けていることがあらためて示されていたのは記憶に新しいところです。そして社会化期にさまざまな経験を積むのを阻む環境として、パピーミルと呼ばれるような大規模な商業的ブリーディングが挙げられます。十分なケアを受けられない状態で育った犬は後天的に「ビビりな性格」になる傾向があると言われています。それについて詳しくは、藤田りか子さんの「ビビリの犬は動物ウェルフェアに関わる問題です」をぜひご覧ください。

このようなこれまでの研究背景を踏まえ、アメリカのネブラスカ大学オマハ校の心理学部の研究者らは、パピーミルのような劣悪な環境で育った犬が成長したときに、それが飼い主との愛着関係や行動にどのように影響してくるかについて調べる実験を行いました。

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