文と写真:金森万里子
[Photo by Rikako Fujita]
北欧最大の狩猟の祭典、イベント、展示、ショッピングで盛り沢山!
今回はじめて、北欧最大の狩猟のお祭り「エルミア・ゲームフェア」に参加しました。狩猟のお祭りといったら、ハンターが獲物をもちよって自慢をしあっている・・・みたいな想像をした方もいるかもしれません。しかし実際に参加してみると、犬の競技会をやっていたり、家族で楽しむための大きなキャンピングカーが並んでいたり、3分クッキング番組みたいなジビエ料理のレシピ紹介コーナーがあったり・・・。なんともサラダボウルのようなにぎやかさです。女性や子どもも多く参加していて、カジュアルで明るい雰囲気なのが印象的でした。スウェーデンの狩猟文化は、本当に多様な興味関心の人が集まって成り立っていることを感じました。
エルミア・ゲームフェアは、2年に一度、エルミアというスウェーデン南部地域で開催されていて、毎年多くの人で賑わいます。今年はの3日間開催され、屋内外で様々なイベント・ブース展示が行われていました。
屋内会場に入ってまず目に飛び込んできたのは、アウトドア向けの大きな車!森に入るのに適した車がたくさん展示されています。家族用の超大型キャンピングカーもあって、子どもが中で遊んだりもしています。犬用のケージが取り付けられたピックアップもありました。
狩猟の時に便利なピックアップに、犬用のケージが取り付けられています。様々な車のサイズに合わせてオーダーメイドで調整できるそう。なお、移動時に確保しなくてはならない最低限のスペースは犬の体のサイズによります。縦幅:犬の体長 X 1.1、横幅:犬の胸の幅 X 2,5、高さ:犬が立っている状態における頭頂までの高さ、が最低限のケージの大きさとして法律で定められています。
狩猟服のディスカウントセールには人だかりができていました。なんと子ども用サイズも豊富に売られていて、親子連れで賑わっていました。日本の職人とコラボしたナイフや、キャンプ用の鍋などの料理キットも売られていました。クッキングコーナーではジビエのレシピをテレビ番組のように紹介していました。野生動物を描いた絵を売っているアーティストまでいました。
子ども用のサイズの狩猟服。
野生動物を描いた絵を売るアーティスト。
ジビエを使ったクッキングショー。
日本の職人とコラボした狩猟用ナイフが売られていた。
狩猟文化と人々の自然との関わりを感じて…
スウェーデン狩猟協会のブースで一番驚いたのは、花の種を売っていたこと!ハチなどの虫が好む花を身近な土地で育てることで、例えば森の動物が食べるブルーベリーが増えるなど、野生動物にとって生きやすい環境づくりに貢献することができます。森の中ではすべての生物が関わりあっています。
「私たちは、森を楽しみたいの。殺すことを楽しむのではなく」
と説明してくれた女性ハンターが語ってくれました。
虫の好きな野草の種。
1950年代、1980年代、2020年代と、人間の暮らしが変化するにつれて、生物多様性が低下してきたことを示すパネル。「以前のような暮らしに簡単に戻れるわけではないけれど、少しでもできることをしたいと思っています。様々な生き物が暮らせる自然環境を取り戻すことが私の夢です」と狩猟協会の方が語っていた。協会はこのような実態を明らかにする調査にも協力しているそう。農家とも協力関係を築きつつあるのだとか。
ほかにも狩猟協会のブースの中で、もし車を運転していて動物との衝突事故が起きてしまったときにどうしたらよいか紹介している場所があり、印象的でした。事故で負傷した動物を長く苦しませないため、ドライバーは専用のSOSダイアルを通じてすぐに警察に通報することが法律で義務付けられています。通報を受けた警察は、怪我をした動物の足跡を追求できるようトレーニングを受けた犬とハンドラー、およびハンターとともに現場に向かい、重症の動物を探して止めをさします。ハンターが果たしている社会的役割の幅広さを感じました。
犬種クラブのブース、そして犬種ならではの狩猟アクティビティ
会場には犬種ごとの協会のブースがいくつもありました。ペットの保険や、フードやおやつ、トレーニングに使うダミーなどのグッズ販売のブースもたくさんあり、犬はスウェーデンの狩猟にとって欠かせない存在だということを実感しました。
狩猟系(家庭犬系やしょータイプではなく)のジャックラッセルテリア専門の犬種クラブ、ジャックラッセルテリアクラブ・オブ・スウェーデン。
スウェーデンのスパニエルとレトリーバーの飼い主の多くはこの「スパニエル&レトリーバークラブ」に属している。このクラブの傘下にはさらにラブラドールレトリーバークラブやコッカースパニエルクラブなどの犬種クラブが存在する。
さすが、レトリーバーのスポーツが人気なだけに、ダミー商品も充実!カラフルなダミーが売られていた。
気持ちよく晴れた屋外では、狩猟犬の競技会が行われていました。写真は、レトリーバーなどの犬が池に放り投げられたダミーをとって戻ってくるタイムを競う競技のもの。犬が素晴らしい動きをしたとき、会場からは拍手が起きていました。ほかにも、テリアを使った狩猟のシミュレーションもありました。筒の中に潜り、獲物に見せかけたダミーを探し出します。だれもが飛び入り参加できるようになっていました。犬曰くのライターである藤田りか子さんとミミチャンは、レトリーバーしか出場できない、カモに見せかけたダミーをとってくる競技に挑みました。実際の狩猟現場では、半矢の獲物を優先的に取ってきてほしいので(傷ついた動物を長く苦しませないため)、ハンドラーの指示をどれだけ正確に理解できるかがカギになってきます。詳細はいずれの記事にてお楽しみに。
池でいかに早くダミーを回収するかの飛び入り競争も開催されていた。
テリアやダックスフンドのためのアースドッグという狩猟技能のシミュレーション。トンネルに入り、アナグマのにおいのついたダミーを探し当てる。
狩猟フェアには、たくさんの種類の銃が売られていて、手に取って試し打ちができるコーナーもありました。でもそれだけではなく、本当に様々な興味関心を持った人が、「狩猟」をキーワードにそれぞれの形で自然を楽しんでいることを実感しました。日本で狩猟をはじめるのには、大きな覚悟の上で一大決心をする、というイメージを持っていたのですが、スウェーデンでは自然を楽しむための身近な一つの方法なのだな、という印象でした。狩猟に高いハードルを感じていたこと自体が、自分やほかの多くの人の生活が、自然から離れてしまっているからなのかもしれない・・と思いました。
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文:金森万里子
医学博士、公衆衛生学修士、獣医師。 道内で牛の臨床獣医師として勤務した経験を活かし、牛から人へ視点を変えて、社会のあり方と健康の関係について研究を行っている。専門は社会疫学・公衆衛生学。現在はストックホルム大学で研究を行っており、人も動物もどちらも幸せになれる社会とはどんなものか、追究したいと思っている。
Webサイト: http://mariko-kanamori.moo.jp