犬曰く特別セミナー「犬にかかわるすべての人へ 知っておくべき犬の遺伝病最前線」レポート

文と写真:尾形聡子

去る4月16日、鹿児島大学共同獣医学部の大和修教授を講師にお招きし、東京はお茶の水にて「犬にかかわるすべての人へ 知っておくべき犬の遺伝病最前線」セミナーを開催しました。コロナ流行の数年間を経てオンラインでのセミナー開催が一般的に行われるようになり、開催地が限定される対面のセミナーにどの程度参加者が集まってくれるか予想がつきにくかったものの、満員御礼の形で開催することができました。

ブリーダーの方はもとより、獣医師、ドッグトレーナー、遺伝子検査会社など犬に関係するお仕事をされている方々、一般の飼い主さんなど、まさに「犬にかかわるすべての人」にご参加いただくことができました。

遺伝の話というと、難しい、とっつきにくいというような印象を抱いてしまいがちなものです。けれども、ご講演いただいた大和先生のパワフルな話術に病気のことを扱う上での細やかな配慮、そして何より日本で唯一無二の犬の遺伝研究を続けられている先生だからこそできるお話に、会場全体がぐっと惹きつけられているのを感じました。

犬の遺伝病とはどのようなものなのか、なぜ遺伝病が広まるのか、どのような治療ができるのか、遺伝病対策はどのようにしていったらいいのか、ということについて、先生が研究されてきた柴犬のGM1ガングリオシドーシスやボーダー・コリーの神経セロイドリポフスチン症、ジャーマン・シェパードやコーギーの変性性脊髄症(DM)などについての例を挙げながらお話は進められていきました。

遺伝病は遺伝子に変異が起こることで発症する病気です。犬種内で増えてしまった特定の病気を減らしていくためには、とにかく発症犬が生まれてこないよう予防するのが大切であることを講演中に何度も言われていました。また、犬種の中でどの程度広まっているかにより、積極的に繁殖で予防していくべきフェーズなのか、それとも監視とモニタリングを続けるべきフェーズにあるのかの違いについても具体的な例を挙げて説明があり、とてもわかりやすいものでした。ある遺伝病を減らそうと闇雲に繁殖を行っても、仮にその遺伝病は減らすことができてもまた新たな問題が発生する可能性が非常に高いためです。健全性を高め、それを維持するには、しっかりとしたデータ管理の必要性を強く感じました。

何も手を打たなければ遺伝病は増える一方です。今後研究が進めば、遺伝病の数そのものもますます増えていくと考えられています。犬の繁殖をするブリーダーの方々はもちろんですが、人気犬種を作り出す消費者、すなわち飼い主の嗜好が、無謀な繁殖を促してしまっているという現状があることを認識しておくことが重要です。飼い主となる人々がそのような自覚や遺伝病に関する知識を持つことで、犬や猫に蔓延する遺伝病の状況は改善されていくはずだと結ばれました。

60分という時間はあっという間に過ぎていき、その後の質疑応答タイムには質問が絶えませんでした。時間の都合で終了となった後も、先生の前には長蛇の列が。こんなに長い列ができているのを見たのは後にも先にも初めてで、先生のお話がいかに素晴らしかったかを物語っていると感じました。これぞ対面のセミナーだからこその醍醐味だとも。

個人的には遺伝病についての意識を多くの人に持っていただきたいという思いを新たにすることができました。次回開催の際には、より多くの人に参加いただけるようオンライン配信も含めて開催できればと思っています。

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