致死性の遺伝病、変性性脊髄症(DM)の日本のジャーマン・シェパードにおける現状

文:尾形聡子


[Image by Ralph from Pixabay]

家庭犬としても作業犬としても世界中でおなじみの犬種、ジャーマン・シェパード・ドッグ。ジャーマン・シェパード・ドッグ(以下、Gシェパード)は、股関節形成不全や肘関節異形成イベルメクチン中毒、巨大食道症などの遺伝性疾患を発症しやすい犬種ですが、その中のひとつに変性性脊髄症があります。

変性性脊髄症とは

犬の変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy:DM)は、1973年にGシェパードでの発症が確認されてから、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク(以下、コーギー)、ボクサー、バーニーズ・マウンテン・ドッグなど、いくつもの犬種で発症が報告されています。脊髄の神経細胞がゆっくりと変性していき、それに伴い体がだんだんと麻痺していく進行性の神経変性疾患です。

犬がシニア世代に入った8歳くらいから発症し、最初は後肢の運動失調がみられるようになり、数年かけて前肢、呼吸器へとゆっくり進行していきます。痛みが伴わないのが特徴ではありますが、末期には全身麻痺と呼吸困難を引き起こし、死に至ります。根本的な治療方法がなく、安楽死を余儀なくされることの多い、非常に重篤な病気です。

DMは、原因不明で治療法が確立されていない人の指定難病のひとつ「筋委縮性側索硬化症(ALS)」と臨床的にも病理的にも類似性が高いことが示されています。人のALSは多くの場合遺伝しませんが、遺伝する家族性のALSもあります。その発症原因となるいくつかの遺伝子のうちのおよそ2割でみられるのが、スーパーオキシド・ジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異です。SOD1は犬のDM の原因遺伝子としても2009年に同定され、ALSとDMは遺伝子レベルでも共通した原因を持っていることが明らかにされました。

ただしDMの発症原因は発症犬種に共通したSOD1遺伝子変異のほかにもバーニーズ・マウンテン・ドッグではSOD1遺伝子の別の箇所が変異していることが、コーギーではSP110 nuclear body protein(SP110核体タンパク)遺伝子が発症リスクと進行状態に影響を及ぼすモディファイヤーである可能性が示されているなど、SOD1遺伝子だけではすべてを説明できない部分があり、現時点でDMは、不完全なタイプの常染色体劣性遺伝をする遺伝性疾患と考えられています。そのため、遺伝子検査だけでなく、病理検査や免疫組織化学を組み合わせて確定診断が行われています。

これまでに、日本でDM発症がみられるコーギーやラフ・コリーのDMリスク評価のための研究を行った鹿児島大学の大和修教授が率いる研究グループは、同じく発症リスクが高いGシェパードについてどの程度SOD1遺伝子の変異アレルが広がっているのか現状を調べるため、遺伝子解析研究を行いました。日本の犬の遺伝病の現状を明らかにすべく研究を続けている大和教授は、これまでにもボーダー・コリーやチワワの神経セロイドリポフスチン症や柴犬のGM1ガングリオシドーシスなどについての研究を

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