文:尾形聡子
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犬の行動特性や認知能力、気質は、遺伝率が高いものもあれば低いものもあります。たとえばレトリーブという行動特性は遺伝しやすいことが数々の研究で示されており、2022年の研究では遺伝率が52.5%と報告されています。このように遺伝しやすいこと自体はわかっても、ゲノム上で何が起き、その変異がどのように作用してその行動が引き出されるのかというメカニズムを突き止めることは非常に難しいのが現状です。一方で、牧羊犬特有の行動の遺伝的背景の解明に一歩近づいたという報告がついに出され、犬の行動特性に関するゲノム研究がさらに進むことに期待が寄せられています。
レトリーブやハーディングのような特徴的な行動と並んで、気質として遺伝しやすいことが示されているのが恐怖や不安です。しかしこれらについてもその原因となる遺伝子を特定することは困難で、それは人の不安障害やうつ病などの遺伝要因を完全に突き止めるのが容易ではないのと同様です。なぜなら行動特性や気質には多くの異なる遺伝子が関与し、複雑な遺伝背景を持つ可能性があるためです。遺伝的な部分だけでなく、それぞれが独自の環境要因からの影響も受けているため、よりいっそうその複雑さは増しています。
犬が恐怖や不安を抱く対象は見知らぬ人や犬、新しい物体や場所、分離不安などさまざまですが、その中でも遺伝しやすいと考えられているものが