犬種に特徴的な行動の遺伝子、ついに明らかにされ始める

文:尾形聡子


[image from wikimedia] 羊の背に乗って働くオーストラリアン・ケルピー。

家畜を集めたり害獣を退治したり。はたまた狩猟のお供など、人は犬の持つ特徴的な行動を上手に使って共に生活を送ってきました。犬は姿形のみならず、その行動にも多様性を見せる生き物です。

たとえばレトリーバーであれば、誰かに教わらずともボールを口にくわえて運んでくるというような行動が自然に見られます。そのような犬種に特徴的な行動は持って生まれたもの、すなわち遺伝の影響を強く受けているのではないかと考えられ、実際にレトリーブ行動の遺伝率が高いことはこれまでにいくつかの研究で示されています。とはいえ実際にどの遺伝子が特異的に働き、犬種に特徴的な行動を引き起こすのかというようなメカニズムについて解明することは非常に難しく、謎に包まれたままでした。

このような犬種特異的に見られる行動に関わる遺伝的背景を解明しようと、30年にもわたって研究を続けている研究者がエレイン・オストランダー(Elaine Ostrander)博士。オストランダー博士はアメリカ国立衛生研究所(NIH)の傘下の研究所のひとつ、国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)におけるイヌゲノムプロジェクト(NHGRI Dog Genome Project)にて長きにわたり研究を主導しています。

犬の遺伝子研究の世界を常にリードしてきた博士は数えきれないほどの研究を発表していますが、研究は大きく3つ、犬の行動と形態、犬種の構造と進化、犬種特有のがんの危険因子の探索を軸に行っています。そんな博士の数多くの研究の中で強いインパクトがあったのは、犬の体を小さくする原因となる遺伝子IGF1の変異を突き止めたという2007年の研究が挙げられると思います。最近ではイヌ科動物の全ゲノム配列を決定したり、犬曰くでも「53,000年前のオオカミも持っていた!犬の体を小さくするDNA変異」や「オーストラリアン・ラブラドゥードゥルは遺伝的にはラブ?それともプードル?」などの記事で紹介しています。

そんな博士の念願とも言える、「どうして牧羊犬は羊を集めるのか?」の遺伝背景の解明に、ついに大きく一歩近づきました。今回はその研究を紹介したいと思います。


[Image by karisjo from Pixabay]

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