イギリス、ボーダー地方の有機農場とファーム・ドッグたち

文と写真:藤田りか子

コリー、ラーチャーにテリアのセット

牧羊犬コリーに害獣退治に活躍するテリア、そしてウサギ狩りを手伝う狩猟犬のラーチャー。イギリスのカントリーサイドの農場風景には、これら3つの種類の犬が必ずセットで存在している。何故?農場ではいずれもとても役に立つ犬たちだからなのだ。

筆者が以前イギリスのボーター地方を訪れた際に出会ったデニスさんとクリスさん夫妻の有機農場も例外ではなかった。ラーチャーのウィズル、3頭のボーダー・コリー、そしてワイヤードの毛衣をまとったいかにもテリア然としたハリスがいた。犬たちは牧草地、納屋や馬小屋など、要所要所に駐屯しており、適当な時間になったら場所を交代していた。仕事をしているときもあれば、遊んでいるときもあり。そして寝ているときもあった。

ボーダー地方はイングランドとスコットランドの間に位置している。緑の丘陵がうねり、海から風がヒューヒューと吹いてくる。その境界線(=ボーダー)にはツィード川が流れている。名犬ラッシーが逃亡のさいに泳いで渡った川。そして羊毛繊維のツイードの発祥地として有名な川でもある。

都会のロンドンから田舎暮らしを求め、デニスさんとクリスさん夫妻は数十年前にこの地にやってきた。妻のデニスさんはもともとアイルランド出身、馬と共に育ちクロスカントリー(馬術の一種)のコンペティターでもあった。馬とアクティブな青春を過ごしていただけに、デニスさんにとって田舎暮らしは当然の選択だろう。

一方イングランド北部ノーザンプシャーの学者一家に育ったクリスーさんは博士にならず、何故か家族で唯一土くさい生活を求めていた。ロンドンの大学で農業学を学んでいる間に二人は知り合い、動物と自然が大好きであるということで意気投合。結婚し、いよいよ1.6キロ平方に及ぶ自分たちの農場をスコットランドのこの美しきボーダ地方に手に入れた。

犬たちのそれぞれの役割

スコッティッシュ・ディアハウンド風のハンサムなウィーズルはデニスさんのお気に入りの犬だ。彼女は小さい時からラーチャーに慣れ親しんでいた。ボーダー地方に引っ越してきたときも、最初に飼った犬がラーチャーであった。ラーチャーというのは、コーシング(俊足でうさぎを追って狩ること)に使われるイギリス独特の狩猟犬で、サイトハウンドのミックス犬。たいていは牧羊犬の血が入っている。なぜサイトハウンドと牧羊犬を交雑させるのか?それはサイトハウンドの俊足に牧羊犬の従順さを取り入れるため。デニスさんが引っ越してきた当時はまだコーシングが合法であった。ただし今やラーチャーの出番はネズミ退治以外なくなってしまったものの、イギリスのカントリーサイドでは相変わらず人気の犬である。

クリスさんがひいきにしているのは3頭のボーダー・コリーたちだ。グレンにジョー、マック。ただし、ジョーは毛が長くボサボサ。もしやビアデッド・コリーではないかと思ったが、両親ともにボーダー・コリーだったとクリスさんは確信を持って答えた。もっともボーダー地方では、羊と作業する犬のことをコリーと十把一絡げに呼ぶ。長毛、短毛、関係ない。ビアデッド・コリーという血統種ができあがったのは、これら牧羊犬のごった混ぜの中にいた長毛犬を抽出した結果なのではないか。そうジョーを見て思った。だれかが、ビアデッド・コリーはポーランド人が連れてきたポーリッシュ・ローランド・シープドッグの末裔という説をだしていたが(ポーランドの牧羊犬種とビアデッド・コリーは非常に似ているので)、はてさて。


ビアデット・コリー似のジョー。両親犬はボーダー・コリーだそうだ。

3頭のボーダー・コリーは協力しながら有機農場にて育てられた羊たちを追ったり集めたりする。ハンドリングするのはクリスさん。ジョー以外の犬たちはよくいうことを聞く。

「ジョーは僕がトレーニングしたからね。他の2頭はプロから買ったんだよ」

とあっさりと種明かしをしてくれた。ボーダー地方じゃ牧羊犬は訓練されたものが売られているということだ。さすが、ボーダー・コリーの出身地だけに、牧羊犬商売は進んでいる。単なるペットとして飼われているわけではない。

テリアのハリスについても紹介もしておこう。彼はパッターデール・テリアとボーダー・テリアのミックス犬。パッターデールもボーダー・テリアも共に、イングランド北部からボーダー地方がその故郷。ハリスは地犬テリアそのものだったのだ。彼は納屋や台所に出没するネズミ捕りの役割を引き受ける。こちらはデニスさん、クリスさんの共有の犬。年を取ってしまったが、テリア精神は健在。有機農場にはかかせない存在だ。なぜって、毒をつかわずともネズミ退治ができるから。


シニアテリアのハリス。農場を常にほっつき歩き、何か狩るものがないかと探していた。

地域に根ざした有機農場だからこそ、ボーダー地方の地犬作業犬!

クリスさんとデニスさんにとって、作業をする犬であればなんでもいいというわけではない。これら5頭の助っ人がいずれもボーダー地方に根ざした犬である、ということに誇りをもっていた。それは有機で運営している酪農家として当然のプライドだとも言う。

「有機農業って、地域に則った農業形態をとるべきものなのですね。この地方の自然が与えてくれるペースでスローに育てていこうよ、と。その風景の中に、ボーダー地方に元からいたテリアがいて、牧羊犬がいて、そして猟犬がいる…。当然です」

それで彼らはロンドンで可決された猟犬の禁止令にはとても批判的だ。

「猟も田舎のライフスタイルです。残念なことに田舎生活や地域活性化について政府からの理解はあまり得られていない。だから農業に従事する人がどんどん減ってきて、食料はますます輸入に頼らざるを得なくなっている。イギリスの農業存続のためにも、地域に根ざしたライフスタイルというのは、これから若い世代が目指していかなければならないことでしょう」

ラーチャー、牧羊犬コリー、テリア、この3犬種セットがこれから見られるか見られないか、はおそらくイギリスカントリーサイドの健全度パラメーターになるかもしれない、と思った次第だ。

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