文:藤田りか子
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何かを行うときに、自分の行動や衝動を適切に制御する能力、それが実行機能だ。人の認知科学で語られるコンセプトではあるが、犬にも存在する。いや、この能力を持っている犬は概して家庭犬として飼いやすい。
前回の記事「愛犬の実行機能をチェックしてみよう」でも紹介した通り、実行機能は3要素で成り立つ。おさらいとしてここにもう一度それを示しておこう。
- 抑制(行動の衝動を抑える能力)
- 切り替え(注意の対象を変え変化を許容する能力)
- ワーキングメモリー(当該の状況で必要な情報を一時的に頭に留めておく能力)
興奮しやすい犬や攻撃性の強い犬は、家庭犬として飼いづらい。しかし、抑制が効きやすい犬なら、落ち着くこともできるので頭の「切り替え」も簡単に行われ、したがって飼い主により注意を向けることができる。さらにドッグスポーツをやっている人なら、実行機能の要素のうちのワーキングメモリーも優れている犬を求めたいと思うはずだ。何かを指示したのちに、ディストラクションがはいったとしよう。しかし優れたワーキングメモリーのおかげで、気を散漫させる出来事があったにもかかわらず指示を忘れずにいてきちんとパフォーマンスをこなすことができる。
愛犬に果たして「抑制」「切り替え」「ワーキングメモリー」といった実行機能があるかどうかチェックしてみたい人は、前回動画で紹介した「A-NOT-Bエラーテスト」を見ながら試されたい(↓)。
実行機能は人の場合かなりの割合で遺伝すると言われている。犬の場合もおそらくある程度遺伝する特性ではないかと考えられる。たとえばインパルスコントロールの良し悪しは遺伝的要因であることがアリゾナ大学のGnanadesikanらの研究(2020)によって示されている。
とはいえ、環境要因も決して無視はできない。何かを成し遂げる、という経験を積むことによって実行機能が成長することがこれまで人の子供の研究で示されているからだ。そこでオーストラリアのラ・トローブ大学のForaitaらは、どんな環境要因が犬における「抑制」「切り替え」「ワーキングメモリー」といった実行機能の要素に影響を与えているか、これまで行われた犬の認知研究をもとにレビューを行った(2021年)。以下に3つの環境要因を示そう。
1. 悲しい生い立ち
家庭犬vs 野良犬
子犬時に家庭犬あるいは野良犬として育ったかによって、