文:尾形聡子
[photo by Rikako Fujita]
あらためて、遺伝病とは遺伝現象を担う物質である遺伝子や染色体の異常が原因となり発症する病気のことで、必ずしもすべての遺伝病が親から子へと伝えられるものではありません。ですが、通常その多くは親から子へと伝えられる遺伝物質が原因となり発症します。
そのような遺伝病の中でも、ひとつの遺伝子変異が原因となる狭い意味での遺伝病のことを「単一遺伝子病(メンデル遺伝病)」といい、進行性網膜萎縮症(PRA)や筋ジストロフィー、神経セロイドリポフスチン症、血友病などが挙げられます。一方で、複数の遺伝子の変異が組み合わさり、さらには環境要因も影響して発症するようなものを「多因子遺伝病」といいます。遺伝と環境のどちらがどのくらい原因としての割合を占めるかは病気により異なってきますが、骨肉腫やリンパ腫などのがん、股関節形成不全、糖尿病などが多因子遺伝病に含まれます。
いずれのタイプの遺伝病においても、後世に病気を伝えないようにするためには繁殖前に親犬の健康チェックを怠らないようにすることが重要ですが、とくに、単一遺伝子病の中には治療法がなく、進行性で重症化し、ときに死に至る病気があります。そのひとつが「神経軸索ジストロフィー」という病気です。この遺伝病は犬だけでなく羊や牛、馬、猫、うさぎなど、さまざまな哺乳類で発症することがわかっています。もれなく人にも発症し、小児慢性特定疾病「乳児神経軸索ジストロフィー」として指定されており、根本的な治療法がないのが現状です。
犬の神経軸索ジストロフィーとは?
犬の神経軸索ジストロフィーは稀な病気で、パピヨン、ロットワイラー、スパニッシュ・ウォーター・ドッグなどのごく限られた犬種での発症が