小型犬の飼い主さんは要注意!乳歯が抜けずに残っていませんか?

文:尾形聡子


[photo by mraoraor]

「あれ、うちの子なんだか歯の本数が多いような…?」

乳歯が抜けないまま永久歯が生えてくることを乳歯遺残(いざん)と言います。通常は生後半年ほどで乳歯がすべて抜けて永久歯が生え揃っていきますが、その時期を過ぎても乳歯が抜けずに残るため、歯の本数が本来の永久歯の数(42本)よりも多い状態になってしまいます。乳歯が残る本数や場所は、症例によってまちまちです。

乳歯遺残では歯が重なって生えてきたり、永久歯が生えてこられない状態になったりするため、不正咬合(かみ合わせが悪くなる)を起こしたり、口腔内の怪我、歯周病のリスクが高まるなど、口腔の健康維持に悪影響を及ぼすことがわかっています。口腔内の健康度が低下すると、日々のごはんを食べることはもちろん、おもちゃなどをくわえたり、引っ張ったり、運んだりするようなことがしづらくなったり、万年、口の中が傷つきやすい状態になっているかもしれません。口腔内の健康が重要なのは、生活の質の低下にもつながってくるためです。

口腔内の健康を保つには日頃の歯磨きが大切であることは、これまで犬曰くにてお伝えしてきましたが(文末の関連記事をご覧ください)、歯並びが悪ければどんなに歯磨きをしても磨き残しの可能性が高まります。飼い主さんの努力だけでは太刀打ちできない状況が生じてしまうかもしれず、一般的には乳歯遺残が確認されたら全身麻酔下での乳歯抜歯が勧められます。

乳歯遺残はどの犬にも発症する可能性がある病気ですが、これまでの研究から小型犬に多く発症することが示されています。犬全体の罹患率としては12〜19%とさまざまな割合が報告されていますが、理由として解析対象とされた犬のうちの小型犬の割合にも影響を受けていることが考えられます。


[photo by Kate] ヨークシャー・テリアの飼い主さんは特に注意が必要です!

犬の乳歯遺残の罹患率、罹患率の高い犬種は?

このたび、アメリカ各地にある動物病院(Banfield pet hospitals)の5年間の受診データを対象とした大規模研究が行われました。約330万頭分の全データの中から、主な60犬種、約284万頭の犬が解析対象とされました。また、解析は犬種の体重を6段階に分類し(以下参照、パーセンテージは全データのうち研究に含まれた頭数の割合)、体重と乳歯遺残発症との関連性も調べられました。

  • 超小型<6.5kg 9%
  • 小型5kg〜<9kg 13.4%
  • 小〜中型9kg〜<15kg 7%
  • 中〜大型15kg〜<30kg 5%
  • 大型30kg〜<40kg 4%
  • 超大型>40 kg 1%

海外の研究にしては珍しく、超小型と小型とで全体のおよそ半分を占める割合となっています。それでも日本より小型犬の割合は低いかもしれませんが、この研究結果はかなり参考にできるのではないかと思います。

解析の結果、60犬種、約284万頭における乳歯遺残の有病率は7%でした。体重別に見ると、超小型が15%、小型が6.1%、小中型が3.4%、中大型が0.7%、大型が0.8%、超大型が0.7%で、体の小ささ(体重の軽さ)と有病率の高さが相関していることが見て取れます。中大型以上のサイズ(15kg以上)の犬は罹患率が1%以下となっており、それより小さいサイズの犬に有意に多く発症していました。ただし、体が大型になっても完全に発症しないわけではない点には注意が必要です。

犬種別の罹患率を見てみると、群を抜いてヨークシャー・テリアが高いことがわかりました。以下、全体の平均罹患率7%を超えた犬種の一覧です(12番まで)。超小型にカテゴライズされた10犬種のうち、唯一平均罹患率より低かったのはペキニーズだけで、そのほかの超小型の犬はすべて罹患率が高い犬種に名が連なっています。

中大型以上のサイズの犬はすべて罹患率が1%以下となっていましたが、60犬種のうち、罹患率が1%以下だったのは27犬種、もっとも低い有病率だったのはグレイハウンドで0.1%でした。

今回もこれまでの研究と同様に体の小さい犬が乳歯遺残にかかりやすいことが示された結果となりましたが、体の大きさが原因なのか、遺伝的(犬種)要因があるのかはわかっていません。乳歯遺残は遺伝性疾患ではないかという仮説はあるものの、それを解明する大規模研究はほとんど行われていないのが現状です。

研究者らは、超小型あるいは小型犬の飼い主は、動物病院における健康チェックの際に歯列や口腔内を確認してもらう必要があると認識すべきだと結論で述べています。抜けずに残ってしまっている乳歯を早くに除去できれば健康への悪影響が及びにくくなるため、不正咬合や歯周病発症の可能性を大幅に低減させることができるからです。そのためにも、歯の生え変わる生後6ヶ月ごろに入念な口腔内チェックを受けることがとりわけ重要になると言っています。


[photo by Pixel-Shot]

やっぱり歯磨きは大事!

乳歯遺残になっているかどうかを確認するためにも、子犬のころから歯磨きに慣れてもらうことは大切です。口の中をいじられることに慣れていれば、動物病院での診察時にも役立つはず。口腔内の健康は全身の健康ともつながっています。愛犬に健康でいてほしいと願うのであれば、ぜひとも歯磨きを!挫折してしまったという方は、今日からでも愛犬の歯磨きを再開してみましょう!!

【参考文献】

Persistent deciduous teeth: Association of prevalence with breed, breed size and body weight in pure-bred client-owned dogs in the United States. Research in Veterinary Science, 169:105161. 2024

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