性格も影響~肥満の犬と人は食べ物選択の嗜好が似ている

文:尾形聡子

[photo by Mr TGT]

人々が最も体型を気にしがちであろう季節、夏。しかし薄着になる時期だけでなく、健康維持のためには一年を通じて適切な体重を管理したいものです。世界的に肥満の増加は人のみならず犬にもみられ、もれなく犬の健康へも悪影響があることが示されています。犬は自分の体に対して人のような審美的な感覚は持ち合わせていないでしょうが、肥満になることで体を動かしにくくなったり呼吸がしにくくなるなど日常生活に支障をきたすことがあります。肥満は病気になりやすくなるばかりか、犬の福祉を脅かすものといえるでしょう。

太る原因

百も承知のことではありますが、肥満になるもっとも一般的な要因は運動不足と食べ過ぎです。食べて動かなければ過剰なエネルギー分は脂肪となり、体に蓄積されていくのは動物の生理現象にほかなりません。日本の肥満犬の多さを見るにつけ、獣医師の長坂佳世さんも絶対的な運動量が足りていないと警鐘を鳴らしています

それだけでなく、犬は必要エネルギー以上に食べようとする傾向がある、いわば太りやすい動物であることも研究により示されています。また、食いしん坊の代表犬種ともいえるラブラドールには、食欲のスイッチをつかさどる遺伝子に変異が起きている場合があることも。食欲が止まらない状態になってしまう遺伝的な要因があるというのです。このように犬の肥満には運動量と食事量が直接関係し、遺伝的なバックグラウンドも影響する場合もあることが分かっています。

さらに人の場合、肥満の人は標準的な体重の人に比べると、脂肪分や砂糖が多く含まれたカロリーの高い食べ物により強く惹かれる傾向があることがこれまでの研究により明らかにされています。これは、食べ物という報酬への感受性が個体間で異なること、つまり、個性としてみられる形質であり、脳の報酬システムの一部であると考えられています。

ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究者らは、肥満の人に見られるような食物選択の傾向が肥満の犬にもあるかどうかを調べるために実験を行い、結果を『Royal Society Open Science』に発表しました。それによりますと、肥満の犬は肥満の人と同じような個性を持つ傾向があると結論しています。

美味しいおやつをラクして食べたい

実験には、肥満になりやすいといわれる犬種(ビーグル21頭、ゴールデン・レトリーバー8頭、ラブラドール・レトリーバー14頭)と、肥満になりにくいといわれる犬種(ボーダー・コリー24頭、ムーディ24頭)の家庭犬が参加。そのうち、肥満傾向または肥満と判定された犬はビーグルで6頭(29%)、レトリーバー2種では8頭(38%)、ムーディ2頭(8%)、ボーダー・コリー0頭でした。プレテストとして、低カロリーのニンジンまたはオレンジと、高カロリーの犬用のご褒美おやつ(Frolic dog treat)の2種類のおやつのいずれを好むかを調べ、すべての犬は犬用のおやつを好むことが確認されました。

実験は2種類行われ、ひとつは以下の写真のような指差し選択のテストでした。犬を二つのグループに分け、片方のグループではボウルのひとつにニンジン、もうひとつのボウルには犬用おやつをいれました。もう片方のグループでは片方にニンジン、もう片方には何もいれない状態にしました。いずれのグループでも実験者は常にニンジンの入ったボウルを指差し、犬がいずれのボウルへ向かうかが観察されました。

[photo from Royal Society Open Science] 指差し選択実験の様子。

もうひとつは認知バイアステストです。犬が待つ場所から見て3メートル先の実験室の左右の“特定の場所”を、それぞれ“おやつ入りボウルがある場所”もしくは“おやつが入ってないボウルのある場所”として犬に認識させます。その後、左右の場所の中間地点(あいまいな場所)にボウルを置き、犬がどのような行動をとるか、そしてボウルへの到達時間が計られました。

その結果、太りやすいだろう犬種とそうではない犬種との間に食物選択行動には違いがみられなかったものの、人と共に働く犬種か(レトリーバーなど)独自に働く犬種か(ビーグル)によって、指差し選択の正確性が異なっていたそうです。また、肥満か標準体重かでの比較では、肥満の犬はより犬用おやつを選択し(指差し選択テスト)、あいまいな場所にボウルが置かれたとき(認知バイアステスト)の反応が遅い傾向が見られました。つまり、指差しを無視してでもより嗜好性の高い高カロリーの食べ物を選択し、ボウルの中に入っている報酬が何か分からないときには動きたがらないという“性格”がみられることが示されたといえます。これらより研究者らは、肥満の犬は食べ物に対してより敏感であり、肥満の人が食べ物に対して取る行動と同じ傾向にあると結論づけています。

犬の体重は飼い主に依存します

肥満の犬がラクして美味しいものを得たいと行動するのは、経験的な感情からくるものなのか、それとも体に備わっている生理的な反応なのかは明白ではありません。いずれも影響しているかもしれませんが、エネルギー消費をなるべく節約するようなメカニズムの存在がこのような結果を生み出しているかもしれないとも考えられます。とはいえ、人と同じように太りやすい性格が犬にもみられるというのはとても興味深い結果ではないでしょうか。指差し選択テストなら簡単にできますから、愛犬が将来的に太りやすいかどうかを知るひとつの指標として試してみるのもいいかもしれませんね。

ともあれ、家庭で暮らす犬たちは自分の体重を自分で管理することはありません。太りやすさには個体差があるにせよ、摂取カロリーと消費カロリーをどうコントロールするのかは飼い主次第、まさに生活習慣です。肥満は病気の引き金となり、生活の質の低下を導いてしまいます。健やかな暮らしを長く続けていくためにも、愛犬の体重管理はわたしたちが責任をもって取り組むべきことのひとつだと思いませんか?

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【参考文献】

The behaviour of overweight dogs shows similarity with personality traits of overweight humans, Royal Society Open Science, 2018

【参考サイト】

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