タロウとの別れ(2):決断のとき

文と写真:尾形聡子

タロウ、生まれてはじめての雪。水だけでなく雪も最初から大好きだった。

安楽死の決意が崩れた金曜の夜、10日以上ほとんど眠れていなかったタロウが、横になって30分くらい続けて眠った。翌日も数回、横になって数十分眠ることがあったのだが、その間奇妙な細かな震えを見せるようになった。食欲もさらに落ち、牛肉や嗜好性の高いお気に入りのオヤツしか食べなくなった。私には状態がさらに悪化したように感じられたが、散歩に行きたがらないことはなかった。決断に迷った。

しかし日曜の明け方、明らかに呼吸音が高くなり(空気が通る道が狭まったのだろうと思う)、タロウがあまりにも苦しそうにしながらウロウロしては寝落ちしている姿を見て、確実に状態が悪化したと言わざるを得ない状況になってしまった。水もうまく飲めない。牛肉も食べない。

ああ、今が決意するときなんだと思った。眠れなくなって2週間、もう迷いはなかった。獣医さんには自宅にきてもらうことにした。

日曜の午後。それはとても静かで穏やかで、本当に眠るようなタロウの最期だった。

「ようやく横になってゆっくり眠れるね」

悲しみが押し寄せてきた。けれどその一方で安堵もあった。そしてタロウは最期まで、タロウのままでいてくれた。

翌朝、タロハナの昔の写真が見たくなり、手元にあったスマホでこのブログに使っていた写真をぼんやり眺めていたら、自分の書いたある記事が目に留まった。このブログだ。

犬たちの最期を考えて思うこと
文と写真:尾形聡子『おやすみ、リリー』という本を読んだ。去年のGWの頃だったと思う。中年独身のゲイの男性と12歳のダックスフント、リリーの二人暮らしの中で…【続きを読む】

安楽死のことを書いていて、奇しくもその日付がタロウの命日となった2月9日、2年前のものだった。

“あまりに苦しくて痛い、どうにもならない状態になったときには、安楽死も選択肢のひとつとして考えよう”

そう、決心した。残念ではあるが、物理的に私が犬たちにできることは限られている。そして犬がどういう状態であるかをしっかり受け止め、今を生きる犬にそのような苦しみを与え続けないようにすることも、飼い主の責任と考えているからだ。もちろんかかりつけの獣医師と相談しての上ではあるが、なんとなく、それが必要なときが分かるような気がしている。これまでに培ってきた阿吽の呼吸に、お互いに耳を澄ましてみようと思っている。

命日となる日が2年前に分かっていたかのようなことが書かれていて驚いた。

「僕とお母さんの阿吽の呼吸で決めたんだよ」

「ハナと一緒に今の生活を楽しんでね」

タロウはこんな遺言を残してくれたのかもしれない。

そしてふと、タロウが私の中に溶け込んでいるように感じた。もしかしたらあのブログを書いたときからすでに一心同体になれていたのかもしれないとも。

タロウは私が選んで暮らし始めた初めての犬。どんくさくてものぐさで、マイペースだったけれど、とても優しくて器の大きい犬だった。16年もの間、私のことを見守り続け、数えきれないほど多くのことを教えてくれた。彼がいなかったら今の私はない。

そしてタロウがタロウのまま、自宅で一緒にいるときに最期のときを迎えられて本当によかったと思っている。最後の最後まで自分の足で歩いてくれていた。まだまだ寂しいし、家の中を眺めても耳を澄ましても、どうしても何かが足りないと思ってしまう。けれど、安楽死を決断したことへの後悔はない。

愛犬の安楽死は飼い主にとって苦渋の決断だし、それを行う獣医さんだって大きなストレスを感じるはずだ。だからこそ、そこに関わる人と犬、皆のためにもかかりつけの獣医さんとの信頼関係をしっかり築いておくのはとても大事なことだと実感した。信頼できる先生にだからこそ、大切な愛犬の最期を託すことができるのではなかろうか。

もうひとつ、愛犬に安楽死も考えなければならない状況になった飼い主さんに、必要以上に罪悪感を抱かないでほしいと思った。もちろん考え方はいろいろで、ケースも違えば正解があるようなものでもない。だから私はここに自分の経験を綴った。ケースのひとつとして皆さんの参考になれば幸いだ。今すぐにそのような状況でない場合でも少し深く考えを巡らせてもらえる機会になるかもしれないし、安楽死するかどうかで迷い困ってネットで検索した人の目に留まるかもしれない、と。


6年前の2月8日、大雪。タロウ10歳のとき。もう一度、大雪の中をみんなで一緒にはしゃいで散歩したかったな。

タロウが亡くなった後、このような記事が出ているのを見つけた。安楽死について考える一助となると思うので、是非ともこちらの記事も皆さんに読んでいただきたいと思う。

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