犬にとっての環境エンリッチメントとは?~藤田りか子さんセミナーレポート(2)

文と写真:尾形聡子(本記事はdog actuallyにて2016年4月19日に初出したものを一部修正して公開しています)

前回に続き、日本ペットサミット(J-PETS)主催のセミナー『スウェーデンにおけるどうぶつ達の暮らしから、日本のどうぶつ事情を考える』での、藤田さんの講演の後半を紹介したいと思います。

スウェーデンでの犬の飼養管理事情

「スウェーデンの動物保護法は犬の習性を大切にし、それに即しているものです。たとえば犬の社交欲を満足させてあげること、とあるのですが、それは、犬は社会的な動物だから社交欲を満たしてあげないことは残酷であるという見地に立っているからです。犬の習性を大切にするという見地から、ほかにも、動物を飼う際には少なくとも1日2回は人間の目が届く状況にあること、室内で犬を飼う場合は少なくとも6時間ごとに外にだすこと、屋外の犬舎で飼育している場合でも必ず1日に1回は犬舎の外に出してリフレッシュさせること、室内でのつなぎ飼いは禁止、外で犬をつなぐ場合は最高2時間までなど、犬を店や市場で売ってはいけない、といったことが法律に盛り込まれています。」

室内で犬を飼う場合は少なくとも6時間ごとに外にだすことという条文は、犬を6時間以上留守番させてはいけないということでもあるのですが、日々の仕事のときにスウェーデンの人々はどのように対応しているのでしょうか。

「スウェーデン農業大学などによる200人の飼い主への調査によりますと、仕事のときには75%の人が犬を家に残していました。ただしそのような人には、留守している間に犬を見てくれる人が必ずいます。友人に頼む、近所に頼む、自分の家族に頼むといったネットワークを持っていて、お互いに助け合っていますね。犬のデイケアセンターに預ける人もいますが、犬連れで仕事に行く人は16%とあまりいません。また留守番している間、完全にひとりぼっち、つまり自分(犬)だけになるのは11%という数字が出ています。また、留守番の平均時間は4.5時間でした。」

日本の状況を考えるに、多くの犬たちがもっと長い時間ひとりぼっちで留守番をしているのではないかと思います。法律に定められていなくても、犬の習性を考えた留守番の仕方というのは、飼い主ひとりひとりが考えていくべきことではないかとも思います。

犬にとってのエンリッチメントとは?

スウェーデンの動物保護法の根底には、犬は社会性を持つ生き物であり、ほかの個体との交わりを欲求として持つ動物だということがあります。

「犬は社会性を持つ動物であるということ、習性を満たしてあげることがいかに大切であるか考えてほしいと思います。犬は人の環境の中で人の生活に適応して進化し、生活している動物ではありますが、それはアパートの一室でずっと暮らしていけるということではありません。そこで、犬の持つ自然な行動を満足させる機会を与え、生活を豊かにしていくためには、環境エンリッチメントを施さなくてはならないと考えています。環境エンリッチメントはスウェーデンの動物保護法でも求められています。」

たとえば永久住居としての屋外ケンネル設置に関しても、環境エンリッチメントが施されていることと規定されているそうです。

「体高により犬舎の大きさや屋外運動場の広さが定められていますが、雨風をしのげる大きな犬舎があればいいだけではなく、犬が退屈することなく自然な行動ができ、心地よく生活できるように考慮されています。犬が上がって周りを見渡せるような台が設置されている、犬が掘れる場所や砂場がある、マーキングできる場所がある、おもちゃがある、時にレイアウトを変えるなどといったことです。」

[photo by Rikako Fujita] スウェーデンの屋外犬舎。このような屋外犬舎を持つ人は、ブリーダーに多いそうです。

このような環境エンリッチメントは屋外ケンネルに限らず屋内ケンネルにおいても、デイケアセンターにおいても行き届くよう配慮されているべきことだそうです。犬にとってのエンリッチメントには環境のみならず、さまざまな種類があります。

「食べるという習性に基づいた採食エンリッチメント、犬にとって重要な嗅覚エンリッチメントがあります。視覚も大切かもしれませんが嗅覚を大切にするほうが犬の習性に即しているということ、犬の世界は嗅覚に支配されているのだということを忘れないでください。また、人と触れ合う、ほかの犬と触れ合うといった社会性エンリッチメントも大切です。体を動かすことによる身体的エンリッチメント、そして体だけでなく精神面満たされるようなメンタルエンリッチメントも必要です。」

たとえば採食エンリッチメントは、動物園で飼育されている動物によく行われていることです。

「シロクマなどには、氷の中に食べ物を入れて、わざと食べにくい状態にして与えていますよね。これも採食エンリッチメントの一例です。食べ物を探すという行為は動物のライフスタイルに沿った習性なのですが、一般の家庭犬に食べ物を探すという行為はあるでしょうか?スウェーデンでは、家で一度に食事を与えるよりも、散歩の途中に食事をばらまいて犬と一緒に食べ物探しをしたらいいのではないか、そうすれば一緒にでかける散歩は楽しい狩りになり、お互いの関係づくりにも役立つといったようにも考えられています。犬はさらに、食べ物を見つけたことによる達成感(エウレカ効果)も感じられるわけです。」

日常生活においても”探す”という犬の習性を活性化させることが大事だと藤田さん。また嗅覚エンリッチメントはスウェーデンでとても話題になっていることだそうです。

「嗅覚エンリッチメントには、トラッキングや物品探しなどがありますが、今スウェーデンで大ブレイクしているのがノーズワークです。ノーズワークは麻薬探知犬の訓練方法を家庭犬のためのアクティビティにしたもので、アメリカで誕生しました。先ほどもいいましたが、嗅覚は犬にとって一番大切な感覚なんですよ。」

学術的な研究によってもエンリッチメントがもたらす効果は数多く示されています。

「ストレスホルモン(コルチゾール)の減少、心理的に強い犬にする、将来のトレーニング性能の向上などたくさんあるのですが、エンリッチメントを行っていくうえで注意してほしいのは、同じことを何度も繰り返して馴化させてしまわないこと、そしてエンリッチメントの種類を時々変えるようにすることです。やることを変えていくのは犬のトレーニングと同じですね。」

[photo by Rikako Fujita] 日常生活においても”探す”という犬の習性を活性化させることが大事だと藤田さん。また嗅覚エンリッチメントはスウェーデンでとても話題になっていることだそうです。

とにかく犬と楽しもう!スウェーデンでのエンリッチメント

「スウェーデンでは多くの人々がワーキングドッグクラブに所属してトレーニングに励んでいます。クラブはどこにでもありますし、初心者でもかしこまることなく参加できるような環境です。とにかく犬と楽しもう!犬と一緒に何かをするのはこんなに楽しいんだよ!という経験ができます。

たとえばドッグショーは特別な人だけがやるものではなく、トレーニングのひとつ、社会化のひとつ、アクティビティのひとつとして行われていることです。数多くのドッグスポーツも行われていますが、オビディエンスは31%、狩猟は27%、トラッキングは18%もの人々が参加しています。スウェーデンでは、クラブ活動を通じて”犬と楽しもう!”という気運が高められているのですが、スウェーデンに限らず日本でもそういう状況になるといいのではないかと感じています。

スウェーデンの人は犬を厳しく管理しますが、犬の楽しさが分かっていて、犬との生活をとても楽しんでいると思います。日本に来ると、スウェーデンは自然に囲まれていて自由に犬との生活ができそうでいいですね、というようなことをよく言われるのですが、スウェーデンでなくてもどこでも、都会の一角であっても犬のエンリッチメントをしていくことはできると思っています。」

【関連記事】

犬との共存を考えるための3つのポイント~藤田りか子さんセミナーレポート(1)
文と写真:尾形聡子(本記事はdog actuallyにて2016年4月5日に初出したものを一部修正して公開しています) 都内でも雪がちらつく...
スウェーデンの犬事情について質疑応答~藤田りか子さんセミナーレポート(3)
文と写真:尾形聡子(本記事はdog actuallyにて2016年5月17日、5月31日に初出したものを一部修正して公開しています) 2回にわたり、...