犬との共存を考えるための3つのポイント~藤田りか子さんセミナーレポート(1)

文と写真:尾形聡子

都内でも雪がちらつく夜となった2月24日、講師に藤田りか子さんを招いてのセミナー『スウェーデンにおけるどうぶつ達の暮らしから、日本のどうぶつ事情を考える』が東京大学動物医療センターにて開催されました。主催したのは、どうぶつ達と共に暮らす幸せな社会をつくることを目的として2015年に設立された日本ペットサミット(J-PETS)。日本ペットサミットでは今回の藤田さんのセミナーを皮切りに、今年から年数回の例会を開催していくそうです。

セミナーは2部構成となっており、前半は藤田さんによるスウェーデンの犬観についての講演が、後半は講演内容をふまえてのディスカッションが活発に繰り広げられました。

「スウェーデンに暮らして20年ほどになりますが、その間に肌で感じてきた犬文化、動物観についてお話しできればと思います。」

日本ペットサミット会長で東京大学獣医外科学教室教授の西村亮平先生。「スウェーデンでの犬との暮らしはどのようなものなのかを聞き、そこから日本の状況では何を考えていけばいいのか、どのようにしていったらいいのかというヒントを得られたらと思っています。」

犬と共存するということを考える

「犬は人に幸せをもたらしてくれますが、犬にとっても人がいい存在でなくてはならないと思っています。犬がどう感じているのか、犬が何を必要としているのかということを考えれば、問題とされるような行動もおのずと減っていき、より人と犬とが仲良く暮らしていけるようになるとスウェーデンでは考えられています。」

犬と共存するということについて考えるためのポイントは3つあるそうです。

「まず、犬の福祉国とは?犬を大切にするとはどういうことなのか?ということです。果たしてそれは、犬が好きなようになんでもできる”お犬さま”扱いをすることなのでしょうか。次に、日本では”犬や猫を捨てないで”とよくいわれていますが、果たしてそれは説得力のある言葉なのでしょうか。それだけで犬と幸せに共存できる社会になるのでしょうか。」

最後のポイントは犬の擬人化についてでした。

「たとえば犬を家族の一員として大切にするというのは、犬を擬人化していますよね。では、犬を擬人化するのはどこまでならば許されるのか、擬人化しすぎるとどうなってしまうのか、ということを考えていただきたいと思います。」

擬人化の線引き、良し悪しはどう考えたらいいのでしょうか。

「犬が好きで犬を思いやるからこその擬人化ではあります。しかし極端な擬人化の例には、服を着せて人間らしくさせる、カートに乗せる、うちの子と呼ぶ、トレーニングはかわいそうである、延命治療は最もだと思う、といったことが挙げられると思います。これらは国に関係なく個人レベルでの話です。一方スウェーデンでは、犬が好きで思いやるからこそ犬を社会になじませる、しつけをする、犬の習性を活かしたアクティビティを与える、犬を犬と呼ぶ、動けない犬を歩行器につけて生かすのは果たして犬にとって幸せだろうか、といった考え方が主流です。最後の例については、獣医療のモラルを議論する際に近年よく取り上げられているトピックスです。」

犬を擬人化するということについて、藤田さん自身は次のように考えているそうです。

「私の目指しているところは、”どこまで”ではなく、”擬人化していい部分”と”擬人化したら不幸にさせる部分”を、犬とは何かを知ることで見極められるようになることです。」

擬人化していい部分と、してはいけない部分の見分けるためのヒントとなるような学術研究が、北欧では盛んに行われているそうです。

「最近増えているのは犬の気持ち、メンタル面での福祉を考える研究です。たとえば、犬にも”エウレカ!”(問題解決したときにヤッタ!と思う気持ち)があることが示された研究があります。この気持ちについて人は犬を擬人化して考えていないかもしれませんから、むしろ擬人化していい点だと思います。また、ボディーランゲージの研究も、犬のウェルネスを知るうえでとても大切な知識となります。」

犬も持つ、問題が解決できた!ときのポジティブ感情
文:尾形聡子(本記事はdog actuallyにて2013年10月24日に初出したものを一部修正して公開しています) "エウレカ!(ユリイカ...

“エウレカ!”について、詳しくはこちらからどうぞ。

数多く行われている犬のメンタル面についての研究の中から藤田さんがピックアップされたものは、擬人化を考える上でとても興味深いものでした。

「こんな研究もあります。私は犬が大好き、でも果たして犬はあなたのことが好きなのか?ということをアンケート調査したものです。そこでは “私はこの犬なしでは生きていけない”という項目に”Yes”と答えた人の犬は、必ずしも飼い主のことが大好きとは限らないという結果になっていました。相思相愛が成り立っている飼い主と犬の関係にもっとも多くみられたのは、犬と一緒にアクティブなことをしていることでした。また、たくさんの運動を与えられている犬は、大きな音にも平然としていられる、分離不安が少ないといった気丈さが見られることも別の研究からわかっています。」

獣医療のモラルという観点からは、獣医療の発達は果たして犬にとって幸せかどうか、それはスウェーデンの動物保護法に沿ったものであるのか、といった研究もおこなわれているそうです。獣医療のモラルには死生観、宗教観などもかかわってくるでしょうから、国によって見解の違いがあることはもちろん、個人によっても異なると思います。しかしさまざまな考えがあるのを知ることも、自分の中で犬の擬人化を考える際に役立つ材料となるはずです。

スウェーデンの犬事情

スウェーデンは犬王国ではあるものの、犬の保持率は12.8%と日本の18-20%に比べて低くなっています。

「スウェーデンは森も湖もあって犬王国ならば、どれだけ犬は自由なのだろうと思われるかもしれません。しかし実はそうでもないんです。日本より自由がきくところもあるけれど、日本と同じくらい、特に街中ではリード着用に関して厳しいです。狩猟対象となる野生動物を管理するために、特に鹿の子育てに当たる春から夏にかけては、森で勝手に犬を放してもいけません。とはいっても、とてもスウェーデンらしいのは、自分で犬の行動を管理できるか否かが問題であり、日本のように犬にはリードをつけなくてはいけません、というものではないところです。必ずリードをつけていなくてはならない場所も街中にはたくさんありますが、たとえば目の前に鹿が横切ろうとも、どんな状況であっても呼び戻しがパーフェクトならばリードをつけなくてもいいという解釈もできるのです。」

日本と大きく異なるのが、つなぎ飼いについてです。

「つなぎ飼いは動物保護法違反になります。同様に、トレーニングに電気カラーとプロングカラー(スパイクがついている首輪)を使うのも禁止されています。」

スウェーデンは犬の管理がたいへん行き届いている国です。

「スウェーデンのケネルクラブに血統種として登録されているのは、犬の総数の62%になっています。かなり血統種が多い国ですね。農林省が管轄しているマイクロチップですが、92%の犬がチップを入れています。スウェーデンではマイクロチップの装着が義務付けられているのですが、この数字をみるに法律を遵守しようとするスウェーデンの国民性が表れていると思います。多くはブリーダーがチップを装着した後に(予防接種の際に獣医の元で行うのが普通)、子犬を譲っている状況です。」

スウェーデンには野犬がほとんどおらず、その点も犬の管理がきちんとされている表れだといいます。そして、避妊去勢手術をしている犬の割合は22%ととても低いのも特徴だそうです。逆に猫は81%となっています。

「スウェーデンでは犬を放し飼いにするわけではないので、手術をしなくても飼い主がしっかり管理していれば子犬をつくることはありません。ですので、去勢去勢といわれるようなこともあまりありません。ケネルクラブの繁殖に関する規則もとても厳しく、ブリーダーが健康的にも気質的にも良い犬をきちんと選んで繁殖をしていますので、一般の人が自分の犬とあの犬を繁殖させようという発想を持つこともありませんね。」

スウェーデンでの里親にだされる犬事情

「スウェーデンは野犬がいなくて犬の管理がしっかりしている国ではありますが、”この犬いらない”という状況はどうしても起こりえます。」

スウェーデンにはドイツのティアハイムのような犬の保護施設はほとんど無いそうです。

「施設が無いので、里親を探している犬はインターネットのブロッケット(blocket)という売り買いのサイトにだされるのですが、そのサイトにだされた犬について調査した人がいます。」

サンプル数は800頭。スウェーデンではどのような理由で、どのような犬種の犬たちが里親にだされる傾向にあったのでしょうか。

「犬の総数の62%が純血種のスウェーデンですので、里親にだされる犬もやはり半数以上が純血種でした。犬種ではジャーマン・シェパードが最も多く、続いてアメリカン・スタッフォードシャー・テリア、チワワ、ロットワイラーとなっています。」

さらにこの調査ではFCIの犬種グループごとでの状況をみており、その結果は今の日本の状況を考えるうえでのヒントにもなるのではいかと藤田さんはいいます。

「もっとも多かったのがグループ9で全体の18%でした。チワワやシーズー、プードルなどの、愛玩犬という使役を持った小型犬たちです。ほかのグループに比べて、なぜ愛玩犬グループが一番里親にだされているのか考えてほしいと思います。たとえばラブラドールなどのレトリーバーといった鳥猟犬が属しているグループ8ですが、その割合は4.1%と低い数字になっています。また、スウェーデンの人気犬種の1位はチワワですが、スウェーデンでは日本のように小型犬に人気が集中しているわけではありません。2位以下にラブラドール、ジャーマン・シェパード、ゴールデンと続き、日本の人気犬種のトップには入ってこないような大型犬もランキングしています。」

では理由はどんなことが挙げられていたのでしょうか。

「一位は一身上の都合(26.1)、次いで、時間がない(23%)、家庭の事情(15%)、問題行動(11.3%)、アレルギー(5.5%)となっていました。注目していただきたいのは問題行動です。多くの国では、犬を手放す理由の上位に問題行動が挙げられていますが、スウェーデンでは理由の4番目となっています。この点もスウェーデンの特徴でしょう。これらの調査結果から、スウェーデンで里親にだされる犬は小型犬が多いが問題行動が原因ではない、ということができると思います。

スウェーデンではなくオーストリアの研究になるのですが、1276人の犬の飼い主にアンケート調査を行ったものがあります。その結果、小型犬は大型犬に比べると、より不服従、攻撃的、不安で怖がりであること。小型犬の飼い主は大型犬の飼い主より、犬との付き合い方に一貫性を欠き、あまりトレーニングに時間をかけず、あまり犬と一緒に遊ばない。という傾向にあることが示されていました。これが何を意味しているのか、かみしめて考えていただきたいと思うのです。」

(本記事はdog actuallyにて2016年4月5日に初出したものを一部修正して公開しています)

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