フレンチ・ブルドッグ、レトリーバーになる!

文と写真:藤田りか子

レトリーバーのごとく、水場のダミーを回収しようとする、フレンチブルドッグのクヌット(スウェーデンにて)。

ところは私の近所、スウェーデンのヴェルムランドという県。湖のそばをラッコといっしょに散歩していたら、湖畔の葦の茂みの向こうから

「もってこい!」

それに続いて、呼び戻しのホイッスル音「ピッピ!」

と鳴るのが聞こえた。

おや、レトリーバーのトレーニングかな、いつものラブかな、と思い、ふと足を止めて様子を見ようとした。だが、人が立っているのだけが見えて、どうも、犬がなかなか現れないのだ。

ちょっとだけ近づいて…

…と発見したのは、フレンチ・ブルドッグ!

どうりで姿が見えなかったわけだ。犬の背が低いために、岸の藪の中に完全に体がすっぽり埋もれてしまっているのだから。なんと、湖でのダミー回収の練習中。

「わっはっはっは!」

私は大笑いをしてしまった。こんな可愛いレトリーバー、見たことがない。それも、フレンチブル!

「”レトリーバー”のトレーニングですか?」

と話しかけることができたのも、飼い主のカーリンさんはピックアップ・ベスト(獲物を入れる大きなポケットのついた狩猟用ベスト)に、ホイッスル、緑の長靴といういでたちで、完全にレトリーバー・トレーニングのフリークであるのが、一目瞭然だったからだ!

聞けば、このフレンチブルのクヌットは、なかなかのワーキング・ドッグで、なんとブラッド・トラッキング(手負いの獲物の血痕を追い探し出すスポーツ)のチャンピオンタイトルも持っているそうだ!おそらく、フレンチブルドッグ史上初めて??

そして、飼い主のカーリンさんは、やはりレトリーバーの大ファンで、フレンチブルのクヌットの他にラブラドール・レトリーバーを飼っている。ショー・タイプのラブだが、狩猟トレーニングをしており、素晴らしいレトリーバーであるということ。

「レトリーバーを飼っていれば、当然、他の犬種を飼っていても、つい、回収のスポーツを試したくなるんですよ。でも、クヌットは、何回かトレーニングをした後に、回収ゲームをとても楽しむようになりました」

誰がフレンチブルに嗅覚に関わるスポーツができないと言った?飼い主の情熱と、ちょっとの気持ちの余裕でこんなに熱心な回収犬ができあがるのだ。運良くムービーを撮ることができたので、ぜひ、その働きぶりを以下の動画に見られたい(アマチュアのクォリティで申し訳ないのだが)。この中でクヌットの捜索意欲の強さは注目に値する。上手に鼻と風を使いながら、ちゃんと、ダミーを探し出そうとしているのだから!

注目すべきは、クヌットの捜索意欲の強さ!上手に鼻と風を使いながら、ちゃんと、ダミーを探し出そうとしている。

フレンチ・ブルドッグのような短吻犬種は、マズルでの熱交換が非効率、そして狭まれた口の中に「短吻化」間に合わず各器官が比例して小さくならないままに、詰め込まれてしまっている。それで、呼吸障害を持った犬が多い。悲しいかな、呼吸障害があるために、犬が楽しんで当然の簡単な運動やスポーツすらできない犬もいる。

こんな犬種が存在して倫理的に正しいものなのか。オランダでは、イングリッシュ・ブルドッグのブリーディングをする際には、両親犬を走らせどれだけ耐久力があるか、健康診断をしてからブリーディングを許可する規制をだしはじめた。この動きに、賛成をして同じようなシステムの採用に興味をしめしているケネルクラブが他のヨーロッパ国にも存在する。スウェーデンでは、フレンチブルドッグやパグの鼻腔が十分に開いているか、そしてリングを走らせた時にどのような呼吸の仕方をしているか、によって、ショードッグの審査員は、犬の健康性を吟味して犬を選ぶことが求められている。

こうして世界各国が、犬種世界の非常識をなんとか、改良しようとし始めている。クヌットのように、森の中でダミーを探し「まともに」走ることができるフレンチブルドッグがいるのは、希望が多いに持てることだ。

そして、迷信を信じるなかれ!クヌットを見たまえ、健全なフレンチブルドッグであれば、嗅覚感覚は、他の犬とはなんら変わらない、ということでもある。

(本記事はdog actuallyにて2015年5月13日に初出したものを一部修正して公開しています)

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