運動ギライは呼吸がしにくいせいだけじゃない?~パグの3頭に1頭が歩行に異常をみせている

文:尾形聡子

[photo by rpavich

チワワ、シーズー、フレンチ・ブルドッグ、パグ、キャバリア、ペキニーズ・・・2017年の1年間にJKCに登録された犬種別頭数を上から見てみると、小型の短頭種の名前が数多く見られます。小型短頭種は日本のみならず、世界的にも人気が高まっているようです。しかし、短頭種はマズルが短く頭が丸いという形態的な特徴から、気道閉鎖症候群(BAOS)と呼ばれる呼吸器系の病気になりやすかったり、シワの多さから皮膚病にかかりやすいなど、さまざまな健康問題を抱えがちでもあります。

気道閉鎖症候群は呼吸機能が異常となる症状の総称で、太い舌根や軟口蓋過長症、鼻の穴が狭い、鼻道が短い、気管が正常に発達しないなどの構造異常がみられます。そのため、気管の入り口が閉塞して呼吸困難を引き起こしやすくなります。呼吸機能が低下しやすければ自ずと運動をしたがらなくなる傾向にもなるでしょうが、パグが運動を嫌がる理由はそれだけではない可能性が示されました。スウェーデンの研究チームにより『Veterinary Record』に発表された研究によれば、スウェーデンに暮らすパグの3頭に1頭に歩き方の異常が見られたそうです。

歩行異常は高齢や呼吸困難と関連がみられた

研究者らは、2015年と2016年それぞれにスウェーデンのケネルクラブに登録された、1歳、5歳、8歳のパグ、2374人の飼い主に研究への参加を依頼。そのうち550頭のパグの飼い主から質問の回答が寄せられました。質問内容は、犬に歩行障害があるか、歩行がおかしいと気づいたのは何歳のときか、歩行がおかしくなったのは急激か、異常な様子は続いているか、改善しているか、どの脚に異常があるか、跛行やジャンプができないなど歩行異常の様子、爪や足先の皮膚の異常など、歩行異常について細かに尋ねるものと、発作や呼吸困難を起こしたことがあるか、また外科手術をしたことがあるか、死亡したならば自然死か安楽死かといった一般的な健康問題について尋ねるものとなっていました。

アンケートでは飼い主の約80%が犬の歩行は正常であると回答していたものの、約30%の犬に、アスファルトを嫌がる、ジャンプが困難、歩行異常によると思われる爪や皮膚の異常な減りや擦り傷、出血などがみられることがわかりました。また、爪や皮膚に異常があると回答したうちの約44%の飼い主が、犬の歩行は正常だと答えていました。

アンケートの際に、犬の歩行の様子を前から、後ろから、横からそれぞれ撮影した映像も募ったところ、89本の映像が届けられました。そのうち解析可能な59本について、2名の獣医神経学者が評価を行いました。その結果、専門家により正常な歩行をしていると判定された犬は40頭、異常ありが19頭だったのですが、飼い主の46人が正常であると回答していたそうです。

アンケートと映像解析の結果から、スウェーデンにおけるパグの歩行問題は3頭に1頭みられるという結果となりました。

歩行異常が始まった年齢は平均2歳でしたが、歩行異常は高齢と強い相関があることも示されました。また、後肢より前肢が先に異常をみせる傾向にありました。歩行異常は、呼吸困難を起こしたり、首や耳まわりを過度に掻くことも相関がみられ、トイレを失敗する可能性が高まることもわかりました。一方で、体重と歩行異常との間には相関がみられませんでした。

研究対象となった550頭のうちの47頭の犬において安楽死が選択されていたことも分かりました。呼吸困難などと並んで、多数の人が歩行異常を安楽死の選択をした大きな理由に挙げていたそうです。これらの犬たちの歩行異常の程度については文献からはわかりませんでしたが、このことについて研究者らは、パグの歩行異常はこれまでに考えられていたよりも深刻な健康問題になっていると考えられるとしています。

パグの歩行異常は神経系異常が原因か

歩行異常は大きく、パテラや股関節形成不全など骨格・筋肉系の問題が原因となる場合と、椎間板ヘルニアや水頭症など神経系に起こる問題が原因になる場合とがあります。今回の結果を受けて研究者らは、爪や皮膚の損傷と、映像で見せた跛行とが共通した所見ではなく、運動協調性に問題があったため、パグの歩行異常は神経系が原因である可能性が高いと言っています。

こちらの動画は今回紹介しました研究の筆頭著者、Cecilia Rohdin氏がパグの歩行異常のパターンのひとつを撮影したものです。

スウェーデンと日本とでは歩行に問題を抱えるパグの割合は違っているかもしれません。しかし、飼い主の回答よりも実際に歩行困難を見せていた犬が多かったことは、注目すべき点だと思います。『たとえば、短い鼻の犬はいびきをかくのが「正常」なのか?』でもお伝えしましたように、短頭種気道閉塞症候群に罹っている犬の飼い主の半数以上が、犬の慢性的な呼吸問題を問題として認識していなかったという結果と同じ側面を持っていると思うからです。

短頭種の呼吸の問題にせよ、パグの歩行の問題にせよ、多くの犬によく見られる兆候だとしても、それが正常であり健康な状態であるとは決して限りません。犬の抱える健康問題について人がまったく知らなかったり、知っていても気づかずにいれば、犬たちの生活の質が低下する可能性は高まるでしょう。もちろん、健康問題を抱える犬を減らしていく繁殖をする努力は必要ですが、健康問題を見逃さない、見過ごさない目を私たちが養うことも大切だと思うのです。

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【参考サイト】

Science Daily