「日本の犬事情を20年間見てきて思うこと」 – 千葉路子さんインタビュー (2)

文と写真:尾形聡子(本記事はdog actuallyにて2010年12月23日に初出したものを一部修正して公開しています)

社員の方が同伴出勤で連れてきた犬たちと一緒に。リオちゃん(左)と花子ちゃん(右)。

日本の犬事情の変遷を見てきて

犬書籍を通じて日本の犬事情と接し続けてこられた千葉さんに、この20年間の変化について感じることを伺ってみました。

「まずはそうですね、飼い主さんの意識がとても高まってきていると思います。犬を飼うことの意味とか、飼うために必要な知識とか。動物病院や訓練士の方々のレベルも上がってきているように思うのですが、それは、飼い主の方の意識レベルが上がってきているからこその結果ではないかと思っています。」

一昔前には、”犬なら放っておけば自然に治る”くらいの風潮もあったかと思います。それに比べると、確かに今は以前よりもずっと動物病院を利用するようになってきているでしょう。

「そのような飼い主の方々に背中を押されるようにして、獣医師さんもレベルアップされていますし、医療設備も随分整ってきていますから、その点はすごくいいことではないかと思います。同様にして、訓練士さんのレベルも高くなっていますね。というよりも、訓練士さんが小型犬でも、つまり、どんな犬種でも訓練するようになったという方が正しい言い方かもしれません。20年前は、ラブラドールよりも大きな犬しか訓練していなかったと思います。そもそも小型犬の訓練をしてくれという依頼もなかったでしょうから、訓練士さん自身も小型犬の訓練方法を知らなかったんですよね。でも今は、小型犬ブームですし、小型犬の訓練の依頼も沢山ありますから、訓練士さんも勉強して、小型犬に向いた訓練方法とか小型犬に特有の問題点などを知るようになって、訓練士さんのレベルが本当に上がったなと思っています。それこそ、日本の訓練士さんの平均的なレベルは欧米よりも高いのではないかと思っています。皆さん、よく勉強されていますし、とてもいい訓練をなさっていますから。欧米と比較すると、どうしても日本は犬のレベルが低いと言われがちではありますが、そんなに卑下しなくてもいいのではないかと思うんです。」

とにかく20年前と比べれば、飼い主の方も獣医師の方も訓練士の方も、圧倒的にレベルが上がってきているというお話は、心強く、少し安心することができました。もちろん、現状に満足することなく、さらにいい状況を目指していくことは大切なことです。また20年が過ぎるころには、もっともっといい状況になっていたいですから。そして、耳が痛い話になることを覚悟して、あえて、よくない風潮だと感じられることはないかと尋ねてみました。

繁殖にかかわる人々への不安

「私がいつも思っているのは、日本のブリーダーの方は勉強をしなさすぎるということです。例えばアメリカのブリーダーの方のお宅に伺うと、壁一面に本が並んでいたりします。その犬種の歴史とか、病気のこととか。ものすごく勉強されていらっしゃいますし、獣医師ともしっかり話し合いをしています。ヨーロッパのブリーダーの方などは本当によく歴史を知っていらっしゃるので、その犬種がどういう歴史の変遷を経て今に至っているのか、そして今の形を守りながらさらに良くしていくためには何が必要か、ということを常に念頭に置いて繁殖されているんです。残念ながら、日本でそのようなブリーダーの方とはあまり会ったことがありません。それは20年前と今と変わらないですね。むしろ、昔のブリーダーの方々の方がもっと勉強されていたのではないかと思います。」

昔は今のように情報が簡単に入手できるような状況でなかったことからも、一所懸命情報を集めて勉強されていたブリーダーの方が多かったようです。JKC が創設されてから約60年が過ぎましたが、まさに、JKC の歴史とともに繁殖をされてきた方々です。

「そのようなご高齢のブリーダーさんたちの晩年にお会いして改めて思ったのが、皆さん本当に犬が好きで、勉強もたくさんされて、良い犬をつくられていたということです。そのような方々は、戦前はまだ子どもだったけれど、犬が好きで好きで仕方がなかった。で、戦争が終わってやっと洋犬が飼えるととても喜び、犬を繁殖してこられたのです。今はその次の世代にバトンタッチされていますが、先代の方々ほど犬が好きかというと、それほどまでに好きではないのではないかと感じることがあります。純粋に犬が好きで勉強して繁殖をというよりも、ショーの勝ち負けが中心になってしまっているという印象なんです。確かにいい犬がチャンピオンになるのは当然のことなのですが。もちろん今も、犬が大好きで素晴らしい繁殖をされている方々もいらっしゃいます。しかし、そういう方々に限って表舞台に出てこないんですよね。ですから私の仕事として、そういう方々に”犬をどうやって繁殖していくのか?”というようなお話をしていただける機会をつくりたいとずっと思っているのですけれども、それがなかなかに難しいんです。」

一部のショーブリーダーの方は、犬の将来の事を考えてというよりも、とにかくショーで勝つ犬をつくることに没頭してしまっているそうです。その辺りが、戦後の日本の繁殖業界を支えてきたブリーダーの方とも、そして、欧米のブリーダーの方とも違うよくないところではないかと指摘されていました。

「今の時代は情報だけはいくらでもあるような状況ですから、集めようと思えば一昔前よりもずっと簡単に集められますよね。それにもかかわらず、ブリーダーの方々の多くは、積極的に新しい情報を得たり勉強したりすることなく、ものすごく狭いフィールドでしか見ていないんですよ。まるでお山の大将のようになってしまっているといいますか。もうちょっと広い視野で犬の将来のことを考えて繁殖をしてもらえればと思っているのですけれど。」

そして、さらに続けられました。

「日本人の体質というか傾向といいますか、声が大きな人のところにシンパが集まるんですよね。たとえよくないことを言っていたりしても、そこに集まっていってしまうんです。たとえば、マスコミで考えた場合、シンパが多いほうの意見に寄った記事を書けば、その方が売れる可能性が高かったりしますよね。決してそれが正しいとは言えないことであっても。ですので、日本の飼い主さんには、自分の目で見て正しい方を判断して欲しいと思うのですが、それがなかなか出来ないのではないかと思うことがよくあります。どう見てもおかしいと思うことでも、周りの意見に動かされてしまったり、味方が多い方に流されてしまうといいますか。」

むしろこの点は、20年前よりも悪くなっているのではないかと思うと千葉さんはいいます。

「しつけなどのレベルは高くなってきていると感じますが、自分で判断することが出来なくなってきているのではないかという心配があります。だからこそ声の大きい人のところになびいてしまいがちといいますか。また、インターネットの弊害もあるのではないかと。誤った情報がインターネット上に氾濫していますからね。もちろん、昔だったら絶対に得られないような貴重な情報が得られるといったメリットもありますが、ひとりひとりがもう少し自分で勉強をして、自分の意見を持って判断をするようになるべきではないかと思うのです。そうなっていけば、必然的に、ブリーダーの方々ももっと勉強されるようになるのではないかとも思うのです。」

20年間犬書籍のお仕事を通じて日本の犬事情をつぶさに見てこられた千葉さん。その言葉の重みがひしひしと伝わってきました。何日あってもお話を聞き足りないくらいではありましたが、インタビューもそろそろ大詰めへと近付いていきます。

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