文:藤田りか子
【Photo by seaternity】犬といるときの幸せ感には、ホルモンの分泌がかかわっていた。
犬といてほっとする、というのは我ら愛犬家にとっては日常の経験だ。外から帰ってきたときに愛犬に迎えられることの喜び。布団に入って愛犬を撫で撫ですることで得られる満ち足りた気持ち。これがあるから犬と暮らして楽しいのだし、これなくしてもう人生ありえない!
ところでこの幸せ感、犬の何がどう作用して人間の感情に働きかけてくれるのか?そこには実は科学的な証拠があった。オキシトシンというホルモンの分泌がその秘密だ。赤ちゃんを産むと母性本能があふれ出て、母親はふんわりと満ち足りた気持ちを経験する。どこから湧き上がってくるのか、この不思議な安堵感と幸福感。それは、オキシトシンという出産や乳汁射出にたずさわるホルモンの仕業と言われている。そして同じホルモンが、犬と接する時の我々(男女拘わらず)に出されているということが最近の研究によって明らかになっている。
「オキシトシンは出産したばかりの母親に大量に分泌され、赤ちゃんとの絆を強める役割も果たしているので、長らく女性だけのホルモンと考えられていました。が、男性にも存在し、その役割はもっと広いものであることがわかったんです」
と語るのは人間の神経系の安らぎシステムについて30年間研究を続けているスウェーデンの生理学者シャスティン・U・モスベリー教授だ。4人の子供の母親でもある教授は4年前に、肌の触れ合いと幸せ感についての本を著わし世界で話題を呼んだ。彼女が強調するのは、撫でられることや撫でることで得られる柔らか感触こそが、オキシトシンの分泌を最も促進するものであり、ひいては安らぎと平和感をもたらす、ということ。
スウェーデン農業大学獣医学部、小動物管理学科における彼女の一連の実験によると、母親から引き離されたマウスも、ひざに置いてお腹を一分につき40回撫でてあげると、オキシトシンの分泌が促進され、母親に育てられたマウスと同じ成長率においつくことがわかった。また行動が落ち着き、怖がることがあまりなくなり、学習能力もあがった、ということだ。
愛犬を撫でることで人間が感じる一体感、安堵感、幸福感。お腹を撫でられ気持ちよくなり、みんなと仲良くしたがるマウスと論理は同じだ。犬を撫でる時の柔らかい触感が刺激となり、我々の中でオキシトシンが分泌される。
モスベリー教授は言う。
「犬を飼っている人は、飼っていない人よりも血圧が高くなく、健康だといいますね。でもそれは毎日の散歩だけのおかげではないってことが今回はっきり分かりました。犬と接する、そして犬を触る、これも健康の源となっていたわけです」
何とはなしに感じていた、愛犬といっしょにいるときのハッピー・フィーリングは、迷信でも思い込みでもなかったのだ。彼らといる幸せをいっそう噛みしめられそうである。
(本記事はdog actuallyにて2008年9月10日に初出したものを一部修正して公開しています)
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