人と一緒に何かしたい!コンタクト欲の違いはオキシトシン感受性の違い

文:尾形聡子

[photo by Mia Persson]

幸せホルモンとして広く知られているオキシトシン。『見つめ合いとオキシトシンが人と犬の絆形成のカギに』でお伝えしましたが、最近では人と犬との絆を形成していく上でも重要な役割を果たしていることも報告されています。脳内で作られるオキシトシンは、もともと人の出産や子育てに影響するホルモンとして発見されましたが、その後の研究により、人に限らず幅広い生物種における母子間の絆形成に影響をしていること、また性別にかかわらず、感情理解や信頼関係などの社会性の形成にも極めて重要であることが分かっています。

オキシトシンが働くためにはオキシトシン受容体が必要

さまざまな役割を持つホルモンであることが分かってきているオキシトシンですが、単にオキシトシンが大量に分泌されるだけではその効果があらわれることはありません。オキシトシンに対する感受性が高まるには、オキシトシン専用の受け皿である、オキシトシン受容体に結合することが必要です。

人と犬それぞれにおいて、オキシトシンやオキシトシン受容体遺伝子には多型とよばれる微妙にタイプの違うものが存在していることが分かっています。人での研究は盛んに行われていますが、犬においても、その個体がどのタイプを持つかによって、社交性などの性格傾向などが異なることが少しずつ明らかにされ始めています。たとえばGシェパードとボーダー・コリーを対象にオキシトシン受容体と社交性との関連性を調べた研究では、オキシトシン受容体には3つの多型があること、両犬種に共通してオキシトシン受容体のタイプと人に対する社会的行動との間に相関が見られたとの結果が発表されています(2014年、PLOS ONE)。

そして先日、スウェーデンのリンシェーピング大学の研究者らによる、ゴールデン・レトリーバーのオキシトシン受容体と人へのコンタクト行動との関連性についての研究結果が『Hormones and Behavior』に発表されました。

解決できない問題に直面したときに、“手助けして!”のサインをすぐに送るかどうか

研究には60頭のゴールデン・レトリーバー(オス26頭、メス34頭)が参加。犬たちはまず、おやつの入った箱のふたを開けることから教えられました。次に、同じ仕掛けにおやつを入れるものの、決してふたが開かないようにしておきます。その時に犬が自分で開けるのは無理だと判断し、人に助けを求める行動をどのくらいの時間でどの程度とるか、チェックされました。

このテストを行う前には、鼻からオキシトシンをスプレーしてオキシトシンの血中レベルを上昇させました。さらにコントロール実験として、オキシトシンではなく生理食塩水を鼻からスプレーしてから同じテストが行われました。また、個々の犬のオキシトシン受容体の多型がどのタイプであるか、DNAの検査もされました。

[photo by Mia Persson] テスト真っ只中のゴールデン・レトリーバー。

その結果、AAというタイプの犬たちは、生理食塩水をスプレーされたときよりもオキシトシンをスプレーされたときのほうが、明らかに飼い主に助けを求めるコンタクト行動を多くとっていたことが示されました。

そこで、これは進化の過程で犬が得た能力(遺伝子の多型)なのかを調べるため、研究者らは21頭のオオカミのオキシトシン受容体のタイプを解析したところ、オオカミにも同じAAというタイプの個体が存在していることが分かりました。このことは、犬が家畜化される以前から、オキシトシン受容体の多型が存在していたことを示唆する結果だと研究者らは言います。人とコミュニケーションを取る能力に長けたオオカミを人が選択して家畜化していったのではないか、という仮説を後押しする結果と言えます。

今回はゴールデンだけを対象とした研究でしたが、同じゴールデンでも個体により持つ多型に違いがあることが示されたのは、最初に触れましたGシェパードとボーダー・コリーのときの研究と同じ結果と言えます。オキシトシン感受性だけが社交性のすべてを決めているわけではなく、他にもさまざまな物質が関係しているのですが、オキシトシン受容体だけでもさまざまな犬種で調べてみると、作業特性(犬種)と多型との関連性も見えてくるのではないか・・・などと思いを巡らせたりもするものです。

【参考サイト】
Linköping University

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