所変われば犬種名も変わる

文と写真:藤田りか子

外国のドッグショーのカタログを開くと、たとえよく知られた犬の名前でも、日本で表記されている名とはまったく別の名前で出ていることに気が付く。たとえば、パグ…。

職業上、FCI(国際畜犬連盟) に登録されている犬種名はすべて把握していると思っていた。随分前のことになるが、イタリアのドッグショーに初めていった時のこと。何気なくショーカタログを眺めていたら、一度も聞いたことのない犬種名が目に飛び込んできた。

それはアラノという名前。よっぽどのレア犬種に違いないと思いきや、しかしカタログには100を超える出陳数。これは放っておけぬ。早速どんな犬だか確かめるためにリングに向かったところ…

そこはグレート・デーンだらけだったのだ。そうか、イタリアではグレート・デーンのことをアラノと呼ぶんだ。そして原産国ドイツでは何と呼ばれているかご存知?これがグレート・デーンというサウンドからまったくかけ離れたものでドイチェ・ドッゲ。そしてデンマークやスウェーデンでは何故かフランス語でグランダノワ。なのにフランスではドグ・アルマー

そう、所変われば犬種名も変わる。世界的にポピュラーな犬種なのに、ある国では何故こんなに得たいの知れない名で呼ばれているのか、ときどき不思議に思ってしまう。

原産国ではカニッシと呼ばれているこの犬種。スウェーデンではプーデル (Pudel) と呼ばれる

ほかにも、カニッシなんていう名の犬がいるが想像つくだろうか、この犬種、プードルの原産国、フランスでの名だ。カニッシは「鴨」のこと。プードルがもともと水鳥猟犬であったことを示唆する、犬種歴史的にとても興味深い名前である。

トイマンと呼ばれておなじみのトイ・マンチェスター・テリアは、実はアメリカ/カナダと日本で呼ばれている犬種名。原産国のイギリスをはじめヨーロッパではイングリッシュ・トイテリア

テッケルを知っている人は多いはずではないかな?ダックスフンドのドイツ名。ダックスフンド自体、ドイツ語の単語(=アナグマ・犬)で成り立っているので、原産国でまさか他の呼び名になっているなんて考え付かない。ちなみに、スウェーデンではタックス(TAX)。税金(英語で TAX)みたいで、なんだかいやな感じ。まぁ、税金の高いスウェーデンだからしょうがないか。

ドイツのドッグショーで見たダックスフンド愛好会のブース。テッケルクラブと看板に記されているのに注目。

もうひとつ。この呼び名の犬を当てることはできるだろうか?いずれも同一犬種の名前のリストである。

  • フランスではカーリン(Carlin)
  • イタリア、スペインではカルリーノ(Carlino)
    これは18世紀のイタリアの俳優カルロ・ベルティナッティの名に由来する。というのも彼がハールクインを演ずるときに、黒いマスクをつけていたからなのだ。
  • オランダではモップスホンド(Mopshond)
  • スウェーデン、ノルウェー、デンマークではモップス(Mops)
    由来は、オランダ語の mopperen、つまり「困ったような表情の」とか「不機嫌そうな表情」から由来という説が有力だが、ドイツ語起源と考える人もいて、その場合、意味は「ブスブスと音を立てる」。

さて、ヨーロッパのアジア系国(フィン・ウゴル系)を見てみると、

  • ハンガリーではモップス(Mops)
  • フィンランドではモプスィ(Mopsi)

と、完全にゲルマン系の言葉に由来している。

最後に、本場の国を見てみよう。

  • 中国では巴哥犬(ハ・バ・ゴー)

果てさて何かな…?

答えは、パグでした!

しかし、なんといろいろに呼ばれていることよ!一体誰がこの犬種のことをパグって呼んでいるの?

もしかして日本と英語圏だけだったりする…?

(本記事はdog actuallyにて2009年8月12日に初出したものを一部修正して公開しています)

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