ホワイト・ドーベルマンとアルビノ犬研究

文:尾形聡子

[photo from PLoS One]
日の光にたいして眩しそうに目を細めるホワイト・ドーベルマン。

生物が生きていく上で大切な情報が刻まれている DNA は、さまざまな刺激により高い頻度で日々損傷を受けています。生物には損傷を受けた DNA を修復する機構が備わっているため、通常は正常な細胞のままでいられるのですが、修復が間に合わなくなってくると細胞がガン化したり老化が進むといった現象が引き起こされやすいことがわかっています。

太陽の紫外線が皮膚や眼などの DNA を損傷する原因のひとつであることは、広く知られていることでしょう。そのような紫外線に対し、生物が自らの体を守るために作っているのがメラニン色素です。皮膚や被毛はメラニン色素が沈着することで発色し、紫外線を吸収したり散乱させたりする働きをしています。しかし生物の中にはメラニン色素の沈着がない、もしくは、ほとんどない個体が存在しており、そのような個体のことをアルビノといいます。

一般的にアルビノの動物というと、真白な被毛に赤い目をした実験動物のマウスやモルモット、ウサギなどを想像する方が多いのではないかと思います。これらの動物は完全にメラニン色素を欠乏しているため、皮膚や被毛にまったく色が付きません。また、メラニン色素は虹彩にも沈着して瞳の色を作っているため、メラニン色素を持たない動物は血液の色が透けてみえる赤い目となります。

このような、完全に色素を欠乏したアルビノの犬の存在の有無は定かではなく、胎生致死もしくは生後すぐに死んでしまうとも、表に出てきておらずに淘汰されてしまっているともいわれています。仮に生存していたとしても、極めて稀であると考えられます。一方で、全身が白い被毛で覆われている犬は決して珍しいわけではなく、日常生活の中でごくごく普通に見かけるものです。それらの白毛の犬たちはアルビノではなく、別の遺伝的背景により全身が白毛となっており、見た目にもアルビノっぽさを感じることはないはずです。しかしドーベルマンだけは別でした。何十年も前からホワイト・ドーベルマンと呼ばれている犬たちです。

ホワイト・ドーベルマンの毛色はホワイトと呼ばれているものの完全なる純白ではなく、実際にはうっすらと色素が沈着したごく薄いクリーム色、鼻は色素がまったく沈着していない典型的なピンク色(肉色)をしています(トップ写真を参照ください)。このような外見(表現型)であることから、長きにわたりホワイト・ドーベルマンは本当にアルビノなのかどうかと物議がかもされていました。

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