ラブラドール・レトリーバー、アシカの初めての「温かい」鳥

文と写真と動画:藤田りか子

スウェーデンはもう秋の気配。風が吹いた時に奏でられる木の葉の音が真夏のそれと異なってくる。サラサラからカサカサ。空気もすこしひんやり。夏は去りつつある。

嬉しいニュースはいろいろな動物の狩猟が解禁になりはじめることだ。まずはハト猟がOKとなった。解禁と同時に犬を森で放すことも許可されるようになる。カッレは撃つ人、私は犬のハンドラー、アシカは回収係というチーム構成でさっそく夕方、麦畑に繰り出した。実はアシカにとってこれが初めての「家族狩猟」であった。今まで参加させてもらっていたグループ猟と異なり、回収犬はアシカのみ。彼女の実力がいよいよためされる時。

ハト猟にはいろいろとやり方がある。デコイ(狩猟につかう鳥型のおとり)をつかっておびき寄せる方法が一般的だが、我々はそこまで凝ろうとはせず、ま、撃てる機会があれば撃つさ、なければしょうがない、ということで忍び猟で頑張ることにした。麦畑の金色の海原に、ぽっこりと浮かぶ島のごとく小さな森の区画がある。そこに隠れて待つことにした。麦畑で食事を済ませたハトが木の上で休むために島に飛んでくるのだ。

麦畑の海に浮かぶ森の孤島。ここに隠れてハトを待ち伏せすることにした。

森で隠れている間、アシカは落ち着いたものだった。スイッチをオフモードに切り替え、興奮せずにリラックス。そして人の動きに同調しようとする。私がブラインドに隠れて身を低くすると、いわれもしないのに彼女はすぐ横で伏せの姿勢をとった。そして我々と一緒にできるだけ小さくなろうとした。ハトが向こうの空に現れるとカッレが「もしや」と体を起こし銃を構える。その度にアシカはスイッチをオンに切り替えようと、一瞬口をハァハァさせるのだが、「なんだ、いってしまったか」とカッレが銃をおくととたんに口を閉じる。そして再び私の足元でゆるりとするのだ。

それまでは競技会のルールとしてしか見なしていなかったスイッチオフの行動(ステディネス)だが、実際に狩猟に参加することで、これがどんなにありがたい「猟芸」なのか、改めて思い知ることとなった。待ち伏せをしている間、犬がきゅんきゅん鳴いたりせわしなくすると、こちらもハトの到来に神経を集中させることができなくなるし、何しろ鳥に気がつかれてしまう。回収犬というのは回収さえできればいいというものではない。待ち時間の猟芸も込みで初めて回収犬(レトリーバー)と呼べる。

カッレは何度かチャンスを逃したものだが、とうとうその時がやってきた。スーッと一羽のハトが滑降してきて森の松の木にとまった。我々のいるところからわずか20mのところ。狙いを定め息をこらす。引き金を引いた。

パン!

カッレが撃った。アシカはその間も落ち着いて待つ。もちろんノーリード。「取って!」のコマンドでアシカにスイッチが入り、あっという間に回収をこなしてくれた。

ハトが落ちた。アシカはしっかりと見ていた。回収に送り出した。間も無く茂みにハトをみつけだし、さっとくわえてこちらに走って戻ってきた。そして、差し出した私の手のひらの上に渡してくれた。まるでダミーで普段の練習をしているかのように、アシカはいとも簡単にこなした。唯一の違いは渡されたハトが温かかったこと。そう、アシカにとっては初の撃ちたてホヤホヤの温かい鳥。狩猟が初めてだと、死んだばかりの鳥をくわえるのを躊躇する犬もいる。だがアシカについてはそんな心配はもうしなくても良さそうだ。そう、アシカ、とうとうレトリーバーになる!これぞ回収犬の筆下ろし。

結局カッレは二羽しかしとめなかったのだが、二人分の夕飯には十分。肉は一晩のみ吊るした(本当はもう少し長い方がいい)。ハトには赤ワインが合う。アシカの初作業への乾杯のひと時となった。

撃ったら食べる。我が家のハト・ジビエ

スウェーデンではハトも立派な食用の鳥。ただしハトの種類は街にいるドバトではなく、モリバトというヨーロッパでは最大のハト。日本のキジバトよりも一回り大きく、羽を広げた時の長さは65cm-80cmほど(キジバトは54cm-62cm)。

ハトも撃ったら肉を熟成させるために、しばらく吊るしておく。理想的には10度の温度で最低2日。その後、羽をむしりこのとおり。お肉になる!

ハトはやはり胸肉。赤い肉。知る人ぞ知るデリカテッセンだ。

バターでいためる。中がだいたい52度から54度になるまで。

ソースをつくり完成!ポテトといっしょに【Photo by Jaktmarker och Fiskvatren

レトリーバーという犬種の作業性能についてもっと詳しく知りたい方はこちらの本も合わせてお読みくださいね!(↓)