イガちゃん、ノーズワークをやるinオーストラリア 後編

文と写真と動画:五十嵐廣幸

ついにターゲット臭を使ってサーチを始める!

初心者コースもいよいよ最後の週となった6週目、ターゲット臭を使ったレッスンとなった。ターゲット臭を導入する際は、ペアリングという方法で行う。ターゲット臭(バーチ)とフードをいっしょにおいて、探させるのだ。机の裏に隠してみた。さて、どうかな?

アリーは今までのサーチとなんら変わりなく隠し場所を探し当てた。すかさずトリーツを与えて褒めた。まだこの段階では彼女はフードを探しに行ったにすぎない。しかし、机や椅子で囲われたアクセスが難しい場所でも臭源にたどり着けるようになったり、飼い主に助けを求めないで探せるようになったりしたのは犬の自立心が鍛えられた結果だと言える。

競技会で使用されるターゲット臭は団体によって異なる。Australian Canine Scent Workではバーチの他にアニスとクローブが用いられる。Australian National Kennel Councilでは上記の3種以外にサイプレスも使われ、さらに、犬の気を散らすようなボールやおもちゃ、食べ物などがサーチ内に置かれる。

コースの修了テストとしてコンテナを使ったブラインドサーチが課せられた。ブラインドサーチとはハンドラー自身もターゲット臭の在りかを知らない状態で隠し場所を当てるものだ。ハンドラーは犬の示す「ココだよ」というボディーシグナルを的確に読む必要がある。室内のサーチエリアには18個の箱が並べられていて、その中に一つだけフードとペアリングしたバーチが隠されている。インストラクターは

「学んだことを忘れずに楽しんで見つけて」

とアドバイスをくれた。

自分たちの順番が来るまでの間、今までにどんなことをコースで習ってきたのか、頭の中で整理をしてみた。

  • 犬の自主性の尊重
  • リードの長さの選択とリードワーク
  • コマンドの多用を避けること
  • 空気と臭気の流れを読む
  • ヘッドターンといったCOB(change of behavior=行動の変化)を見逃さない
  • 褒美を与える場所とそのタイミング

いよいよ私たちの番!

「制限時間は1分、見つけたらアラートと言ってね」

とストップウォッチを持ったインストラクター。私はスタートラインから並べられた箱を見ながらターゲット臭を探すための攻略計画を練った。犬の自主性を大切にしながらも、ドアの裏側など探していない箇所があれば、その場所に犬を導いてサーチをさせる。

「ショッピング!」

“探せ“のコマンドでサーチは開始だ。アリーは勢いよく飛び出し鼻先で一番手前の箱を軽く嗅いだ。が、低い姿勢のまま突き進んだ。ハンドラーの私はサーチの妨げにならないように素早く丁寧なリードワークを心がけた。アリーは集中して探している。鼻から小刻みに空気を取り込んでは出す音がたえまなく聞こえる。幾つかの箱を通り過ぎた後、彼女はピタッと歩みを止めた。箱の角に黒い鼻が密着しているではないか。

「アラート!」

タイムは18秒だった。

修了証を受け取った。このコースの次は臭気判別テスト(Odour Recognition Test)に向けてのトレーニングになるという。Australian Canine Scent Work主催の競技会に出場するには、バーチ、アニス、クローブ3種類のターゲット臭気判別テストに合格していることが条件だ。私は迷わず次なるコースを申し込んだ。

ノーズワークはどんな犬でもチャレンジできるアクティビティである。そして他の競技と比べても限りなくフェアなゲームと言える。それは犬の体の大きさや年齢、怪我などの肉体的な差があったとしても順位に大きく影響しないからだ。もちろんスパニエルやレトリーバーといった嗅覚探知が得意な犬種には有利に働くかもしれない。しかし犬だけでなくハンドラー自身が練習や経験を積み重ねることによってその差を縮めることだって可能だ。

アリーの足の怪我のために始めたノーズワーク。今では私も彼女もこのアクティビティに夢中だ。これまでは室内のサーチに限られていたが、これからは風が強く吹く屋外や車両に隠されたターゲット臭を探す練習もどんどん行いたい。その気持ちはアリーも同じはず。彼女のサーチ中の集中した姿、見つけた時の喜びを見ればわかる。

目指すは競技会での入賞だ。

終わり

 

文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ
youtube;アリーちゃんねる

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