犬の8割以上にある問題行動~アメリカでの人口統計学研究より

文:尾形聡子

[photo by Paul Scott]

犬と暮らす上で飼い主の頭を悩ませることのひとつが、人にとって問題と考えられる犬の行動、いわゆる問題行動です。もちろん、「うちの子は今の今までひとつも問題行動などしたことないわよ」というケースもあるでしょうが、ほとんどの方が「うちの子の無駄吠え、どうにかしなくちゃ」「この飛びつき癖、どうしたらいいのかしら」といった悩みを一度は抱えたことがあるはずです。

ひと言で問題行動といっても、人に危害や損害を及ぼす可能性が高いものから、それほど頭を抱えずにすむようなものまで程度はさまざまです。さらには、人によっても環境によってもその程度の捉え方は違ってくるでしょう。

また、犬があらわす問題行動はひとつとは限りません。いくつかの問題行動を併せ持つこともあります。たとえば雷を怖がる犬は、花火や銃声など別のタイプの音にも恐怖反応を見せる可能性が高いことが示されています。

犬の問題とされる行動を管理改善していくためのひとつの手段として、大規模データを収集して人口統計学的に解析する研究はこれまでに各国で行われてきています。今回紹介する研究は、アメリカのタフツ大学の研究者らが主導。犬の属性データと問題行動の種類に関するオンライン調査行い、それらの関係性にくわえて問題行動の併存状況についても解析をし、結果を『Journal of Veterinary Behavior』に発表しました。

およそ4,100頭のうちの85%の犬に問題行動あり

アンケート調査は、共同研究者でもあるCenter for Canine Behavior Studiesのウェブサイトを通じて行われました。2,480人の犬の飼い主から4,114匹の犬についての回答が寄せられ、全体の3,000頭以上(76%)がアメリカ在住の飼い主からの回答でした。そのほかにも英国やカナダからもそれぞれ300頭以上の犬についての回答があり、全部で16か国からアンケートへの参加がありました。

問題行動のカテゴリーは12に分けられました(恐怖/不安、攻撃性、飛びつき、過剰吠え、食糞、強迫神経症的行動、家での不適切な排泄、体へのにおい付け、活動過多、破壊活動、逃亡、マウンティング)。研究者らは犬の属性データ(性別、不妊化手術の有り無し、年齢、純血種か雑種か、どこから迎えたか)と各問題行動との関連について統計を出しました。

属性データの解析から示されたものは以下になります。

  • 対象とされた犬の年齢の中央値は6歳
  • 性別はオス49%、メス51%と同程度
  • オスの84%、メスの85%が不妊化手術を受けており、手術を受けた年齢の中央値は9か月齢
  • 純血種が57%、雑種が43%
  • 出身はレスキューからが最も多く43%、ブリーダーからは33%、最も少なかったのがペットショップからの1%

属性データと各問題行動に関するデータ両方の解析から、性別、不妊化手術状態、純血種か雑種か、どこから迎えたかは問題行動のありなしに大きな関連性があり、1頭の犬における問題行動の数には年齢、純血種か雑種か、どこから迎えたかと大きな関連性があると研究者らは結論しています。解析データの詳細を以下にいくつかピックアップしてみました。

  • 85%の犬に問題行動が見られた
  • 44%の犬に恐怖/不安に関する行動が見られ、12の問題行動の中でもっとも多かった。次に多かったのが攻撃性で30%
  • 12のすべての問題行動はそれぞれの属性において10%以上の犬に見られた
  • 問題行動の数は平均で2つ、属性では不妊化手術した犬、雑種、レスキュー出身の犬に多い傾向が見られた
  • 恐怖/不安の行動の中で、分離不安・雷・騒音への恐怖を併せ持つ犬のうち、雷と騒音への恐怖がある犬はこれらを2つ以上持ち合わせる割合が高い
  • 攻撃性のある犬の半数以上が恐怖/不安の行動を併せ持つ
  • 飼い主への攻撃性のある犬の3分の2ほどが恐怖/不安の行動を併せ持つ(ただし恐怖/不安の行動を持つ犬の中の10%程度)
  • 強迫神経症的行動のある犬の6割弱が恐怖/不安の行動を併せ持つ(ただし恐怖/不安の行動を持つ犬の中の25%割程度)


[photo by Juan Antonio Segal]

たかが統計と言わないで

このような手法を用いた研究はそれぞれの犬についての詳細をつぶさに調べているものではないため、「うちの子には関係がない」と思ってしまいがちかもしれません。しかも日本からの参加者はゼロで、アメリカ在住の飼い主からの回答が中心だったため、日本の実情とも違うところがあるでしょう。とはいえ日本においても、属性と問題行動、そして問題行動同士の関連性を考えるにあたり、このようなデータは貴重になってくるのではないかと思います。

一般的に病気ではよく合併症という言葉を聞きます。何かの病気が原因となりまた別の病気を引き起こすというものです。併存症はほぼ同義で使われてもいるようですが、片方が片方の病気の原因となるのではなく、同時に二つ以上の病気がある状態のことをいいます。

今回調べられた問題行動の中でも強迫神経症的行動や活動過多などは病気というカテゴリーに入る場合もあるかもしれませんが、病気ではなくても「傾向」というのはどんな個体にも備わっているものです。行動の特徴が「併存する」可能性が高いことを知れば、この行動傾向があるならば、あの行動傾向もあるかもしれないというように、目の前にいる愛犬の行動をより注意深く観察することができるようになるのではないでしょうか。そうすることで、それぞれの行動の原因を追究していきやすくなるのではないかとも思います。今回の研究で、レスキュー出身の犬に問題が多く見られましたが、レスキューされる犬になってしまった原因がより鮮明になれば、飼育放棄される犬そのものを減らしていくことができるかもしれません。

また、以前に『騒音は筋骨格系の痛みを助長し、痛みは騒音への恐怖を引き起こす』でお伝えしましたように、筋骨格系の痛みが原因となり引き起こされる騒音への恐怖もあります。筋骨格系の病気と騒音への恐怖両方がある犬の場合、両方が併存しているケースがあるのを知っていれば、その犬が音への恐怖を抱えるに至った原因が突き止めやすくなるかもしれません。

今回、調査された犬の85%に問題行動があるという結果でしたが、同じく社会的動物である我々を振り返ってみても、完璧な行動をとれる人などこの世の中にそうそういるものではありません。問題行動のない大人はいったいどのくらいの割合で存在しているものでしょうか。人の場合は犬とは異なり、何をもって問題とするのかがまた問題となってくるので複雑でしょうけれども…。そう考えてみると逆に、15%の犬に何も問題がないというのは意外に高い割合だとも捉えることができるかもしれません。

犬とは言葉を使って会話をすることができません。だからこそ、私たちが何かを知ることで愛犬との生活がより円滑になるならば、このような研究結果を知っておくのも大切ではないかと思うのです。

【参考文献】

Demographics and Comorbidity of Behavior Problems in Dogs. Journal of Veterinary Behavior, 2019. In Press

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