文:尾形聡子
[photo by kaelin]
肥満は犬の健康を脅かしたり生活の質の低下を招いたりするといわれています。私たち人間に置き換えて考えてみれば、それは容易に想像のつくことでしょう。しかし世界的に、適正な体重を維持することができていない家庭犬が増加しているのも事実で、日本で暮らす犬たちもけっして例外ではありません。肥満がリスク要因となりさまざまな病気にかかりやすくなったり、関節疾患をわずらい運動不足におちいったりすることで、結果、犬の寿命を短くする可能性があるだろうことは以前よりいわれてきたことです。
それを明らかにするために、イギリスのリバプール大学とペットフードメーカーとしても知られる大手食品会社、マースの研究所 Waltham Centre for Pet Nutrition は20年以上にわたる獣医療データを解析することで、家庭犬の肥満と寿命の関係を明らかにしました。『Journal of Veterinary Internal Medicine』に発表された研究によれば、太りすぎの犬は適正体重の犬に比べておしなべて短命であることが示されたそうです。
研究者らは犬の中年期の肥満が寿命に影響を及ぼしていたかを検討するために、北米の動物病院ネットワーク(Banfield Pet Hospital)に加盟している900の動物病院にかかった犬の中で12の人気犬種、不妊化手術済みの約5万頭を研究対象としました。12犬種は体の小さな方からチワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、シーズー、アメリカン・コッカー・スパニエル、ビーグル、ダックスフンド、ボクサー、ピット・ブル、ジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーです。
後ろ向き研究(特定の集団に対して過去にさかのぼり、病気や寿命などの事象との関連性を調べること)の解析対象とされたデータは1994年から2015年までのおよそ20年間。12犬種それぞれにおいて中年期(6.5歳~8.5歳)のときに「太りすぎ」もしくは「正常」であったか判定が行われ、犬種ごとに体型によって寿命に違いがあるかどうかを分析しました。
肥満でもっとも寿命が短くなっていたのはオスのヨーキー
その結果、対象となったすべての犬種において、中年期に太りすぎだった犬は正常な犬よりも寿命が短くなっていたことが分かりました。犬種によって平均寿命そのものも異なるという大前提はありますが、肥満グループと正常グループを比べてもっとも寿命が短くなっていたのはオスのヨークシャー・テリアでマイナス2年6か月との結果になっています。一方、一番肥満の影響がみられなかったのがオスのジャーマン・シェパードで、マイナス5か月でした。
[image from University of Liverpool New]
各犬種において、肥満が平均寿命をどのくらい短くしているかを示す結果一覧。
この結果を受け研究者らは、飼い主は自分の犬が太りすぎているのを認識していない場合が多く、太りすぎが犬の健康に及ぼす悪影響についても理解していない人が多いと指摘し、太りすぎていると健康面に問題を抱えることが増え、生活の質も低下し、最終的に寿命に大きな影響を及ぼす可能性があることを知っておくべきだと強調しています。この研究では犬の体重が増えた理由については調べられていませんが、カロリーの過剰摂取、つまり、食べすぎが一つの大きな原因となっていることは間違いないでしょう。さらには運動不足も追い打ちをかけているかもしれません。
食べ物をねだられてしまうとついつい・・・となりがちでしょうが、愛犬に健康で長生きしてほしいならば、そこは飼い主である私たちが理性的に対応すべき点だと感じます。毎日きちんと食餌を計量している人が少ないことにも研究者らは警鐘を鳴らしています。
2017年に発表された食餌量を制限する減量トライアルを3か月間行った研究では、参加した太りすぎの犬のほぼすべてが減量に成功していました(詳しくは『脱ぽっちゃりは動きやすい今がチャンス!ダイエットで愛犬のQOLを向上させてみませんか?』を参照ください)。やはり、効率的にやせるためにはカロリー摂取を制限することがどうしても必要とされるでしょう。そんな理屈は誰でも分かっていることではありますが・・・自分の身に置きかえてみると、ダイエットはそう簡単に成功しないと諦めてしまいがちなのかもしれません。私自身も耳が痛いところです。
カロリー制限と運動、犬のダイエットにはどっちが効果的?
摂取カロリーの制限で減量できることは明らかですが、それでは、食事制限をするのと運動をするのとどちらが効果的にダイエットできるものなのでしょうか。つい先日『The Veterinary Journal』に発表された研究によりますと、その軍配はカロリー制限にあがっていました。
前向き研究(特定の集団に対して新たに生じる事象について調べること)を行ったのは先ほどの研究と同じくリバプール大学獣医学の研究者(先ほどの研究は加齢と慢性疾患の研究所によるもの)。さまざまな犬種、性別、年齢、不妊化状態にある13頭の太りすぎの犬を、無作為に、6頭はカロリー制限グループ、7頭は運動量増加グループに分けました。カロリー制限グループは食事を減量用の処方食にかえ、運動グループはそれまでの運動量の少なくとも3分の1増加させるところからスタートしました(いずれもカロリーや運動量はそれぞれの犬の状態に合わせて)。そしてダイエットの効果は、①体重、②首まわり・胸まわり・腹まわりの測定、③3軸加速度計(エネルギー消費量をより正確に評価するために身体の動きを強度別に評価できる加速度センサー搭載型活動量計)による身体活動の測定により評価されました。
8週間のトライアル後、体重はカロリー制限グループでは有意に減少したものの、運動グループでは有意な減少がみられませんでした。腹まわりと胸まわりのサイズについては、両グループともに有意な減少がみられました。また、身体活動においてはカロリー制限グループでは変化しませんでしたが、運動グループにおいては有意に増加していました。
結果を総合すると、太りすぎの犬においては食餌のカロリー制限を行うほうが体重を減らすことには効果的であることが示されました。運動グループでは少なくとも普段の3分の1以上運動量を増やし、かつ、身体活動レベルも増加はみられたものの、それだけでは体重減少を促進するのには不十分だったということです。
[photo by Dale]
いうまでもありませんが、カロリー制限と運動量のアップを同時に行えるならば、それが一番ダイエット効果を発揮することでしょう。ただし、何よりも大事なのは愛犬を肥満にさせないことです。食餌も運動も、管理は飼い主に一任されています。愛犬と一緒により長く楽しく生活を送れるよう、適正な体重を保てるように配慮していきたいものです。愛犬の「食べ物ください」のおねだりにどうしても弱くって、という方はこちらの記事をどうぞ。
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