幼少期のメス犬との暮らしは子どもの喘息発症リスクを低くする

文:尾形聡子

[photo by Donnie Ray Jones]

プードルなどの毛が抜けにくい犬種やヘアレス・ドッグが“アレルギー・フレンドリー”な犬として広く認識されるようになったのは近年のこと。アメリカの元大統領オバマ氏が犬アレルギーを持つ娘のためにポーチュギーズ・ウォーター・ドッグを迎えたことも大きく影響したといえるでしょう。アメリカン・ケネル・クラブでは「Hypoallergenic Dog Breeds」として低アレルギー性の犬種を紹介していますが、実際のところ本当にこのような犬種がアレルギー・フレンドリーであるかどうかは科学的にはきちんと証明されていません。むしろ、犬種による違いはなく、個体差であるという報告もあります。

また、喘息はアレルギーが関係する呼吸器疾患ですが、犬の毛やふけはダニや花粉、ハウスダストなどとならんで喘息の発作を引き起こすアレルゲンのひとつです。実際に子どもの喘息患者の54%が哺乳類のアレルゲンが誘因となりひどい発作を起こしてしまうといわれています。しかしその一方で、幼少期に犬と室内で暮らすことが子どもの喘息の発症を予防する可能性があることがいくつかの研究により示されています。

そのうちのひとつ、2015年に発表されたスウェーデンに生まれた276,298人の子どもを対象に調査を行った研究では、幼少期に犬と共に育ったり家畜との接触がある子どもの喘息発症リスクは13%低減しているという結果がでています。この研究を行ったスウェーデンのウプサラ大学とカロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学)の研究チームが、新たに犬の性別や犬種、飼育頭数などの要因が子どもの喘息やアレルギーと関連性があるかどうかを調べ、結果を『Scientific Reports』に発表しました。

犬の性別による喘息発症リスクへの影響のちがい

調査は2001年1月1日から2004年12月31日の間にスウェーデンで生まれたすべての子どもを対象に行われ、1歳になるまでに犬と暮らす状況になった家庭は23,585ありました。スウェーデンの人口及び健康データ登録と、スウェーデン農業庁またはスウェーデンのケネルクラブの登録情報とをリンクさせ、それらの犬の性別、犬種、頭数、サイズ、低アレルギー性犬種などの要因ごとによる分類が行われました。

その後、子どもたちが6歳になったとき、喘息やアレルギーと診断されたり、それらに対する薬が処方されているかどうかのリスクと犬の各要因とに関連性がみられるかどうか統計解析されました。また、両親が喘息またはアレルギーかどうか、兄弟姉妹はどうか、どのような土地に住んでいるかといった要因についても解析が行われました。

その結果、6歳児で喘息にかかっている割合は全体の5.4%で、メス犬だけを飼育している家庭の子どもはオス犬だけの場合より喘息の発症リスクが16%低いことが分かりました。また、オス犬だけと暮らした子どもと犬と暮らさなかった子どもを比較すると、その間にはリスクの違いは見られませんでした。さらに、2頭以上の犬と暮らした子どもは1頭だけの場合と比べて喘息発症リスクが21%低いことも示されました。

低アレルギー性犬種の、アレルギーと喘息への影響

低アレルギー性犬種かそうではない犬種かという点からみると、喘息やアレルギーを持つ両親の11.7%が、持たない両親の7.6%が低アレルギー性犬種と暮らしていました。このような犬種選択がされていたものの、実際に子どもがアレルギーになるリスクは27%高まっていました。一方、喘息の発症リスクは低アレルギー性犬種であるかどうかによる差はみられませんでした。

低アレルギー性犬種と暮していてもアレルギーのリスクがかなり高くなっていたことについて研究者は、低アレルギー性といわれる犬種であっても実際にアレルゲンが少ないわけではないだろうことを示唆するものといいます。ただし、アレルギー発症の因果関係については明らかではないため、アレルギーのリスク特定にはさらなる研究が必要であるともいっています。

幼少期の犬との暮らしは喘息予防には効果がありそう、でもアレルギーには・・・?

今回の研究結果をまとめると、喘息についてはメス犬を飼っている場合もしくは多頭飼いをしている場合には子どもの喘息発症リスクを低下させるが、低アレルギー性犬種であることとは関連性がないことが示されたといえます。また、いわゆるアレルギー・フレンドリーな犬種であっても必ずしもアレルギーにならないわけではないということも示されました。つまり今回の研究もアレルギー・フレンドリーの犬種というものが科学的に証明されなかったといえるでしょう。

そして、犬の性別により差があることはこれまでの研究と相反しない結果となっています。たとえば、Can f 1(Canis familiaris allergen 1)と呼ばれる犬のアレルゲン(アレルギーの原因となるタンパク質)は犬アレルギーの人の多くが反応を起こすもので、被毛やふけ、唾液に含まれています。このCan f 1の量がオスの方が多いことや、Can f 5と呼ばれるアレルゲンがオスの前立腺組織から尿中に排出されていることなどが示されています。ちなみに現在犬のアレルゲンはCan f 1、2,3,4,5、6の6種類が報告されています。

アレルギーといえばエンドトキシンとの関係について耳にすることがあるかもしれません。エンドトキシンは細菌などの細胞壁の構成成分で、アレルギーを起こしにくくする作用を持つことが知られています。また、このエンドトキシンという物質は清潔すぎるところにはあまり存在していないことや、ある程度の細菌やウイルスを体内に取り込むことが免疫力アップにつながるとも考えられていることから、清潔にしすぎてしまうことはかえってアレルギーを招いたり免疫力を低下させてしまうともいわれているのです。

もちろん、清潔な環境で暮らすことは伝染病をはじめとする多くの病気の予防になります。しかし、 過ぎたるは及ばざるがごとしで、生物にもともと備わっている生きる力を最大限発揮するには適度な衛生環境である方がいいのかもしれません。食生活や住環境そして遺伝など、アレルギー発症にはさまざまな要因が影響していますが、免疫力や抵抗力を高めてアレルギー発症を防ぐためにも、子どものころから犬と一緒に外に出て、自然と触れ合う生活が送れるといいのかもしれませんね。

【参考文献】

Dog characteristics and future risk of asthma in children growing up with dogs. Scientific Reports. 15;8(1):16899. 2018.

【参考サイト】

Karolinska Institutet News

はしもと小児科 ネコとイヌのアレルギー