アシカ、デンマークへ狩猟旅行

文と写真:藤田りか子

 

勢子の犬たちは向こうの林の中を狂ったように走り回っていた。隠れていた2羽のカモが飛び立った。「どうか、誰か撃って!」と願った瞬間「パンッ!」と発砲音が聞こえた。命中したのは一羽、林の中に落下した。

ところはデンマーク、北ユトランド。スウェーデンのすぐ対岸にある半島地方。ボーイフレンドのカッレ、そして彼の友人知人10人とともに狩猟旅行に行った。昨年まで私はカッレのお供でしかなかったが、今年は違う。自信をもってカッレの狩猟チームの一員と名乗れることになった。なんといっても私にはアシカという「強力な」回収犬がいる。

「カモ、キジ、ウサギなど撃った獲物の回収は我々にお任せください!」

そう、今回は私は狩猟犬のハンドラーとして自分を売り込んだ。昨年もアシカはついてきたがまだ幼かった。よって狩猟メンバーには加えられず。しかし今年にはいり彼女は修行も積み猟技テストにも出てそれなりの成績を残した。そして精神的にも成長した。そろそろ時期である。

この狩猟旅行でカッレと友人たちが仕留めた獲物のほとんどがノロジカであった。

な〜んて勇ましいことを述べたが、告白しよう!実はアシカの回収シーンなどこの猟にはなかったのだ。昨年の狩猟レポートでも記したが、カッレと彼の友人でなる北ユトランドの狩猟は「カモ・キジ」も獲物ではあるが、それよりむしろシカの方がメインだ。1日に何百羽もキジを仕留めるイギリスのエステート(=広大な地所あるいは農園)におけるシューティングなどとはとても程遠く…。我々の猟ではキジだって獲れても5〜6羽程度。そして今年獲れたのはシカばかり、なぜかキジやカモが現れず、私とアシカは「出番がないね」とその日の猟が終わるとがっかりと顔を見合わせていた。もっともハンターたちにとってはシカの方が大物。彼らは嬉しいことこの上ない。それに鳥に比べたらお肉もたくさん取れる。シカ肉で作るサラミはとても美味しい。

だが最終日になってそれも帰りのフェリーに乗り込むために猟場を出る寸前、前述の2羽のカモが頭上に現れ撃ち落とされたのだ。そう、シカじゃなくて待ちに待った鳥!まさかこんな時になってチャンスが訪れるとは。私は急いでまた長靴に履き替え車からアシカを出した。そして「それ行け!」とカッコよく回収に送り出した。が、カモはなかなか見つからず…。

やはり実猟だ。トレーニングでダミーを使う時とは違う。果たして私はカモが落ちたところを正しく目撃したのだろうか、それもだんだん怪しくなってきた。このエリアではなくて、落ちたのはもしかしてもっと奥の林だったかもしれない。あるいは半矢でどこかに逃げたのかもしれない。このまま捜索を続けていれば、フェリーに乗り遅れる。アシカを呼び戻し、サーチを途中で切り上げた。なんとなく消化不良な気持ちで車に乗り込んだ。

今回のデンマークでの狩猟の様子。追い立て犬(フラッシング・ドッグ)の使い方に注目。アシカのステディネスもばっちり。クンとも鳴かず、ノーリードで私の横を落ち着いて歩くことができた!最後に現れた野ウサギだが、射手は撃ちそびれた。

回収こそできなかったが、その他の面では素晴らしい経験となった。いつもこのブログで述べている通りレトリーバーにとって、回収が猟技のすべてではない。将来来るべき競技会に必要なステディネスをとことん鍛錬する機会をこの猟で得た。たとえばウォークド・アップを練習することができたこと。ウォークド・アップ(walked-up) というのはハンドラーと犬、射手が一直線上に並んで猟場を歩き、畑地や薮に潜んでいるウズラやキジなどの鳥を羽ばたかせる、という狩猟スタイルのこと(羽ばたいたところで撃ち落とす)。

この時に大事なのは、レトリーバーの絶対的なステディネスだ。たとえ目の前でキジが羽ばたこうとウサギが全速力で横切っても、回収犬たるとも決してハンドラーの横を離れずいっしょについて歩かねばならない(ノーリード、である)。今回の猟ではレトリーバーとの猟シーンとよく似たウォークド・アップ猟を体験することができた。射手と一緒にゆっくりと歩きながら、獲物がいつ前に飛び出してくるかくるかと私はドキドキしたものだ。実猟ならではの緊張感がアシカにネガティブな影響を与えるかと思いきや、彼女は素晴らしいチームワークを私と組んでくれた。シカが飛び出してきたこともあった。10m横でウサギが突っ走っていったこともあった。が、冷静さを保ちずっと私の横についたままだったのだ。これだけの成果でも私にとっては宝である。

そしてもう一つ。ちょっと皮肉なことでもあるが、かえってキジやカモが今回のように獲れない猟でアシカにはちょうどよかったのかもしれない。いきなり実猟に出され、そしてカモやキジがジャンジャン撃ち落とされ、それを毎回回収できる喜びや興奮をこの血気盛んな若犬時代(アシカは一歳半)に味わわせてしまうと、期待感を高めさせすぎるリスクがあると思う。そして次のウォークド・アップの機会では、彼女の期待は最大値に達するはずだ。それが競技会など待つことばかり強いられる状況で起これば、「早く、早く!あの楽しい回収に私を出してちょうだい!」とフラストレーションを貯めてゆく。ストレスになり、集中力はなくなる。結局ハンドラーとのコンタクトもままならず、いざ回収に出しても、パフォーマンスは満足できるものではなかろう。そういえば、アシカのブリーダーのSさんは、エステートでのような大量なキジ・カモ猟には2歳以上になるまで出さないと話していた。

帰りのフェリーでは窓際でコンコンと眠ってしまったアシカ。ちなみにここはペットOKのエリア。フェリーに必ず一箇所設けられている。

帰りのスウェーデンまでのフェリーの中でアシカはコンコンと眠った。3日間の楽しい狩猟。本物の「獲物」が走っているのを見たり、その中でガンショットの音を聞いたり、と彼女にとってはたくさんの印象的な経験をし、頭がパンパンになっていたはずだ。そして私はいずれエステートでアシカと少なくとも10羽のカモを回収し、それをもらって唐揚げにするのを夢見ていたのであった。「アシカの十羽ひと唐揚げ」のゴールに到達するには、まだまだ長い道のりを経てゆかねばならないだろう。

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