デンマーク狩猟紀行と猟犬たち

文と写真と動画:藤田りか子

デンマークは北部ユトランドに赴き狩猟犬の活躍を見に行った!

キラキラとした夏が終わり雨がちな秋そして厳寒な冬がやって来ても、なぜか「アンニュイ」になったり物悲しくなったりすることがない人たちがいる。そうハンターたちだ。何と言っても秋からが狩猟のシーズン。ウキウキとワクワクの連続。さらに、これまでの狩猟犬トレーニングの力の見せどころ、一年のハイライトだ。ボーイフレンドのカッレも浮かれている点で例外にあらず。彼はお得意さんによって毎年11月デンマークへ狩猟の接待を受けている。鉄砲を担ぎ「待ってました!」と大陸のあちら側へ渡るべきフェリーに乗り込んだ。その狩猟グループはそれまで「女子お断り」という方針を貫いていた。いわば紳士クラブの真似事をしていたのだが、ここはかりにも北欧、男女平等の地。今年から女性も解禁となった。というわけで、私も「やった!」とアシカ&ラッコを連れて初めてデンマークの狩猟を見に行くことにした。

今回の狩猟において我が家のレトリーバーを起用する場面はほとんどなかった。イギリスにおける、レトリーバーが活躍するような猟とは明らかに異なるものだったからだ。キジのみならずシギにカモ、シカやらウサギ等、とにかくフィールドに現れる動物ならどれを撃ってもいい、というチャンポン猟(しかしアナグマとカモメはデンマークでは狩猟対象外の保護獣なので撃ってはいけない)。数頭の犬を色々な場所から放して、勢子として使う。数人のハンターたちは100mほどの直線でラインアップになり、藪に潜む。時にウサギが、時にシカが飛び出してきたり。そこを素早く狙いを定め、撃ち落とす。

犬たちが勢子として猟場を走り回っている間、射手はラインアップ上に待機して、飛び出してくる獲物を仕留める。

それにしてもたった隣の国に来ただけで、同じ動物を狩るのにこうも猟法が異なるものかと、面白いと思った。デンマークは平らで畑地と放牧地だらけの国。一方スウェーデンは、平らであることには変わりがないが、森と湖の国。植生の違いが狩猟法の違いを生み出す。以前短足犬種であるドレーベルでゆっくりと追跡してシカ(ノロジカ)を狩るスウェーデンの猟法を紹介した。が、デンマークのノロジカはスウェーデンのように鬱蒼とした森に潜んでいるわけではない。だだっ広い畑地の途中に植わっている生垣やら防風林で休息している。そのため犬が近づいてくるギリギリになるまで走って逃げ出すことはない。そう、だからシカもまるでキジやウサギ猟と同じ要領で狩ることができるのだ。ややもすると、目の前の藪から突然シカが飛び出してくることもあり、そこを仕留めるのだが、これはこれで非常にエキサイティングな猟だ。

当然使う犬たちの種類も異なってくる。デンマークではドレーベルのような遅めのハウンド犬は一切登場せず、大陸系のガンドッグ達が活躍する。ジャーマン・ポインターやクライン・ミュンスターレンダー、ブリタニー・スパニエルなど、ガンドッグだけど獣猟にも対応できるという犬たち(HPR犬ともいう。Hunt, Point and Retrieveの略)が勢子となる。ガンドッグであるだけに、ハウンドのように吠えて追うことはほとんどない。吠え声がない代わりに、彼らの首には鈴がつけられる。鈴がチリチリ鳴るので、ハンターたちは犬がどこにいるか見当をつけることができるのだ。

犬たちがどんな様子で働いているか、動画で参考にされたい。嗅覚を使い草野を走り回る。そして獲物の匂いを嗅ぎつけるとそこに突っ込んでゆき、羽ばたかせたり、飛び出させたりする。動画の犬はジャーマンポインターにラブラドール・レトリーバー。

HPR犬のみならず、今回ラブラドール・レトリーバーも勢子犬として加わっていたことも付け加えておこう!狩猟家の中にはラブラドールを鳥の回収にだけではなく、鳥や獣を茂みから追い出すという役目も任せるなど、オールラウンドに使う人もいる。そのブリーディング・ラインもある程で、デンマークやスウェーデン南部では珍しくない。しかしそのような犬を作るブリーダーは実猟こそ本命であり、トライアルにはあまり関心がないもの。だからラブラドール・レトリーバー界のメインストリームから外れていても一向に気にしないようだ。

デンマークのシカ、ウサギ、キジ猟にて。ジャーマンポインターが主な狩猟犬であるが、ラブラドール・レトリーバー(中央)も使われていた。

外国の狩猟に行くと、犬の違いだけではなく文化も垣間見ることができて楽しい。スウェーデンでは狩猟の合間合間に入る休憩のときコーヒーを飲みシナモンロールやサンドイッチなどを頬張る(フィーカ文化の発祥地だから当然!)。しかし、デンマークでは事あるごとになんとビールが出てくるから驚いた!のみならず、実は朝からアルコール度数の高い酒も飲む。もっとも朝から酒というのも、狩猟という特別なイベントだからこそ。今回招待してくれた狩猟グループのリーダーが我々一同を集め朝食でてなしてくれた際、そこでいきなりシュナップス(風味がつけられた蒸留酒、アルコール度は40度)が盛られた。でもただのシュナップスではない。様々な野生のベリーで風味をつけたホームメードのもの。そしてパンの上に載せるハムやサラミ、レバパテも、狩猟家が自分で倒したシカやイノシシの肉がその材料。味は最高であった(いや、こんなに美味しいレバパテを食べたのは生まれて初めてだ!)

必ずホームメードのシュナップスが朝食のテーブルに出された。

我々のグループは全員で15人のグループ。朝早くから日が暮れる少し前まで猟は続けられたが、得られた獲物はノロジカ3頭に野ウサギ2羽、シギとキジが2羽づつ。とても15人で分配できる数ではない。でも猟としてはフェアゲームだ。我々はこんなに大勢で出かけて行ったにも関わらず、動物たちにそれなりの逃げるチャンスも与えた、ということである。決して効率を狙った狩猟ではない。そしていずれの獲物も食べ物となり、きっと次のシーズンぐらいには燻製のハムやソーセージとなってリーダー宅の食卓に上がっているはず。犬と皆の共同作業。そして肉を得る。こんな暮らし、この辺りではここ数百年間変わっていないと思う。

捕った獲物は全てきちんと並べ、最後に祈りを捧げて狩猟はお開き。

【関連記事】

猟犬だって家庭犬!我が友人のスウェーデン紀行
文と写真:藤田りか子 先日、はるばる山梨県から友人であるK夫妻がスウェーデンの我が家を訪ねてくださった。日本人としては珍しく二人とも狩猟がホビー。狩…【続きを読む】