アシカのパッシブ・トレーニングその後

文と写真:藤田りか子

レトリーバーにとって、他の犬たちが働いている間も興奮することなく落ち着いてハンドラーの側に座って待っている、という技は何にもまして大事、というのは先日「パッシブ・トレーニング」でお話しした通りだ。アシカが割合「ピーピー」鼻を鳴らしやすい、という傾向を見せていたので、すでに幼い頃からこのトレーニングに力を入れてきた。その甲斐あって、友人宅へお呼ばれされてもドッグショーのような人混みに出ても、アクティビティ・レベルをオフ状態にして足元で「じっと待つ」という程度のマナーなら一通りこなせるようになった。それにしても、狩猟で活躍できるレトリーバーを育てるということは、家庭犬としても一緒に住みやすい犬を作る、ということだとつくづく…。

夏の間はパッシブ・トレーニングのために様々な環境を訪れたものだ。時にはコンサート会場に行ってみたり…(写真上)

あるいは屋外イベントのパブに連れて行ってみたり。この通り、「何もすることがない」と悟ると、横になり次第にリラックスすることを覚えた。(写真上)

そしてついには狩猟の状況で!ハンター達は朝に集まりミーティングを行う。こういうフォーマルな場所でもリラックスできるか、パッシブ・トレーニングの成果を試してみた。

昨年の秋、カッレがデンマークまで狩猟旅行に行こうと誘ってくれた(狩猟紀行についてはこちらをどうぞ!)。これは、夏を通して鍛えてきたアシカのパッシブトレーニングの小手試しになる、ちょうど良い機会。もちろんまだ回収をさせるには早すぎる。あくまでも場慣れとして、そして「銃が鳴り響いても決して毎回獲物を回収することに結びつかない」を覚えてもらうために実猟の場にアシカを連れて行こうと決めた。

実際に彼女を猟野に伴ったのは、周囲の環境にそろそろ慣れ始めた狩猟第二日目ぐらいから。まずはカッレと一緒に獲物が出てくるのをブラインドで待機。この狩猟では犬たちが勢子となった。よって狩猟中は複数の犬が獲物の匂いを探して走り回っている。その状況を隠れ場所からアシカは眺めるのだが、果たして落ち着きを保つことができるのだろうか。

突然野ウサギが、それこそ脱兎の勢いでこちらにやってくるのが見えた。その瞬間

「やや!これはアシカにまだ刺激が強すぎる!」

と途端に私はアシカを呼び、隠れ場所から少し離れたところに移動した。彼女は「もっと見たい!」などだだをこねず、なんと素直についてきた!ついてきたところで、私はトリーツを投げたりするなど一緒に遊んだ。どんなに周りに刺激があっても、私と一緒に何かをする、そしてそれが一番楽しい、という思考回路を身につけてもらうためだ。発砲音がすぐそばで聞こえたが、体がブルブル震えるなど興奮した状態も全く見せなかった。ありがたい、ありがたい!残念ながらカーリー・コーテッド・レトリーバーのラッコは銃の音を聞くと震え、レトリーブができることを最大限に期待する。すぐに出してもらえないと悲鳴をあげるようにまでなってしまった。この失敗はもう繰り返せない(この癖は一旦つくとちょっとやそっとのことで取り除くことができないのだ)。ちなみにそのウサギ、カッレは見事に外した!

こういう練習は何度も強いるものではない。だから2、3回機会を与えては、すぐにアシカを車に詰め込み猟場の刺激から一旦遮断させた。とは言っても自分のやっているトレーニング法が一体正しく成果をあげるものなのかどうなのか、心配。と、アシカと私の様子を見ていたあるハンターが話しかけてくれた。

「僕も、興奮しやすいラブを飼っていてね、最初の3年間はフィールドトライアルや狩猟を見せに連れて行っただけで、一切回収をさせなかったんだ。だから今は全然大丈夫。君のやり方できっと良いステディネスがつくと思うよ、頑張ってね」

なんと!経験者のお墨付きとなった。目の前がとても明るくなった。やはり地道な努力のみ。

撃ち落とされた鳥を回収するのはこれが初めてのアシカ!

ただし、この狩猟旅行でアシカは撃ち落とされた鳥を初めて回収するという機会も得た。もっとも撃ち落とされてすぐではなく、狩猟がすっかり終わって他の犬が回収し忘れたものを取りにいかせたのだ。今までキジのレトリービングは練習したことがなかったのだが、初めてにもかかわらず躊躇なくくわえてこちらに持ってきた。カモの「十羽ひと唐揚げ」の域にはまだまだ到達しない。しかし、彼女は確実に前進の一歩を踏み出しているような気も…。あれ、まだそんなに早まってはいけないね!

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