優しく撫でて話しかける~15分間の人との交流がシェルター犬にもたらすいい影響

文:尾形聡子

[photo by Natalia King]

犬は人と同じ社会的動物です。ひとつ屋根の下に暮らす家族との交流はもちろん、散歩に出ればほかの人や犬、動物と接触を持ちながら毎日を生きています。育った環境や境遇などにより色々な例外はあるものの、本来、犬は人とのコミュニケーションを好む生き物です。

犬と直接コミュニケーションをとるときには体を触ったり言葉を使って話しかけたりしますが、犬は知っている人知らない人に関わらず、言葉より身体的な接触を好む傾向があることがこれまでの研究により示されています。とはいえ、言葉によるコミュニケーションの取り方も工夫することが大事なのは『ご褒美言葉、いくつ持っている?』をご覧いただけばお分かりのこと。さらには、ゆっくりとソフトにワンちゃん言葉を使って話しかけられるのが好きなのも最近の研究で報告されています。

このように、犬は人と絆を築くことのできるコミュニケーション能力を備えています。つまりそれは本能として備えている能力であり、本能が満たされない場合にはストレスを抱えることにもなります。これまで、人との接触が限られてしまうシェルターの犬は、ほかの犬よりも人との接触を好み、心身によりプラスに働いていることは数多くの研究により示されています。しかしそれらの多くは長期的なセッションでの影響を見たものでした。

そこで、1回きりの、しかも15分という短時間の人との交流が果たして犬にいい影響をもたらすかどうかという点に着目した研究が、アメリカのネスレ・ピュリナ研究所によって行われ、『Applied Animal Behaviour Science』に報告されました。

15分、1回のセッションは効果があるのか?

今回の研究には、55頭(オス32頭、メス23頭)の犬が参加。飼育放棄や迷い犬など出自はさまざまで、過去の歴史がわからない犬も多くいました。シェルターに過ごしている期間は2週間から151週間と長期滞在の犬も含まれていました。心拍モニターを装着するため、すべての犬は人にフレンドリーな性質で、12キロ以上の短毛で健康な個体が対象とされました。

15分のセッションを行った部屋の模様。

犬と15分間過ごすボランティア5人(男性3人、女性2人、22~27歳)は、これまでに犬や猫と暮した経験があり、シェルターを訪れるのは初めての人たちでした。ボランティアたちの犬への接し方がバラバラにならないよう、犬の触り方や触る場所、言葉のかけ方などについて事前に講習を受けました。

セッションは次のようにデザインされていました。

犬は唾液サンプルと心拍などの計測を行った後、ハンドラーによってセッション部屋へと連れてこられます。部屋に待っている初対面のボランティアの手のにおいを嗅ぐなどして犬が挨拶を済ませた後、ハンドラーはリードをボランティアに渡して部屋を出ます。その後、ボランティアはリードを離し、犬が部屋の中を自由に動けるようにします。そして自ら犬に働きかけるようなことはせず、犬の方からコンタクトを取ってくるのを待ちます。犬がコンタクトを取ってきたら、ボランティアは犬を触り、優しく話かけます。15分が経過したらハンドラーが部屋に戻ってきて犬を連れて行き、唾液サンプルと心拍などの計測を行います。セッション中の行動は録画され、行動分析も行われました。

その結果、セッションの75%以上の時間を人とのコンタクトに使った犬は20頭(グループ①)、50-75%は15頭(グループ②)、50%以下は20頭(グループ③)となりました。唾液中に含まれるコルチゾール(ストレスをはかる指標となるホルモン)レベルを見ると、セッションの前後でグループ①と②はレベルが下がっていたものの、全体としては有意差はありませんでした。しかし、心拍数の低下と心拍変動(心臓の鼓動間隔で、緊張していると少なく、リラックスしていると多くなる)の増加は有意に見られました。グループ間で比較してみると、グループ③の犬についてこれらの生理的変化がほかのグループよりも少ない状況でした

また行動面の観察では、立ちつくしている状態とボランティアへの接触要求が、グループを通じて時間の経過とともに有意に減少していることが分かりました。これについて研究者らは、犬がリラックスしたよい状態へ移行したためであると考察しています。そして今回の結果から、生理的・行動的に見て15分のセッションがシェルターの犬の多くにとっていい変化をもたらしたと結論していました。

犬の持つ人との交流欲求を大いに刺激しよう

短時間かつ見知らぬ人との接触であっても、人との身体接触を含むコミュニケーションが犬にとってどれほど大切であるか、ということが示された研究だと思います。まったく人と触れずに生きてきた野犬や、精神疾患レベルで人を怖がるケースなどはありますが、冒頭に書きましたように、犬はそもそも人とのコミュニケーション欲を持つ生き物です。

シェルターで過ごす犬たちはその時間がどうしても限られてしまうことでしょう。けれども、ほんの少しの接触時間であっても犬の心身にプラスに働くことを意識して、犬の福祉がよりよくなるよう保護活動に活かしていけるといいのではないかと思います。

そして一般の家庭犬については、人との間のコミュニケーションのバラエティを広くし、そこからいろいろな刺激を受けられるような環境であればあるほど、幸せな犬生が送れているといえるのではないでしょうか。犬の持つ社会的本能を大いに刺激できるよう、日々の暮らしの中でのコミュニケーションを大切にしていきたいものですね。

【参考文献】

Can you spare 15 min? The measurable positive impact of a 15-min petting session on shelter dog well-being. Applied Animal Behaviour Science. 2018

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