クロアチア犬紀行

文と写真:藤田りか子

ヨーロッパの大国の犬の状況はみなほぼ同じだ。雑種犬もいれば、血統種の犬もかなりいて、犬種愛好会があって、ショーがときどき行われる。そして訓練教室やワーキングドッグクラブなるものが存在して、時にしつけのよく施された飼い犬もいれば、そうではない犬もいる。だが、平均してみなよき家庭犬として収まっている。

それが東ヨーロッパともなると、やや状況が異なる。日本がかつて持っていたような懐かしい「犬と人」とのシーンがまだ手付かずに残されている。地元の犬を味わう穴場でもあり、それが好きで最近東ヨーロッパによく訪れている。

今回出向いたクロアチアもそんな情景に会える国のひとつ。もちろんクロアチアにも都会にいけばたくさんの純血種がいる。しかし北欧やドイツの持つ優等生的な「これぞ犬の国!」というセンスとはまたちょっと違う。そこが面白い。

クロアチアの位置。海を隔ててイタリアの隣の国なのだ。[image from wikimedia]

クロアチアは、旧ユーゴスラビア。民族紛争やサッカー、格闘技で知る人は多い。最近ではヨーロッパの観光名所の穴場としても有名だ。アドリア海を挟んでイタリアの真向かいの国だし、海岸側は風光明媚。ここには俳優のトム・クルーズが別荘を構えている。世界遺産もあれば、イタリアの影響を受けた地中海系ガストロノミーも充実している。今後世界のツーリスト注目の国となるのは、時間の問題だ。

クロアチアの北東部は、平坦な土地が広がる。古くて大きな樫の林が特徴だ。森の恩恵をうけて、ここは、狩猟の天国でもある。それでハウンドをつれた猟師によく出会うことがある。ハウンドは、ドイツのハノーヴァーリアン・セントハウンドもあれば、クロアチアの原産犬、赤と白のツートンカラーがはっきりしたイストリアン・ハウンドであったりもする。猟の対象は、シカにイノシシ。


猟師の集うハンティング・コテージにいたハノーヴァリアン・セントハウンド。

猟場まわりの田舎風景には、村がある。そこには赤レンガの家が並び、犬種名のないミックスの飼い犬がほっつき歩いている。誰かの庭に入ってくることもあるが、誰も文句をいわない。庭にはニワトリやヤギまでいたりして、みんなが雑居状態で暮らしている。

おじいちゃんが、焚き火をスタートさせるのにちょうどよい木切れを作るために、薪をさらに斧で細く割っている。その側で子供がプラスチックの車に乗って遊ぶ。脚の短いダックスフンドのような犬が、前をピョコピョコ走っている。家のうしろにはとうもろこし畑が広がり、家の前には夏に割られた薪が来るべき秋と冬に備え積み重ねられている。


村の民家には、さまざまな犬がほっつき歩いているが、たいていは中型犬からそれ以下の大きさで収まっている。

平坦な東部から海岸に向かって西部に行くと、北から南に走る山脈にぶつかる。国立公園があったりで、標高1,000m以上のアルパイン的山岳風景が広がる。ヨーロッパのアルパイン風景とくれば、羊飼いとその牧羊犬。クロアチアの山岳にも、またそれなりの犬がいて、日中は山の牧場で番犬職務に従事している。この犬たちは、地元でトニャックと呼ばれている大きな白い犬。羊をオオカミやクマの襲撃から守るために飼われている。


羊の番をするトニャック。

クロアチアの国土面積はは九州よりもやや大きいぐらいだ。そのコンパクトさの中に山岳や平地、海岸線ありと、地理的多様性はいっぱいだ。それだけに、地元特有の犬文化のバラエティもあふれている。すなわち、古き良き東ヨーロッパの犬文化の醍醐味が十分に味わえるのだ。

(本記事はdog actuallyにて2008年9月24日に初出したものを一部修正して公開しています)