ノーズワークに「服従訓練」はいらないってホント?

文と写真:藤田りか子

はい、本当です。理論的に考えれば分かりやすいと思う。そもそも嗅覚世界、人間の感覚で感知できない。そこにどうして私たちがとやかく指示を与えられるというのだろうか。おすわり、ふせ、脚側行進をやってもらっても、犬の嗅覚が冴えるわけではない…。

実はノーズワークを習ったばかりの頃、じゃじゃ馬ラッコのドタバタを抑えるために、サーチに出す直前「おすわり!」を強要していた。私に注意を向けてもらうことで、行動を統制しているつもりだった。が、そのうちこれがどんなに誤ったハンドリングであるか、トレーニングを重ねるうちによ〜くわかるようになった。「行きたい、行きたい!」と意気込む彼に、今はもう間違っても「おすわり」などと口にしない。その代わりハーネスのハンドルを持って物理的に抑えることにしている。

最初の頃、ノーズワークのスタート地点で私はこんな風にラッコにおすわりをさせていたものだった。

どうして「おすわり服従」を要求しないほうがいいのか?

経験を積んだ犬は「探せ!」のコマンドが出るまでもなく、サーチエリアに入った途端空気中からもうにおいを探し出そうとしているものだ。うまくするとスタートする前に、すでににおいの漂ってくる方向をだいたい見当づけてくれていることもある。それを「すわれ」だの「まて」だの服従命令をしていると、犬のアテンションがサーチエリアから私に移ってしまう。すると、せっかく働き始めている鼻のスイッチを止めてしまうことになる。これでは犬の士気をもくじきかねない。

それに、ノーズワークはある意味タイムレース。スタート同時にそのままにおいのあるところへ突っ込んでもらえれば、それだけ時間をセーブすることができる。競技会で一位になるような犬は大抵ダイレクトに臭源にめがけて突進、ドンピシャで探しあてる。そのタイム5秒などというのも珍しくない。ただし、こういう突撃隊的探し方が通用するのはノービス・クラスまで。次のアドバンスド・クラスになると、サーチが難しくなり時間より探知の丹念さが物をいうようになる。

ノーズワーク・スポーツの新参者に服従行動を混ぜるミステークは結構「あるある」である。スウェーデンでも特に昔ながらのトレーニングをやってきたオジさんが、「すわれ!」などと命令をして犬を整えてからサーチに出している(犬は大抵ジャーマン・シェパードだったりする)。私が好きなラッコのスタート・スタイルは、立ったまますでに鼻をサーチエリアに意欲的に向け、尾をパタパタさせている状態だ。ここだけの話、競技会でのスタートの瞬間というのは、アドレナリンが放出する高揚の一瞬でもある。ラッコと私が一致団結して心の中で「Show Time!(さぁお楽しみだぜ!)」と叫んでいるドラマ感がなんとも言えない。そう、ノーズワークは服従スポーツじゃない、チームスポーツだ。

今は立ったままラッコの鼻の向く方向に任せてスタートを切る。最初の写真と比較されたい。ラッコの体からの意気込みが全然違うのだ。

最近だが麻薬探知犬のハンドラー/インストラクターでもありスウェーデンでノーズワーク競技会の審査員をするアダム・ヒュビネットさんのトレーニング・コースに参加した。その中で彼は犬の感情の持ち方について以下のようなサークル図を示して説明をしてくれた。

図1 家庭犬でいわゆるトレーニングをしやすいというタイプの犬が持つ感情世界。

競技会に参加するスポーツドッグとして、その感情世界は図1のような構造を持つことが好ましいとされている。まずは協調性。犬はこの協調性のオブラードの中に飼い主と一緒にいるという感じ。そしてそこに遊びたい!追いかけたいと言った狩猟欲から派生する士気があれば、犬は良い仕事ができるという。この図には示さなかったけれど服従性、攻撃欲、防衛欲等も小さなサークルとして存在している。

図2 職業的探知犬が持つ感情世界。

ただし、ホビーではなく職業的探知犬(麻薬探知犬など)の仕事においては、まず犬は狩猟欲を持ち独立的に働くという感情世界にいるべし、ということだ(図2参照)。「狩猟欲のオブラードにすっぽりと包まれている」とアダムさんは表現した。

「アメリカでよく使われているブラッドハウンドなんか、ほぼ狩猟欲(=探したい!)のみで探知仕事をしていますね。まぁ、僕は個人的にもうすこ〜し協調心がある犬と仕事をしたいなぁと思っていますが」

というアダムさんは、フィールド系のスプリンガースパニエルを好んでトレーニングしている。ラッコは十分に狩猟欲のオブラードの中にいると思われる。協調するのは、う〜ん、気が向いた時だけだ。だからやはりノーズワークに向いている、とつくづく….

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