猟犬だって家庭犬!我が友人のスウェーデン紀行

文と写真:藤田りか子

先日、はるばる山梨県から友人であるK夫妻がスウェーデンの我が家を訪ねてくださった。日本人としては珍しく二人とも狩猟がホビー。狩猟犬はもちろん森林業にも興味があり、森と湖と野生動物に溢れるスウェーデンは彼らにうってつけの「観光地」となった。

11月のスウェーデンは狩猟シーズンたけなわ。地元の犬仲間であるマリーさんの招待で、友人夫妻のためにシカ猟(ノロジカ猟)見学の案内をした。集まったハンターは全部で3人。その3人全員が犬を伴っていることにKさんはまず驚いていた。日本ではハンターがたくさん集まっても犬連れなのは2人ぐらいしかいないのだそうだ。

スウェーデンではノロジカ猟に興味がある人は必ずと言ってもいいほど犬を持っている。狩猟と犬、スウェーデンでは切っても切れない関係だ。例えばどんな狩猟でも、半矢(手負いにすること)の動物を探し出す特別にトレーニングされた犬が必ず伴われていることが狩猟法で決められている。動物が傷を受けたまま長く苦しい状態にさせておくのは倫理的ではない。だから半矢の獲物を放置するのは禁じられているのだ。この法律はカモ撃ちでも同様だ。だから、レトリーバーが必ず必要となる。

「日本は半矢になってもそのままなんですよ…」

と声をやや小さくしてKさん。実はそれを私も知っていた。日本はただし銃をめぐっての法は非常に厳しい。ライセンスを得るまで触ってもいけない。ならば、もう少し狩猟対象になる動物への配慮も厳しくするべきかもしれない。本当の動物愛護(保護)が根付くには、犬猫の保護のみならず、動物全てにその配慮が浸透していなければならないだろう。

この短足ハウンドがドレーベルというスウェーデン原産犬種。短足を活かしてゆっくり獲物を追う。シカ狩りに活躍する犬種だ。

活躍した3頭の犬はスウェーデンの原産犬種であるドレーベル2頭とドレーベルとダックスフンドのミックス一頭。北欧ではダックスフンドも純粋な狩猟犬であり、ドレーベル同様シカ猟に多く使われているとマリーさんはK夫妻に説明をした。するとKさんは

「ダックスってアナグマ猟だけじゃないんだね!」

とまた感心。こんな風に狩猟の世界ぐらい国によって、いや地域によって、いろいろ犬の使い方を見れるところはない。だからこそこの世にはたくさんの狩猟犬種が存在する。働きに応じて犬の種類が分化し最終的には犬種となるからだ。世界の犬に興味がある人は、外国に行ったら(そして機会があるのなら!)、是非K夫妻のように現地の狩猟を訪れるべきだろう。ローカルな犬事情が学べ、普通の観光よりも数倍旅が面白くなる。ちなみに私は私でKさんの話してくれる狩猟系の日本犬の働きがこれまた面白いと思った。

同じくドレーベル。走っている位置をハンターに知らせるために最近の狩猟犬はGPS搭載で活躍、首にアンテナがつけられていることに注目。このスウェーデンの大森林からシカをかぎ出し、ハンターの銃前に出す。

スウェーデンでは3頭以上の犬の群れで狩猟をするのは禁じられている(これもまた倫理的な理由による)。今回の狩猟は一度に2頭の犬を使ったが、一頭一頭別々の場所から離した。こうして広大な森林からシカを見つけ出す確率を高めるのだ。我々とハンターたちは各々の場所に分かれて待機し、ドレーベルに追われるシカが目の前に現れるのをひたすら待った。この様子を見たKさんはすかさず

「巻狩りだ!」

と言った。そうか、これが日本で言う巻狩りのことなんだ。私は日本の狩猟をほとんど知らない(生まれてから24年住んでいたのだが)。だからKさんを案内をすることでこちらも色々なことを学ぶことができた。

午前の狩猟が終わり、とりあえず休暇。お昼は森で焚き火を起こし枝にソーセージを刺して焼くのがスウェーデン風。日本から来た友人はこのスウェーデン体験をとても楽しんだ!

その後Kさん達は狩猟のみならず、今回狩猟を招待してくれたマリーさん宅や私の犬友達の家を訪れた。そして一通りの「スウェーデン犬文化」を観察することになった。いよいよ彼らが日本へ帰る日になり、私は「スウェーデンで最も印象深く思った犬事情は?」と聞いた。

「狩猟犬だからといって分け隔てられることなく、家庭で家族の一員として暮らしているんですね!」

これはさすがに考えもしなかった。日本では一般の家庭犬なら大抵の場合室内で家族と一緒に暮らしている。しかし狩猟犬となると、外飼いあるいは犬舎住まいになるのが普通だそうだ。マリーさんの家には今回活躍したドレーベルがソファでぬくぬくと休んでいたし、彼女のもう一頭の犬、大ライチョウ撃ちに使われるフィニッシュ・スピッツという猟犬も夜は居間の床でくつろいでいた。私の犬友達宅でもガン・カモ猟に使われているレトリーバー達が室内で過ごしているのを、Kさんはやはり訪れた時に目の当たりにした。

犬の種類に関係なく、スウェーデンではすべての犬が人の社会に上手に溶け込んでいるのがとても面白いと思ったそうだ。狩猟家にとって確かに犬は「ツール」であるが、やはり心を持った生き物。犬は同時に狩猟家の「友達」でもある。しかしそんなスウェーデンでも昔は今ほど犬が手厚くケアされていなかった。戦後になって随分変わったということを付け加えておきたい。

「犬達との共存、そして彼らと深く関わることの楽しみ方を学ばせてもらいました」

とKさん。やはりこうして実際の生活の中に入ってきて経験してもらうに限る。ヨーロッパの動物保護というと、まるでお決まりのように皆「保護施設」を訪れたがる。それも殺処分ゼロの施設なら尚いいと言わんばかりだ。でもそんな施設を訪れても表面的なことしか見れず、正直、日本人にとってそんなには勉強にならないと思っていた。

今回友人は狩猟という「動物愛護」とは全く相反した行為を現地で見聞した。その中に見られる「実用的な」動物倫理や普通の生活に見られる動物(犬に限らず)に対する基本的な考えを肌で感じられたと思う。これらを同じ日本人と一緒にシェアできたのは、私にとっても学びが多く、またすごく嬉しいことであったのだ。