都会住まいの犬たちに、パルクールはどう?

文と写真:藤田りか子

筆者が住むスウェーデンで犬のためのパルクールが一時とても流行ったことがある。ちなみに、人間の世界で行われているパルクールというスポーツは、走る、飛ぶ、登るといった運動を、周囲にあるものを利用して、行う運動方法。特別な施設など使わずとも、たとえば道にある柱や塀を利用してジャンプしたり飛んだり。公共のものを使うこともあるので、時には大迷惑なスポーツとして捉えられることもあるが、そこは常識を多いにつかってチャレンジされたい。

犬に応用するパルクールも、やはり散歩道に見られる周囲のものを利用して行う。これが、このスポーツの面白いところ。道ばたにブロックがあれば、その上にジャンプしてもらう、あるいはジャンプしなくても跨ぐ、前脚をかける、そのブロックの周りをぐるりと周る、どんなことでもいいから、そのブロックをめぐって犬に何かをさせる。全ては、飼い主の想像力次第。実はいろんなことができるものだと、一度始めると自分ながらに驚くはずだ。

私が属している地元のワーキングドッグクラブには、パルクール・グループというのがある。このグループでは、時折、グループのメンバーを集めてパルクール散歩会を行う。コースを決めて、集団散歩をするのだが、その時に各々で、道ばたにあるさまざまな環境を使って、パルクール技を考案していく。皆さんにパルクールというスポーツのフィーリングをつかんでもらうために、この散歩のある日の様子をここにお伝えしたい。ちなみに集まった犬たちは、大きさも犬種もさまざま。

集まった最初の場所は、公園の階段。まずは、ひとりが階段の上におもちゃを置いて、犬を送り出した。なんてことはない、持ってこい遊びに見えるが、技術が進めば、「登れ!」というコマンドでおもちゃなしに階段を一匹で登らせ、頂上で座らせる。そこでマテをしてもらって、その間に飼い主が追いつく。階段を登りきると、次に我々がみつけた障害は、道のガードレール。小型の犬はガードレールの下をくぐるという技をこなした。私の愛犬のようなでかい犬は、その上をジャンプするという技を披露。ジャンプをさせたくない人は、ガードレールの上に前脚を置くという技を犬にやらせた。

道沿いのガードレールが終わったところで、向こうにベンチが3つ並んでいるのが見えた。そこで、私は、そのベンチをアジリティの障害をこなすときのように、犬といっしょに走って、ベンチに飛び登らせ、そこを走らせた。そしてベンチから飛び降りると、すかさず、次のベンチに登らせ、走らせた。連続して飛んだり走ったり。ベンチとベンチの間の歩幅を犬は上手に計算して、次のジャンプをこなさなければならない。2度目の練習で、すぐにコツをつかんでくれた。この達成感も面白いし、犬もそれが分かるのか、とてもやる気。とはいえ、日本ではベンチに犬が登るのを禁止しているところもあるので、良い子は真似しないように!

 

こんな風に都会の中でも、環境の中にあるものを使って犬は何かしらの技がこなせるものだ。。柵をジグザグに歩くという技に挑戦。飛んだり跳ねたりだけがパルクールではない。前脚をかける、とか、柱のまわりをスラロームしてもらうなど。どんなものを使って、どんな技を犬にしてもらうか、飼い主のアイデア次第!これが面白い。常に犬の身体能力に合わせることも大事。無理をさせぬよう!

ただだらだらと歩くだけの散歩よりも、パルクールを入れるほうが数倍楽しい。飼い主も、道ばたにあるものを「あ、これ使える!」「これを犬にさせよう!」と常に頭を働かせることが出来る。そして「何か利用できるものはないかしらん?」とあれこれ散歩道の途中でパルクールオブジェクトを物色する飼い主に、犬は「母ちゃん、何をキョロキョロしているんだろう」とより注目してくれることもわかった。筆者の犬、ラッコもパルクール散歩をするときは、出会う犬にあまり気を留めず、目を輝かせて、次は?次は?とコンタクトをよくとってくれる。パルクール散歩はとても楽しい。

アクティビティを通して「飼い主は面白い存在」と犬が感じてくれることによって、より人と絆を作ってくれるようになる。毎日ご飯を与えてくれるお母さんより、散歩に連れて行ってくれるお父さんの方に何故か懐く、という話をよく聞く。これはつまり犬にとってお父さんの方が楽しい存在だからなのである。ただ叱ったり、ツケの練習をするだけでは関係は作れない。

パルクールは飼い主にとっても、犬にとっても楽しく関係を作ってくれるツールにもなるはずだ。もっともこのスポーツの元々の意味は、身体バランスを鍛える訓練。犬は、バランス訓練をするとより自信が付く。背中や脚の筋肉がついてくると、人間でもより歩きやすくなるし、気持ちが落ち着き自信がつく。

 

犬のパルクールを行う上でいくつかの注意点を挙げよう。

  • 散歩をしながら行うので当然、リードをつけて行うこと。ただし、首輪ではなくハーネスを使って。飛び降りたり、上がったりとする動きを行う際に首輪にリードをつけていれば、首を絞めてしまう等、犬に負担をかける可能性がある。そして、どんな動作を行うにしろリードはゆるりとしていること。
  • 犬の年齢や体の大きさと身体的限界を考えて。身体がまだできあがっていない子犬や若犬、脚や腰の悪い犬や老犬に多くのジャンプを望まないこと。特にアスファルトに着地する場合など高さに気をつける。できるだけ土に着地させる方がよし。ジャンプでなくとも、たとえば街路樹の木、ゴミ箱の周りをコマンドでくるりと周る、という技もある。すべては創造力次第!
  • 飛び降りる時や、足場の悪いところを犬に歩かせるときは、いざという時に飼い主が犬の体を支えてあげれるよう、つねにサポートできる体勢でいること。
  • 環境にあるものを使うだけに、周りの人の迷惑にならないかどうかをまず考えて。犬の脚をつけてもいいものなのか、いけないのか、など。