成人のガン患者への、セラピードッグの効果

文:尾形聡子

[photo by Pam K]

動物を介した活動のひとつに動物介在療法(Animal Assisted Therapy:AAT)があります。医療や心理療法、リハビリ施設などの現場で心身の機能向上を目的として取り入れられているものです。AATの効果はさまざまな場面で認められるようになってきていますが、このたび、アメリカはニューヨーク市にあるベス・イスラエル・メディカルセンターでガン治療を受ける患者の方々を対象にした研究が行われました。そのような臨床現場において初めて、セラピー犬の訪問が患者の方々の精神的な幸福とQOL(生活の質)とを向上させる効果をもたらすことが示されたと『The Journal of Community and Supportive Oncology』に発表されました。

臨床研究に参加した37名の患者さんはそれぞれ、頭部、頸部、胃腸に侵攻性の腫瘍があり、予定された手術の前に化学療法と放射線療法の両方を受けている方々でした。化学療法にくわえて、30の放射線療法を進めており、生命力を保つことにとても疲弊し、精神的に恐れ、体重も減少している状態だったそうです。また多くは、経管栄養(チューブにより直接消化管へ栄養を届ける)を行っていたために口腔内には粘液がたまり、味覚や嗅覚が一時的に失われている状態でもありました。

患者さんは、2週間にわたり毎日15~20分のセラピー犬の訪問を受けました。参加したセラピー犬は、AAT の活動を目的に1998年に設立された『The Good Dog Foundation』で活動を行っている犬たちです。FACT-G(Functional Assessment of Cancer Therapy-Genera)というガン患者の QOL を測定する方法も含め評価を行ったところ、患者さんは時間の経過とともに、QOL を測定するための尺度である身体的尺度(physical well- being)と機能的尺度(functional well-being)、感情的尺度(emotional well-being)の低下を見せました。

これらが低下することは積み重なる副作用によるもので、想定の範囲内であったそうです。しかし、社会的尺度(social well-being)は増加傾向を示し、感情的尺度(emotional well-Being)も時間の経過とともにわずかながら増加したそうです。このことから、セラピー犬の訪問に対する満足感は処置に耐える力となっていると評価され、処置後の訪問の影響と社会的サポートに対する認識とを長引かせることが示され、臨床的に意味のあるものという結果となりました。

長期にわたり厳しい治療を続けている人にとって、セラピー犬の訪問が心身にプラスに働くことがようやく数値として実証された研究ですが、きっとそれまでにも効果があるだろうことは、現場レベルで感じられていたことでしょう。孤独になりがちな患者の方々の支えの一部として、これからもセラピー犬の存在は大切にされていくことと思います。

(本記事はdog actuallyにて2015年1月29日に初出したものを一部修正して公開しています)

【参考サイト】
EurekAlert!

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