犬が首をかしげるのは「わからない」から?

文:尾形聡子


[photo by Tanya]

犬に何かを話しかけたとき、こちらをじっと見つめながら、ちょこんと首をかしげる。そんな愛犬の姿を見たことがある方もいるでしょう。

「ん?なあに?」「それ、どういうこと?」

まるで一生懸命こちらの話を聞き、理解しようとしているかのように見えるこの仕草に、思わず笑みを浮かべるものです。

犬の可愛さと身体的特徴との関係を調べた米イースタンケンタッキー大学の研究では、子犬の写真を「もっと可愛く見えるように」加工するよう求められた人たちが、犬の頭を傾けるように写真を加工する傾向がみられました。また、この研究チームがさらに調べたところ、子犬だけでなく成犬も、頭をまっすぐにしている写真より、首をかしげている写真のほうがかわいいと評価されています。つまり人間にとって、「犬が首をかしげる姿」には、どうやら抗いがたい魅力があるようなのです。

私たちは犬が首をかしげているのを見ると、「わからないのかな?」「一生懸命考えているのかな?」などと、理由を想像します。けれども、犬自身がなぜ首をかしげるのかは、実は今もよくわかっていません。

犬が首をかしげる動作については、これまでもいくつかの説や研究を犬曰くで紹介してきました。そして最近、また新たな研究が発表されました。そこで今回は、これまでわかってきたことを振り返りながら、犬が首をかしげる理由について、あらためて考えてみたいと思います。

犬はなぜ首をかしげる?これまで考えられてきたこと

犬が首をかしげる理由については、以前からいくつかの説が考えられてきました。たとえば、話しかけられたときに片方の耳を向けることで、音をより聞き取りやすくしているのではないかという説。また、首をかしげた犬を見て人が笑顔になったり、声をかけたりするため、犬がその反応を学習しているのではないか、という考え方もありました。

2013年、犬に関する著書でも知られる心理学者のスタンレー・コレン博士は、さらに「視覚」に注目しました。犬が人の顔を見るとき、突き出たマズルによって顔の下半分、特に口元が見えにくくなります。そこで頭を傾けることで、人の表情をより見やすくしているのではないかと考えたのです。

コレン博士はこの仮説を確かめるため、582人の飼い主を対象にオンライン調査を行いました。その結果、マズルの長い犬の飼い主では71%が、愛犬が話しかけられたときによく首をかしげると回答したのに対し、マズルの短い短頭種では52%でした。

この結果は、マズルによる視界の遮りが首をかしげることに関係しているという考えをある程度支持するものでした。しかし、短頭種でも半数以上が首をかしげています。コレン博士自身も、視覚は理由のひとつかもしれないものの、それだけですべてを説明できるわけでないとしています(コレン博士の調査詳細については「犬が首をかしげながら人の話を聞くのはなぜ?」を参照ください)。


[photo by Jne Valokuvaus]

意味のある言葉を聞くと、犬は首をかしげる?

その後、犬が首をかしげる動作そのものに注目した研究が行われました。2021年、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究チームは、犬がおもちゃの名前を聞いたときにみせる首をかしげる動作について調べています。

研究に参加したのは、33頭の一般的な家庭犬と、おもちゃの名前を覚えることに非常に優れた7頭の犬です。飼い主からおもちゃの名前を聞き、そのおもちゃを持ってくるように言われたとき、一般的な家庭犬が首をかしげたのはわずか2%だったのに対し、おもちゃの名前を覚える天才犬では43%にのぼりました。

研究者らはこの結果から、犬が首をかしげる動作は単に音を聞くことではなく、その犬にとって意味のある情報に注意を向けたり、聞いた名前と頭の中にあるおもちゃのイメージを結びつけたりすることと関係しているのではないかと考えました。

ただし、これはおもちゃの名前を覚える特別な能力をもつ少数の犬を含めた、限られた状況での研究です。犬が日常生活のなかで人から話しかけられたときにも、同じようなことが起きているのかはわかりません。

この研究を以前、「犬が首をかしげる理由は?〜科学的知見が初めて発表される」で紹介した際、私は「おもちゃの名前ではなく別の音を聞かせたらどうなるのだろう」「もっと多くの犬を対象にしたらどうなるのだろう」と書きました。それから数年。対象をより多くの家庭犬へと広げ、人からのさまざまな働きかけと首をかしげる動作との関係を調べた研究が、新たに発表されました。

より多くの家庭犬で調べてみると

2025年、米ジョージ・ワシントン大学などの研究チームは、103頭の家庭犬を対象に、どのような状況で犬が首をかしげるのかを調べました。

実験はそれぞれの犬の自宅で行われ、飼い主とのやりとりを4つの条件に分けて次の順番で撮影しました(各30秒間ずつ)。

  • 犬を見ず、話しかけもしない状態。
  • 犬と目を合わせるだけ。
  • 目を合わせながら、犬にとって馴染みのない決められたフレーズをゆっくり繰り返す。
  • 目を合わせながら、普段と同じような調子で愛犬がよく知っている言葉やフレーズを自由に話しかける。

すると、首をかしげる動作がもっとも多くみられたのは、最後の「④ 飼い主が馴染みのある言葉を自然に話しかける」条件でした。何も働きかけないときや目を合わせるだけのときにはほとんどみられず、馴染みのない文章を読み上げたときにも、それほど増えませんでした。

2021年の研究では、おもちゃの名前を覚えることのできた犬が、その名前を聞いたときに首をかしげることが多いとわかりました。そして今回、より多くの家庭犬を対象にした研究でも、飼い主から馴染みのある言葉を自然に話しかけられる条件で、この動作がもっとも多くみられました。

ですが、「知っている言葉を聞いたから首をかしげた」とまではまだ言えません。馴染みのない文章を読み上げる条件と、普段どおりに話しかける条件とでは、言葉の内容だけでなく、話し方や感情的なニュアンスも異なります。また、4つの条件はすべて同じ順番で行われました。研究者らも、これらの点が結果に影響した可能性があると述べています。

なお、この研究では右方向への首をかしげる動作が多いことも観察され、研究者らは脳の言語処理の左右差との関連を考察しています。けれども、今回もっと気になったのは別の数字です。研究に参加した103頭のうち、4つの条件のどこかで一度でも首をかしげた犬は41頭。つまり、約60%の犬は実験中に一度も首をかしげなかったのです。


[photo by otsphoto]

人と犬の「首をかしげる」は同じ?

ところで、私たち人間が首をかしげるのは、どんなときでしょう。意味がわからなかったり、疑問に思ったり、迷って考え込んだりするときに、無意識に首をかしげることがあります。また、相手に「よくわからない」「もう少し説明して」ということを伝えるために、意識的に首をかしげることもあるでしょう。実際、人の首をかしげる動作は、不確実さなどを表す非言語的なシグナルのひとつとして研究されています。

そう考えると、犬の首をかしげる姿を見て、私たちが「わからないのかな?」「一生懸命理解しようとしているのかな?」と思うのも無理はありません。見た目は、私たちが「わからない」ときにする仕草とよく似ています。

ところが、ここまで紹介してきた犬の研究を振り返ってみると、少し不思議なことに気づきます。

2021年の研究でよく首をかしげたのは、おもちゃの名前を覚えることのできた犬たちでした。そして2025年の研究でも、馴染みのない文章を聞いたときより、飼い主からよく知っている言葉を自然に話しかけられたときのほうが、首をかしげる動作は多くみられました。

人は「わからない」ときに首をかしげる一方で、犬ではむしろ、その犬にとって意味のある、馴染みのあるものが含まれる場面で首をかしげる動作が増えているのです。

もちろん、だからといって犬が「わかった!」という意味で首をかしげているわけではありませんが、よく似ているからといって、人と犬の首をかしげる動作を同じ意味のジェスチャーとして考えていいのだろうか、という疑問が湧きます。

そもそも2025年の研究では、約60%の犬が一度も首をかしげませんでした。犬に広く共通するコミュニケーション手段というよりも、「首をかしげる犬がいて、その犬たちはある状況でその動作をしやすくなる」と考えたほうが、実際の姿に近いのかもしれません。

だとしたら、犬が首をかしげる理由を、すべての犬に共通するひとつの答えに求めなくてもいいのではないか、という気がしてくるのです。

もしかしたら、最初はただの「クセ」?

ここまで考えてきて、以前、私のかつての愛犬の「クセ」について書いた記事のことを思い出しました(「愛犬のかわいいクセ、いくつ知っていますか?」参照)。そこでも首をかしげる動作を取り上げ、もしかすると、その犬が何気なく繰り返している「クセ」のようなものではないか、と感じたことがあります。

今回、いくつかの研究をあらためて振り返って思うのは、もしかしたら、最初は理由らしい理由すらないのかもしれない、ということです。

何かに注意を向けたとき、音を聞いたとき、あるいは考えているときに、無意識に少し頭を傾ける。そんな動作が出やすい犬と、ほとんど出ない犬がいる。人にも無意識に繰り返す仕草やクセがあるように、犬にもそうした個体差があっても不思議ではありません。

さらに想像を広げてみようと思います。

犬には、人の行動を観察し、そこから学ぶ能力があることが知られています(「子犬は観察して学ぶ~犬からも、そして人からも(社会的学習)」参照)。だとすれば、日々一緒に暮らしている人が首をかしげる姿を見ることが、犬の行動に何らかの影響を与える可能性も考えられます。もちろん、犬が人の首をかしげる動作を真似することを示した研究があるわけではありません。

そして、もうひとつ。犬とコミュニケーションをとっている最中に犬が首をかしげたら、私たちはどうしているでしょうか。

冒頭で紹介した研究が示すように、人は首をかしげた犬を「かわいい」と感じる傾向があります。思わず笑顔になったり、「なあに?」と声をかけたりするだけでなく、ときには犬につられてこちらまで首をかしげたりするかもしれません。そんな人の反応が犬にとって心地よいものであれば、何気なく始まった動作が、人とのやりとりのなかで繰り返されるようになることだってあるかもしれません。

もともと首をかしげやすい犬がいて、人の仕草から何かを学び、さらにその動作に人が反応する、というように、どれかひとつではなく、そんなことがいくつも重なっている犬もいるかもしれません。もちろん、これも研究で確かめられたことではありませんけれど。

2013年にコレン博士が犬のこの動作に目を向けてから、10年以上が経ちました。それでも、犬がなぜ首をかしげるのか、その理由はまだよくわかっていません。「なぜするのか」はまだわかりませんが、それでも、「どんなときにする犬がいるのか」は少しずつ見えてきています。もしかすると、さまざまな説があるように、「犬はなぜ首をかしげるのか」という問いには、そもそも答えがひとつではないのかもしれませんね。

みなさんの愛犬が次にちょこんと首をかしげたら、「今、どうして首をかしげたんだろう?」と、ちょっとだけ観察してみてください。正解はわからなくても、そんなことを考えながら想像を膨らませてみるのも、犬と暮らす楽しみのひとつなのではないでしょうか。

【参考文献】

・What Does That Head Tilt Mean? Brain Lateralization and Sex Differences in the Processing of Familiar Human Speech by Domestic Dogs. Animals. 15(21), 3179. 2025

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