文と写真:藤田りか子
ジョージアの村の人とその愛犬。都市よりも村の人々の方がよく犬を飼っている。
グルジアことジョージア(2015年にグルジアは日本ではジョージアという名で記されることになった)を訪れたのは今から10年前の2008年のこと。その頃、ロシアとジョージア間の戦争の激化が毎日ニュースとして伝わっていた。ジョージアは黒海とカスピ海の間を走るカフカス山脈の上に位置する山岳国だ。人口は550万人、北海道よりもやや小さいぐらい。ジョージアを旅したのは他でもない、カフカスの山岳地方にいるネイティブの野犬や飼い犬を見たかったからだ。
「あの時は混乱もあったけれども、これから平和がやってくるだろう」という印象が持てるほど、首都トビリシは明るかった。そしてかなり安全だった。だからこそ政府は観光産業にも非常に力をいれていて、教会など街の名所はきれいに整備されていた。多くのツーリストが集まるから…そう、そこに犬がやってくるのである。
野良犬は、観光客のいるところ、どこにでもいた。西側諸国のツーリストがかわいそうに思い、パンの端切れをくれるのを待っている、という感じだ。建築工事現場をふらついていているのもよく見かけた。
都市の発展を迎えてトビリシは建築ラッシュの真っ只中。街のあちこちで工事が行われていた。工事現場が増えるのは野良犬たちにとってありがたいことである。とりあえず、人にまとわりつけば、何かおいしいものを分けてもらえる確率が高いのだ。犬の原始的な姿とは、人のまわりをフラフラとして何とか食べ物をくすねること。その意味でジョージアでは昔のままの生活パターンを送る犬を観察できるということである。
トビリシの野良犬。建築現場でよく見かけたものだ。トビリシは建築ラッシュで工事現場だらけなのだけど。
トビリシは野良犬の苦情でかなり有名な街でもある。噛まれて狂犬病になる、というケースもあり、政府は犬に予防接種を施したり、野犬狩りを行ったりと、できるだけ「文明」に近づけようとしていた。
確かに狂犬病はおそろしいが、街で勝手に増えて育った野犬を見るのは、ある意味で興味深い。トビリシの犬たちを見てすぐに気が付いたことは、そのコートの色。フォーンのサンドベージュが多し。それも淡くて、ややシルバーがかったシックなベージュ。決して柴犬と同じ色ではない。サルーキなんかによくある色だ。体型は中型だけどスリムなタイプが一般的。サイトハウンドっぽい犬もよく見かけた。
トビリシの様子。
街には2日滞在したが、リードにつながれ、飼い主と街を闊歩している犬を見たのはただの一回だけ。それもスタッフォードシャーテリアであり、純血種となると、他の東ヨーロッパの例にもれずブル系に人気が集まるのがよくわかる。いずれにせよ街ですら、犬をペットとして飼う、というトレンドは当時全くなかった。
ちなみに、ジョージアには FCI 公認のケネルクラブはあるし、年に2回ぐらいで CACIB(国際的なタイトルの一種)が取れるドッグショーだって開催されている。出陳頭数はだいたい毎回100頭あまり。規模はミニだ。出陳者は近隣の国からが主。特にロシアからが多い。
私が訪れた頃には戦争に巻き込まれてしまったために、ペットを楽しむ、という風潮はまだ先のことにも見えた。さて今はどうなっているのだろうか。
(本記事はdog actuallyにて2008年8月13日に初出したものを一部修正して公開しています)