文:藤田りか子
今回は、ジャーマン・シェパードからビション・フリセーに犬種変えをした、というある飼い主さんのお話。 [Photo by OlgaOvcharenko]
私の犬仲間にもいるのだが、「別の犬種に変えたい」と思いつつもなかなか決心がつかず、結局ずっと同じ犬種を飼い続けている人。みなさんはいかがだろうか? もう、今の犬種が(あるいはミックスが)自分の運命の種であり、他に変えたいだなんて夢にも思わない?
ケース1:シェパード派のAさん
知人のAさんも、ずっと「同じ犬種派」だと思われていた。愛犬ヴィルマはジャーマン・シェパード。その前も、そのまた前もシェパードで、そう、Aさんはジャーマン・シェパードが大好きで、この犬種から離れられないという人だったのだ。だからヴィルマが亡くなったあとも、当然またシェパードを迎えるだろう… と誰もがそう思っていた。
ところが、Aさんが連れてきたのは、なんとビション・フリーゼであった!よりにもよって小型愛玩犬種。あまりにも今までとタイプが違いすぎて、周りは驚いた。
その子、トーヴァも今では3歳に。Aさんはこう語る。
「前の犬種に比べてあまり吠えないのが嬉しいです。小型犬だから出会う人からの反応もすごくいい感じ。以前だと、別に誰も近寄ってすら来なかったんですけど(笑)。子ども連れの人にも安心して会わせることができます。なんといっても彼女を撫でたがる人は何百人もいて、小ささと可愛さって大きな魅力なんですね」
そして運動量もヴィルマの時のように毎日長い散歩をせずにも満足してくれるので助かっているという。
「ヴィルマは作業犬としての血が強く、もっと多くのアクティビティや刺激が必要でした。時に、自分は十分に運動を与えていないと罪悪感を感じていたこともありましたよ。でも、トーヴァの場合だと普通に散歩するだけでも十分!とはいえ、彼女は小さくてもエネルギッシュで遊び好き、そしてにおいを探すのが大好き。しっかりアクティビティの時間を与える必要があります」
なぜAさんは急にシェパードから小型犬種に変えたのか?
「私の歳というのもあります。長年大型犬と暮らしてきて、ちょっと疲れたのも正直あって。ここで思い切って犬種を変えたらどうなるかな? という実験心もありました。ミッドライフ・クライシス?(笑)」
もちろんシェパードを懐かしく思うこともあるという。
「大きな犬ならではの重み、一緒に遊ぶときのモフモフ感は恋しいです」
犬種を変えることについて聞くと、Aさんはこう答えた。
「正直、少し不安もありました。でも犬と飼い主はお互いに形作られていくものだと思います。人生にはいろいろな段階があり、そのときどきで犬種を変えるのは自然なことかもしれません。とはいえ、一番大事なのは結局のところ “どの子(個体)と出会うか” だと思います」
ケース2:スポーツドッグ犬種に変えたBさん
もうひとり、知人のBさんの例も紹介したい。私がカーリーコーテッド・レトリーバーからラブラドールに変えた理由と似ていて(参照「年齢とともに変わる好みの犬種」)、こちらはドッグスポーツがきっかけだ。
Bさんはラリーオビディエンスが大好き。当時のパートナーは日本スピッツのオス、ヒロ。何百時間も練習を重ね、数々の競技会で活躍していた。ある日、大きな地方選に出場したときのこと。
「パフォーマンスはとても順調だったのですが、会場にヒート中の雌犬のにおいが漂った途端、集中を切らしてリングから飛び出してしまいました。そのとき『ああ、もうこれが限界だ』と感じたんです」
それをきっかけにBさんは犬種を変える決心をしたという。頑固な日本スピッツから、協調性のあるノバスコシア・ダック・トリング・レトリーバーへ。
「もちろん、ヒロは本当に素晴らしい犬でした。学習欲があり明るく、素晴らしい家庭犬。でも競技で少しでも高いレベルを目指すなら、やはりもともと『作業が好き』『協力的な』犬の方が楽しいですね」
スポーツは得意!ノバスコシア・ダック・トリング・レトリーバー。 [Photo by Laula Co]
日本スピッツは、犬種歴史的には、軒先の番犬として人々と暮らしてきた。気質は自立的。ヒロは賢いけれど、やはり勝手に行動するという傾向がチラチラとでてしまうのだ。モチベーションを高めるためにありとあらゆる作戦を練ってトレーニングを続けたと言う。
「でも新しい相棒のドリスとの練習はまったく違います。彼女は退屈なドライフードのご褒美だけでも十分モチベーションがあがるようで、集中力も抜群。さすがレトリーバー。歴史的に人と一緒に働くよう作られてきたことがよくわかります」
最初は「犬と暮らすのってこんなに簡単なんだ!」とすごく驚いたのだそうだ。それは、私がカーリーからラブラドールへ転向したときに抱いた気持ちと同じだ。私はいつも友人に「カーリー1頭分はラブラドール5頭分に相当する」と話しているのだが、Bさんの感覚もそれに近かったらしい。
「ドリスはいつもノーリード。森でジョギングするときもノーリードで一緒に走ります。決して逃げ出そうなんて考えません。それに「オン」と「オフ」のスイッチの切り替えも上手で、家ではちゃんと休むこともできます。雨や雪の日とか私がやる気のない日でも、静かに過ごしてくれますよ」
こんな風に今の暮らしがとても快適なので、Bさんは「前の犬種で特に恋しいことはない」と笑う。
犬種を変えることについて、Bさんにも改めて尋ねてみた。
「大事なのは、その犬種の性質をきちんと調べて、どういう目的で作られてきた犬なのかを理解することです。自分に合うと思える犬種に出会えたなら、迷わず進めばいい。私は“トレーニングにやる気を出してくれる犬”が欲しかった。そして競技会で上位にいける犬。その両方を、私はドリスで手に入れました!」
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