文:尾形聡子
[photo by Silvana]
心臓は全身に血液を巡らせるために働く臓器。十分な量の血液が送れなくなれば、それはすなわち死を意味します。心臓を臓器として持つ生物すべてに共通する摂理です。
心臓に生ずる病気は数多くありますが、「動き」という点からみると、心臓が急に動かなくなる、あるいは、徐々に動かなくなるタイプの病気があります。「心筋症」と呼ばれる病気は前者のリスクが高く、後者は「弁膜症」と呼ばれるものに分類されます。
犬の場合、心筋症といえば拡張型心筋症(DCM)がよく知られていると思います。心臓の筋肉に異常が生じて心筋が次第に薄くなっていき、収縮機能が低下して血液を十分に身体に送ることができなくなる病気です。そのほかにも肥大型心筋症(HCM)や不整脈源性右室心筋症(ボクサー心筋症)などがあり、いずれも大型犬・超大型犬に好発し、突然死のリスクのある遺伝性疾患です。一方で、DCMについては中型のスパニエル系の犬種でも多く症例が報告されています(「E・コッカー・スパニエルの拡張型心筋症(DCM):タウリン欠乏の原因に迫る」参照)。
弁膜症の代表は僧帽弁閉鎖不全症(MVD)です。MVDは僧帽弁がうまく閉じることができず、血液が左心室から左心房に逆流する状態になります。中でも犬に発症が多いのが僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)で、僧帽弁の組織がもろく、分厚く変性していく進行性の病気です。小型犬に好発、加齢により発症しやすくなります。
2022年、ノルウェーでキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの繁殖が禁止されたことの背景には、あまりにも蔓延してしまったMMVDも理由のひとつに含まれています(詳しくは「ノルウェーのブルドッグ&キャバリア繁殖違法の判決、北欧からの反応とその実情」と「北欧発、キャバリアとフレンチ・ブルドッグを別犬種と掛け合わす、犬種改良への新たな道」をご覧ください)。海外のみならず日本でも、キャバリアの弁膜症のかかりやすさは他犬種よりも9倍ほどであるという報告もあります(「犬種の作出がもたらした弊害〜キャバリアにのしかかる有害な遺伝子変異」参照)。
このように、犬に多発する心臓病というと、拡張型心筋症あるいは僧帽弁閉鎖不全症がよく知られています。一方で、犬では稀だと考えられている心筋症のひとつに肥大型心筋症がありますが、最近、ゴールデン・レトリーバーにおいてその発症原因となる