文と写真:藤田りか子
ファラオハウンド探訪に地中海の島国マルタにきたという前回からの続きだ。
イタリアに近いせいか、マルタのチーズはおいしい。特にオリーブオイルに保存されたマルタ特産山羊チーズ。形がマルいのが特徴だから、これぞマル・チーズだ、ハハ。マルチーズ(Maltese)というのは「マルタの」という意味だからちょうど語呂が合う。
マルタは土地がそれほど豊かでもないし、なにしろ狭い国だから、チーズのミルクを提供してくれる山羊や羊の群れはそれほど大きくない。よって期待していた牧羊犬は発見することはなかった。
マルタ・チーズとオリーブの盛り付けがおつまみとして定番であった。この写真ではチーズが切り刻まれているが、元の形は丸い。Photo by Charlie Marchant
ファラオハウンドも牧羊犬も見つからなかったが、マルタを代表するのは、やっぱりガンドッグ(鳥猟犬)なのではないか、と現地に行ってみてから気がついた。ガンドッグは、藪に隠れているウズラを探して飛び立たせ、ハンターに撃たせる役割を担う。マルタで見かけた多くのガンドッグは、スパニエル系や、ポインター系。必ずしも純血種とは限らない。マルタでは鳥猟がさかんだ。海岸に面した藪地でウズラなどを狩る。しかし悲しいかな、密猟もさかんである。この島はちょうどアフリカからの渡り鳥のルートとなっており、多くの希少な鳥が撃たれている。
マルタの海岸の絶壁にはこのように海を渡ってくる鳥を撃つためのハイドがあちこちに設置されていた。
非猟期中は犬小屋に閉じ込められたままのファラオハウンドと異なり、ガンドッグ達はシーズン外の間は、普通のペットとして飼われている。オフリードで波止場をぶらぶらしている姿もよく見かけた。それも魚網を解いている漁師に混ざって一日をつぶしている輩もいるのだ。素敵な犬生ではないか。
マルタの犬事情はイギリスの影響が濃いと前回述べたが、ただし狩猟にレトリーバー系の犬は登場しない。何しろレトリーバーは回収の専門家。イギリスのように「養殖」したキジやウズラを畑に放して行う猟はここに存在しない。深い藪に潜む野生のウズラを効率よく探し出してくれる犬となれば、やはりFCIでいうところのグループ7に当たるポインティングをする猟犬種がマルタでは重宝される。
農場ではフォックステリアもどきがよく飼われていた。これもイギリスの影響として見てとれるだろう。そのテリアはジャックラッセル風でもないし、純粋なフォックステリア風でもない。ただし現地の犬好きによると、もどき、などではなくこれぞ本来の姿を残した元祖フォックステリアなのだそうである。
つまりかつてイギリスから入植してきた人々が母国から持ち込んだテリアの末裔が、ここで見られるやや脚長のテリア。島という環境で保存され、その姿はほとんど変えられずに、今まで生き延びているということだ。現在、イギリスにいるフォックステリアは、ショードッグとして形はずいぶん変えられてしまったから、マルタのテリアはなかなかの貴重な存在である。
そういえば、元来の姿をしたフォックステリアといえば、ブラジルにもいるし、スペインのアンダルシア地方にもいる。いずれも犬種として確立されている。しかしマルタのフォックステリアは犬種でもなんでもない。そして誰も気にも留めてないようだ。
どなたか新しい犬種の確立に興味のある人、今ならチャンスだ。マルタのフォックステリア、名付けて「マルチーズテリア」ならもしかして犬種にすることができるかも!?既存する多くの犬種は、ローカルに特徴的な犬を集めて確立されているものだ。マルタのフォックステリアを調査して犬種スタンダードを書いてみるのはいかが?
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(本記事はdog actuallyにて2010年4月21日に初出したものを一部修正して公開しています)
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