嗅覚での探知、パフォーマンスに影響する要因〜ボーダー・コリーの場合

文:尾形聡子


[photo by Ines Hasenau]

犬は非常に優れた嗅覚を持つ動物であることはわかっていても、なぜそんなに嗅覚が優れているのかを知りたいというのが人というもの。犬のその能力を多方面から理解するために多くの研究が行われてきています。

たとえば、実際犬はどのくらいの薄い濃度のにおいまで嗅ぎ分けられるのか、解剖学的にどのような特殊な構造を持っているのか、あるいは嗅覚を知覚する際の脳の働きはどのようになっているのか、というようなことについてです。ただし、犬の嗅覚についてのこれまでの研究の大半は嗅覚を使う作業犬をターゲットとして行われているものだったため、どのような犬も同じように鋭い嗅覚を持っているのか、あるいはセントハウンドなど嗅覚作業に特化するよう育種されてきた犬種はとりわけ敏感ににおいを察知したり判別したりできるのか、というような、広く「犬」を対象とした行動実験を主とする研究は少なく、一般的な見解が出ているわけではありませんでした。

そのようなタイプの研究のひとつが、藤田りか子さんの「ノーズワーク、犬種による嗅覚能力の差はあるのか、という研究は…」で紹介されていたものです。ハンガリーのエトベシュ・ローランド大学の研究者らによって2016年に開発された「Natural Detection Task(自然な探知タスク:NDT)」というテストを用いた研究で、食べ物に対して自然に湧き上がるモチベーションを利用するのが特徴。そのため、嗅覚作業やノーズワークなどに必要とされる技術を持たないごくごく普通の家庭犬であっても、事前のトレーニングをせずにテストに参加し、それをもとに犬の嗅覚能力を評価できるようになりました。

前出の藤田さんの記事中の研究では犬種による違いが見られていたり、「家庭犬のにおい検出に影響を与える要因は?」で紹介した、同じ研究チームによる実験では年齢との関連性(加齢により成功率は低下)が示されています。ですが、テスト結果には個体差も影響していることから、同研究チームは犬種によるばらつきを排除し、同一犬種内におけるそれぞれの個体の嗅覚探知能力に関係してくる直接的な要因を探るためにボーダー・コリーだけを対象としてNatural Detection Task(以下、NDT)を使用した研究を行いました。

テストのパフォーマンスに影響すると考えられる要因

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