文:尾形聡子
[photo by Eudyptula]
暑い暑いと言っていたのも束の間、気づけば朝晩すっかり冷え込むようになり、散歩に出るのに上着や手袋が必要な季節になりました。藤田りか子さんの「暗い冬の犬との散歩」を受けて、今回は犬に防寒は必要?のお話をしたいと思います。
犬に服は必要?
全身を毛で覆われていて人よりも体温が高い犬は、夏が苦手なイメージが強いと思います。ややもすれば一年中熱中症になりかねないとも言えるでしょう。来年の暑い時期に備えて今からトレーニングを!という以下の紹介記事を先月に書きましたが、今の寒さへの対策が飼い主の皆さんとしては気になるところですよね。
寒い時期の防寒が必要かどうかはまず、犬種によって異なります。なぜなら犬種によって被毛の種類や長さが異なるからです。柴や秋田をはじめ、シベリアン・ハスキー、ラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバー、寒冷地出身の犬の多くは被毛が二層になっていて、内側にあるアンダーコートが寒さから犬を守っています。いわゆるダブルコートと呼ばれる被毛のタイプです。
しかしアンダーコートを持たずにオーバーコートのみが生えている犬種も多くいます。シングルコートと呼ばれる被毛タイプで、チワワやイタリアン・グレーハウンド、ダルメシアンなどで被毛がツルッとしているタイプです。長毛になるとマルチーズやヨークシャー・テリア、巻き毛のプードルもシングルコートになります。毛の長さにもよりますが、シングルコートで短毛の犬はアンダーコートがないためにダブルコートの犬と比べると寒さに弱いという特徴があります。
また、チャイニーズ・クレステッド・ドッグやメキシカン・ヘアレス・ドッグなど、体のごく一部あるいはほとんど毛の生えていないヘアレス犬種においては、皮膚を覆う被毛がないためもれなく寒さの影響を直接受けやすくなります。
余談になりますが、3種類の被毛を持つ珍しい犬もいます。イタリアの牧羊犬ベルガマスコです。フェルトに覆われたような特徴的な外見は、一度見たら忘れることはないでしょう。
[photo from wikimedia]
犬種により寒さ対策としての服のニーズは違いますが、それだけではありません。体温調節機能が低下している恐れのある老犬や病気の犬、痩せ型の犬、子犬などは、寒さによって体力が奪われないような対策をする必要性が高まります。そのような犬に服を着せることは、余計な寒さを感じさせずに快適に過ごすための手段となり得ますので、それぞれの犬に適切な温度を保てるよう、必要があれば服を着せることは大切です。
ちなみに、恒温動物がエネルギーを消費せずに体温を一定に保つことのできる温度範囲のことを「サーモニュートラル・ゾーン(Thermoneutral Zone:TNZ)」といいます。人が裸の場合は26〜30度、犬は概ね20〜30度となっています。この温度を下回れば体温を上げるために震えたり、高くなってくれば体温を下げるためにパンティングをしたりします。その際に、エネルギーが消費されることになります。ただし、人によっても快適な温度の感じ方が異なるように、犬にも個体差があります。また、寒冷地原産の犬はTNZが低めだったり、逆に短毛でシングルコート、暑さに強いと考えられている犬種ではTNZが高めになることもあります。
犬に靴は必要?
犬の肉球は寒さで凍りつかないよう、生理的に進化しています。寒冷地の犬が氷の上をそりを引いて走り続けても大丈夫なのは、肉球だけでなく全身が低温の環境に耐えられるように進化をしてきたためです。寒冷地の犬だけでなく、犬の足はさまざまな地形に適応できるように脂肪分を多く含み、肉厚で、グリップ力があり、耐寒性に優れた皮膚を持ち、常に足を守っています。
ヤマザキ学園大学の研究によれば、犬の四肢には「対向流熱交換システム」と呼ばれる体温を一定に保つ仕組みが備わっていることが示されています。
肉球に血液を供給する動脈の周囲にはたくさんの小静脈(静脈網)が存在していて、それらがネットワークを組んで肉球からの熱損失を防いでいます。そのため、肉球の小静脈内にある血液が空気や地面との接触により冷やされても、心臓から送られてくる温かい血液が通っている動脈のそばにあるため、すぐにもとの温度に戻ります。そして、熱を放出して冷えた血液は脚を通り、身体へと戻るまでに温めなおされます。そのため犬は足先の体温も体の体温もある程度一定に保つことができるのです。
犬の足が凍らないのはどうしてなのか、詳しくは以下のリンク先記事をご覧くださいね。
とはいえもちろん、寒さに極端に慣れていない犬であれば凍傷になる可能性はあります。さらに、寒さ以外に気にしなくてはならないのが氷を溶かすために使われる塩化カルシウムや塩化ナトリウムです。断続的に融雪剤が撒かれた道を散歩すると、肉球が炎症を起こしたり傷ついたりすることもあります。そのような道を歩いて家に戻ったらよく足裏を洗う、肉球用のクリームをぬるなどの足裏ケアが必要になりますが、犬にとって動きやすい靴を着用することでも肉球を保護できます。
日々の散歩後のお手入れを考えると、忙しい生活を送っている飼い主さんにとって靴の着用は、犬の肉球を守るだけでなく毎日のちょっとした時間の節約にもなるかもしれませんね。
[photo by madk]
服や靴はケースバイケースで
犬の服や靴は被毛の種類や長さ、犬の健康状態や年齢、生活環境などによって必要度が異なります。いずれにしても、犬が服や靴に慣れていなければストレスになってしまいます。犬は基本的に足先や体に違和感を覚えると、不安がったり、動きにくそうにしたり、ひどいときには固まってしまうこともあります。ですので、いきなり服を着せて散歩に行ったりせず、少しずつ慣れるトレーニングをしてから普段使いするようにしたいものです。
真冬真っ只中の外環境であれば問題なくても、春先になってくると暖かい日が増えてきます。冬の間に服が習慣化すると、服が不要なくらいに暖かくなっていてもつい着せてしまうこともあるかもしれません。暑過ぎになっていないかどうか、犬の状態をしっかり確認しておくことも大切です。
そして、今は服や靴などまったく必要ない元気な状態であっても、年齢を重ねていくうちに使うことになるかもしれません。レインコートなどですでに服に慣れている犬もいると思いますが、いざというときのために服や靴に慣れておくことができれば、犬も飼い主さんも安心ですね。
【参考文献】
・Temperature Requirements for Dogs – Purdue Extension
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