動物福祉を複雑にする「望ましさの二重構造」~ナッジとリバタリアン・パターナリズムから考える

文:北條美紀


[Photo by omid armin]

皆さん、ナッジ(Nudge)という単語を耳にしたことがあるだろうか。10年以上前に登場し、様々な議論を巻き起こしながら盛んに使われている言葉らしい。ナッジは「相手を肘で突く、そっと押す」ことを意味し、そこから「人間の性質や行動原理に基づき、自発的に行動するきっかけを提供する手法」を指す用語として定義されるに至った(厚生労働省ホームページ)。人は常に非合理的で誤った判断を犯しがちな生き物であるという行動経済学的な視点を背景に、「望ましい行動」を科学的に後押しするのがナッジだ。

身近なところでは、目につくところに表示されている嗜好品のカロリー、煙草のパッケージにある「喫煙はあなたの健康寿命を短くするおそれがあります」のメッセージ、「飲み方カエルPROJECT」のWeb動画や特典配布などの健康系から、密を避けるために地面に書かれた「足あとマーク」や「いつもきれいに使ってくれてありがとう」のトイレの一言といった公衆衛生系など、実にさまざまなものがある。動物福祉系であれば、クレジットカード払いの一部が、事前に登録した動物福祉関連の団体に寄付されるものなどが知られているところだろう。

ナッジの背景にあるリバタリアン・パターナリズム

そもそも私がナッジの話を耳にしたのは、「ナッジって、おせっかいや押し付けと紙一重なんじゃない?」という文脈だっだ。そっと後押しのつもりが、

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