文:尾形聡子
[photo by Moose]
人も犬も加齢により少しずつ脳機能が低下していき、それに伴い認知機能も低下していきます。認知機能の低下に伴う症状だけでなく、これまでに、人のアルツハイマー型認知症と犬の認知機能障害にはアミロイドβという脳内でつくられるタンパク質が分解されずに蓄積し、脳の神経細胞の減少や脳萎縮が見られるという、脳組織の構造的な変化にも類似性があることがわかっています。
アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校の神経生物学を専門とするクレイグ・スターク教授を中心とした研究チームは人のアルツハイマー病の治療薬の研究を続けており、その研究の一環として犬を疾病モデルとした脳の健康状態を3年間追跡調査する研究を行いました。
6歳から3年間、脳状態を追跡調査
研究チームは6歳のビーグル43頭(オス7、メス36)を対象とし、半分にはアルツハイマー病の治療薬となる可能性のある2種類の薬の投薬を続け、半分にはなにも投薬をせず、3年間、年に1回MRIを使って脳の状態変化を観察しました。また、すべての犬は毎日運動をし、ローテーションして与えられたおもちゃで遊び、人と関わりあうことができました。さらに毎日30分、オスとメスのグループにわけて犬同士で遊ぶ時間もありました。
MRI測定を継続した結果、研究開始時である6歳のときのベースラインの脳はみな平均的なサイズでしたが、加齢とともに前頭葉が萎縮していることが観察されました(前頭葉の機能は思考ややる気、思考、判断などを司っています)。しかしその一方で、通常であれば加齢とともに萎縮していく海馬については、驚くべきことに、すべての犬で容量が年々増加していたのです。
記憶や空間学習能力を司る機能を持つ海馬は、今回の研究では年平均1.74%の割合で増加していたことがわかりました。また、海馬の容量増加は投薬グループと非投薬グループの間に差が見られなかったため、海馬の容量増加には毎日犬たちに与えられた運動や刺激、社会的な相互作用の行動エンリッチメントに起因している可能性が示唆されると研究者らは述べています。
加齢に伴う前頭葉の萎縮は防げなかったものの、日々の行動エンリッチメントが脳の血流を増加させ、脳細胞の成長を促していたために海馬の容量増加につながったのではないかとも考察していました。
研究チームはさらにこれらのビーグルの脳状態を10歳、11歳のときにもMRI検査を行う予定でいるそうです。追跡調査により、投薬を続けた薬が犬の脳の健康維持に効果があったかどうかの最終的な結論が出るとしています。さらには毎日の行動エンリッチメントも続けるそうなので、その点における脳への影響についてもより強固な科学的な確証が得られるかもしれません。
[photo by DenisNata]
体も脳も長く健康でいるために
確かに今回の研究対象となったビーグルのような中型犬の9歳であれば、一般的にはまだ認知機能障害の症状が顕著にあらわれる年齢ではありません。10歳、11歳時の追跡調査の結果が待ち遠しいものです。もしその結果から、その薬が犬に効果があることがわかれば、犬だけでなく人への臨床応用につながることにもなりますし、日々の行動エンリッチメントの効果がどのように出てくるのかについてもとても興味深いからです。
ともあれ、体や脳の健康のためには毎日の散歩に始まり、さまざまな種類の刺激を受けられる状態でいられ続けることが大切です。人と同じように、健康寿命を延ばすにはまず、筋肉量をなるべく落とさないような生活を心がけたいですね。
トレーニングや遊びが認知機能の維持に効果的なことも示されていますが、大事なのは日々の積み重ねです。シニアに入ったから重い腰をあげよう、ではなく、小さい頃からの生活スタイルが大切であることを心に留めておきたいです。
さらには脳トレをプラスすれば言うことなし!以下、藤田りか子さんの記事を中心とした脳トレの記事一覧となりますので、ぜひ今日からでも愛犬との暮らしの中に取り入れていただければと思います。
積極的に工夫して犬と遊んだり関わったりする生活を続ければ、犬の健康にとっていいだけでなく、きっと飼い主ににも知らず知らずのうちにいい影響が及んでいるのではないかなと思うのです。
【参考文献】
【関連記事】