文と写真:藤田りか子
山中の村で出会った犬。多くは放し飼いにされていた。そしてこのような牧羊犬タイプのボサ毛の犬がなんと多かったことだろう。
険しい岩場を越えて山を降りると、とつぜん村は現れる。丸くすりへった石畳の細い道を行くと、踊り場程度のスクエアにぶつかる。山からの雪解け水が流れてくる水のみ場があり、たった今まで我々を乗せて険しい岩場を越してきた馬達は、早速渇きを癒す。口をほとんどへの字に曲げて「ゴクゴク」と、喉を鳴らしてうまそうに飲む。
そこに羊飼いが10頭の剛毛コートの牧羊犬をひきつれて、別の細道から現れる。
「いったいどこからやってきたのだろう?」
青い空に教会の鐘が響いた。ピレネーにいると、こんなおとぎ話のようなシーンにしょっちゅう出くわすことができる。我々のトレイルグループ、8頭の馬がカツカツと蹄の音を響かせながら、石の家の裏側に入る。通りぬけるとすでに空き地が広がり、林に入るけもの道も見える。ガイドに従い列になって一隊はその細い道を登って行く。まもなく急峻な岩肌が現れ、再び空と接する山に戻される。
山を登り山を降り、村に入っては、また次の山に登り… こんな旅を続けた末、四日目ともなるとさすがに私の相棒は疲れの表情を見せ始めた。「ワタシはへっちゃら」と言ったら「あんたは日ごろ、犬を散歩しているから体力があるのよ」と言い訳をするようになった。彼女、そろそろ音をあげたい頃なのだろう。そう乗馬ツアーはタフなのである。
山を降りて村に入ると、山からの雪解け水が流れてくる水飲み場がある。ここで馬たちも渇きを癒す。
羊飼いがたくさんの犬たちを引き連れて突然現れた。
コムスという村に入り宿につくと、他のピレネー越えの若いカップルのハイカーに出会う。彼らはロバと一緒にハイキング。ピレネーではロバに荷物を運ばせて山越えをするトレッキングが人気だ。若いカップルは宿の後ろの牧草地にテントを張ってロバと一緒に夜をすごすことに。ところが、このロバ、もう今日は歩きたくない、とのことで宿の入り口から動かなくなってしまった。みんなが出てきて、エイヤエイヤと引っ張った。子供の頃読んだ童話に「頑固者のロバ」がよく登場していた。ロバが頑固であるのは本当だったのだ。
そうこうしているうちに、宿の主人やら犬まで出てきた!そして皆で一生懸命ロバを動かそうとする。犬はグレート・ピレニーズとベルジェ・デ・ピレニーズというフランス側ピレネー山脈の牧羊犬のミックスということである。下の写真の通り、ボサボサしたコートをまとっているが、グレート・ピレニーズ譲りの大きな犬だ。宿のマスコット犬として皆に可愛がられていた。とても温和だけどマイペース。しかしグレート・ピレニーズほどのんびりしたタイプではなく、動作はシャキシャキしていた。さすが牧羊犬の血が入っている所以だ。
動かないロバを動かそうと、たくさんの人が出てきて、手伝ってくれた。なんと犬まで!グレート・ピレニーズ譲りの大きな犬だ。ボサボサしたコートをまとっている。
宿の裏庭にさらなるボサボサの犬がうろうろしているのを発見。ローカル風な犬でなかなか特徴的な姿をしている。ブリンドル柄。さっそく飼い主らしき人をつかまえて、「あなたの犬?牧羊犬かしら?」と質問をした。聞けば、ベルジェ・デ・ピレニーズととスペイン原産のカタラン・シープドッグのミックスなのだそうだ。自分はちょうどフランスとスペインの国境に住んでいるから、こういうミックスもありよ、と笑いながら彼女は言った。そして
「羊は追わないけど馬なら」
とも答えてくれた。なぜ羊じゃないのかな、と思ったがきっと馬といっしょに住んでいるのだろう。それにしても、う~ん、ピレネーは牧羊犬だらけだ。それもこういうボサボサ系の。そしてこの辺りに住む犬たちは、犬として本当に充実した暮らしをしているのだ!
宿の従業員に飼われていた犬。これも牧羊犬風だなと思いきや、フランス原産のベルジェ・デ・ピレニーズととスペイン原産のカタラン・シープドッグのミックスなのだそうだ。
馬に乗ったあとは汗を流すために、近くに湧き出ているという温泉に連れて行ってもらった。温泉といっても、日本のように温泉宿があって土産物屋が立ち並んで、とかそんな感じではない。温泉は大自然の森の中。しばらく森を歩くと池が見えてきた。自然に湧き出ている温泉池。入場料もなし。その辺の木に着替えとバスタオルをひっかけてざぶん。この温泉がピレネー山脈の観光案内に出ているかどうかもわからない。おそらく地元の人しか知らない場所なんだと思う。
長い乗馬ツアーの後の森の中の自然温泉にザブン。気持ちがいいひと時。
ピレネー山脈乗馬ツアーもこれでフィナーレだ。短すぎず、長すぎず丁度良かった。ガイドのマテウさんの長年の経験と土地勘のおかげで、安全・確実な旅となった。そして変化に富んだ楽しいトレイルだったのは言うまでもない。さらにはたくさんのローカル犬たちに出会うことができた。犬に出くわす度に写真をパチパチ撮るものだから、ツアーの仲間からはそのうち「ほら、あそこにも犬がいますよ」などと指を差してくれるまでに。
この乗馬ツアーの後、私はさらにピレネー山脈の牧畜番犬についてルポタージュの旅に出かけた。そのレポートはいずれの機会に紹介したい。
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