ペット同伴の防災避難とノーズワークの関係

文:藤田りか子、写真:ノーズワークスポーツクラブ

秋はイベントの季節。ドッグイベントも一気に増える。嬉しいことに、この秋ノーズワークスポーツクラブがイベントに数々参加したことも聞いた。なんと!

「9月に私たちが運営しているノーズワークスポーツクラブに、イベントへのお呼びがあったのですが、一つのイベントに呼ばれたことがきっかけで、そこから輪が広がり、結局4つのイベントに招待されました!」

と明るく語ってくれたのは当クラブの推進メンバーとして活躍されている近藤奈緒子さんだ。

ノーズワークスポーツクラブとは?はこちらの記事(↓)からチェック!

 日本のドッグスポーツ界がまたおもしろくなる – ノーズワークスポーツクラブが発足!

ノーズワークは他のドッグスポーツに比べてとてもマイナーだ。そもそも見た目が地味。アジリティやドッグダンスのようにアクションに溢れているわけではない。結果、世間での認知度も今ひとつなのである。しかしこのドッグスポーツこそ日本の都市部に住む犬のQOLを一気にアップさせる救世主になるはずなのだが。

よって、ノーズワークスポーツクラブはこれまでにも「いかに広くノーズワークを犬と暮らす人々に知ってもらうか」について試行錯誤を繰り返しながら多くの努力を払ってきた。今回あちこちでイベントに招かれたのは、その奮励が実った証ともいえる。

一回目は、東京都有明にある東京臨海広域防災公園で開催された「くんくんドッグフェスタ〜ペット防災とスポーツ」というイベントにて。防災イベントでやったことがきっかけとなり、次はなんと杉並区高井戸警察署からのリクエストで、防犯講習会わんわんパトロールをしているボランティアの皆さんへのノーズワーク講習会を開催することに。


東京臨海広域防災公園で開催された「くんくんドッグフェスタ〜ペット防災とスポーツ」のイベントにて。「お試しノーズワーク」のシーンから

そしてつい先日だが、防災関係のイベント「アーティスト&カーペンターフェスタ」にも招かれた。

「幸和建設工業株式会社さんと神奈川県東俣野町のコラボイベントです。地域の住人、企業や団体のコミュニティを築き、地域社会の自助・共助を推進、防災意識と知識の習得と醸成を図る、というコンセプトの元に開催されたのですよ。幸和建設工業さんは敷地を防災区域として地域住民に提供しています。そこは普段からペットも連れていける地域になっていて、ドッグランもあり子どもにも解放しています」

災害があったときにいきなり犬を連れていくのでは犬も環境慣れをしておらずびっくりしてしまうだろう、ということで普段から犬連れの人に敷地を解放しているとのこと。それにしてもなぜ、ノーズワークスポーツクラブが防災関連のイベントに呼ばれたのか?

「『地域、子ども、犬のために参加団体みんな仲間になりたい』という幸和建設工業さんの強いご意志からなんですよ」

とはノーズワークスポーツクラブの推進メンバーである福嶋澄子さん。このイベントにクラブが呼ばれたのも福嶋さんのイニシアティブが発端となっている。

「アーティスト&カーペンターフェスタ」におけるノーズワークスポーツクラブのデモ。においを隠してもらって犬が探し出すところをギャラリーに披露!


「ほら、こんなに簡単!どんな犬でもできるでしょ?」とクラブの推進メンバーの近藤さん。見学者からは「においを探すことは、よく訓練された特別な犬がすることと思っていたのに!」などという声も。

「ノーズワークを通して地域の人と飼われている犬や子どもとのつながりを助長するという他に、避難先でノーズワークをしたらいい、ということの話もしました」

と近藤さん。犬との同行避難については多く語られているものの、避難先でどう犬が過ごすべきか、ということについての議論はあまりなされていない。

「避難先で散歩ができなかったり、クレートでの待機が長引くこともあるでしょう。そうすると犬も不安をためていくはずです。そういうときにこそノーズワークをやるといいのですよ。いつもの遊びをすることで、防災場所でも犬は安心することができます。ノーズワークはどこでもできる遊びですからね」

のみならず、犬という動物が持つニーズ(においを嗅いで何かを探したい=狩猟欲のひとつ)もノーズワークで満たすことができるとも。

「多くの方は、においを探すことは、よく訓練された特別な犬がすること、と思っているみたいです」

とは福嶋さん。しかしノーズワークスポーツクラブが見せたデモによってその考えは覆されたようだ。なにしろ、警察犬などではなく普通の家庭犬がやっているし、ターゲット臭を探す前に行う「サーチ」の練習はトリーツで簡単にできる。そして見学者の家庭犬も「お試しノーズワーク」に参加した。

「見学者の方の第一声は、『知っているようで知らない世界!』と、とても関心をもってくれました。『初めて見た!不思議!面白い!』などという声も上がっていましたね。他にも『どんな犬でもできるなら保護犬イベントやペットイベントでぜひ検討したい』『平和な印象で、ゲートボールみたい』、『お金かからない遊びは魅力的!』なんていう感想も」

もちろんノーズワークスポーツクラブは日頃の練習の成果を発表する「競技会」についてもデモで言及をした。競技会のルールを守ることでより環境に強い、そしてマナーある犬になることもできる。近藤さんは言う。

「ノーズワーク競技会の一番の基本ルールは、まず犬をしからないこと、ひっぱらないこと、ここにあるよ、などとヒントを与えすぎず犬の自主性を重んじてあげること。あとは排泄のコントロールができていることですね。」

そう、サーチ中に排泄を行うと失格となる。

「ノーズワークの競技会に出れるような犬なら、避難先のような環境でもより適応しやすくなるのではないのでしょうか」

犬にとっても飼い主さんにとってもいいことづくめ。ノーズワークのメリットがペット同伴の防災避難とマッチする、ということを今回知って、「ぜひ、うちへ!」と申し出てくれた方もいた。同じくイベントに参加していた特定非営利活動法人ペット災害危機管理士会の理事長である鈴木清隆さんだ。将来、災害危機管理士の教育の一環にもノーズワークを取り入れることを検討されたいとのこと。おお、これはさらにノーズワークがスポーツとして日本に広がるチャンスになりそう!


特定非営利活動法人ペット災害危機管理士会の理事長である鈴木清隆さん。クラブのデモのためにローリエのにおいを隠してくれた。ハンドラーはどこに隠されているか知らない状態で、デモを行う。

ノーズワークスポーツクラブの活動はまだローカルに留まってはいるものの、メンバーの皆さんのノーズワークに対する思いはそのうち日本全国に広がるはず。いや、すでに北海道の方からもクラブへの問い合わせがある。

イベントを終えて福嶋さんはこう語ってくれた。

「〈ペット専用イベント〉という枠組みでノーズワークを見なすのではなく、そこから一歩進んで、ノーズワークが「犬とは何か」「犬との共生とは」を人々が知ったり考えたりするきっかけになって欲しいと思っています。そして、いつか、衣食住含め、巷に溢れる「ペット専用」から解放されたいですね」

犬専用レストランやカフェ、犬専用特別電車、犬専用パーク、などなど、これら日本独特のペットカルチャーは、ノーズワークの普及によって変えられるかもしれない!なんて、素敵なゴールなんだろう。そうすれば、同行避難においても、犬を連れて行く、ということが自然に多くの人に認められていくと思うのだ。